第8話 D級呪体

(溜池山王駅付近にD級呪体……)


 魔法少女アプリの呪体発生報告欄、その一番上に表示されている赤字をタップし、詳細を見る。最後に呪体が確認された場所や時刻がおおよそ記されているが、肝心要の身体的特徴についてはなにも書かれていない。


(またですか……)


 内心で失望する。呪体の姿形が事前にわかるのは、一部のC級呪体以上だというのは知っている。知ってはいるが……昨日もわかってたらなぁ……。


 やっぱりガッカリしながら、私は画面をスクロールさせる。詳細ページの下部にはメッセージ欄が用意されており、ここに記載することで出動報告ができるようになっている。


「如月亞里亞ありあ、現場に向かいます、っと」


 周りに聞こえないように小声で呟きながら入力する。幸いにも、まだ他の魔法少女の書き込みはない。昨日と違って幸先の良いスタートだ。


 電車は順調に浅草に向かって走行し、10分ほどで溜池山王駅に到着した。ホーム壁に描かれた彩り豊かなイラストが私を出迎える。


 銀座線で最も新しいこの駅は、周辺に首相官邸やアメリカ大使館などを抱える、まさに官庁街の一角を成す位置に存在している。そのせいもあってか、降車客の服装ひとつ見ても、黒のスーツが似合う人ばかりだ。


 運動のために階段を使って地上に出る。呪素の気配が昨日より若干おぼろげながらも感じられる。


「あっちか」


 呪体は駅から見て首相官邸とは逆の方向、低層の雑居ビルが立ち並ぶ地域の中にあると見た。都道405号線から外れた片道1車線の細道へと入っていく。


 果たして、見立ては正確だった。呪体は街路樹の下で獲物を見定めていた、黒い鳥。つまりはカラスだ。


「今回はこれ?」


 ちょっとだけ羽根の赤いカラスを指差す。昨日のゴキブリといい、もっと可愛げのある物がいいんだけど……。


 ――まあ、いっか。生活の糧給料となるならなんでもいいや。私は肩掛けのバッグからいつものようにメモ帳を取り出し、断切魔法の魔法陣に手を置こうとした。このまま断切、変身、護符魔法の順で打っておしまい。体力は結構使うけど、その分給料にはなる。


 そう思ったのも束の間だった。


「あ〜!銀座線!」


 後ろから突如として叫び声がしたのだ。反射的に振り向く。


 そこに居たのは、南北線担当の黒岩絵里奈くろいわえりなだった。

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