第5話 傷の舐め合い
丸ノ内線も乗り入れる赤坂見附駅で稲田先輩と別れた私は、エスカレーターと階段を駆使し地上へと出た。4月なだけあって日没時間は徐々に遅くなり、空はまだ明るさを保っている。
スマートフォンを見る。渋谷から赤坂見附までは10分程度しかかからないせいもあってか、まだ16時半にすらなってない。ただお腹の方は昼食を抜いたおかげで、もう夕食直前の気分だ。怪我の功名、不幸中の幸いとはこのことなんだろうな。
駅のほぼ直上に大きく横たわっている白色のビル、その1階に約束のファミレスはある。店内に入るや否や、「こっち、こっち!」と仰々しく手を振る淡路ちゃんが視界に映った。ルーズ感のある赤みがかったカジュアルヘアが左右に揺れている。
「こんばんは〜
「前はわかんなかった癖に〜」
淡路ちゃんこと淡路小春は、両掌に頬を乗っけながら言った。
「銀座線、大変だったでしょ?」
「も〜超大変。ポイント故障ってあんなに長引くもんなんだね。丸ノ内線は?」
「通常運行。だけど仕事はゼロ。というか後楽園の仕事、南北線に奪われた」
「うわっ、キッツ」
東京23区内の魔法少女の担当範囲は、基本的に鉄道路線に則って割り振られている。私なら銀座線の沿線担当、淡路ちゃんなら丸ノ内線沿線といった感じだ。
ただ、杉並区や江戸川区のような郊外色の強く比較的路線も少ない地域ならともかく、山手線内側のアリの巣のように路線が張り巡らされている地域となると、同業による仕事の奪い合いが激化するのだ。
だからこそ、魔法少女労働組合はこのシステムを欠陥であると主張しているのだが、改善される気配は一向にない。
「亞里亞は?仕事なんかあった?」
「Gのお祓いが1件」
「ああ……、Gか……。でもあるだけマシじゃん?」
私は大きく首を横に振る。
「いやいや、全然マシじゃないよ。G踏み潰して報酬ガク下がりだわ、1日乗車券失くすわで大変だったんだから」
「うわあ、それはご愁傷様だわ」
淡路ちゃんは私と似ているところが多い。魔法少女になったきっかけだとか、経験値だとか、年齢だとか。こうしてラフに話せるのもそのおかげだ。まあ、ほぼ毎回と言っていいほど傷の舐め合いになるのは難点だが……。
私の手がタッチパネルのメニュー表に伸びる。
「ねえ、小春はなにがいい?」
「亞里亞に任せるよ」
「じゃあ、ミートソーススパゲッティ2つでいっか」
「亞里亞、それ好きだよね〜」
淡路ちゃんが少し茶化す。確かに、ここに来るたびにミートソーススパゲッティを頼んでいる。その本当の理由は淡路ちゃんにすら語ってない。
「別にいいじゃん?400円で安いしさ」
「まあね。そうだ、日曜日遊びに行かない?水族館なりなんなりにさ」
「ごめん、金欠。それにバイトが入ってる」
「ええ〜?残念」
プクリと頬を膨らませる淡路ちゃんを見て、私は自分の金銭的、そして心の貧しさを再確認した。
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