第4話 シブヤにて

「渋谷〜渋谷です。本日は電車遅れまして、大変申し訳ありません」


 真っ黄色の塗装にオレンジ色の帯が走る車体から放り出された私に、紋切り型の謝罪アナウンスが降る。時間は16時ちょうどで、夕方の帰宅ラッシュ間近、そして私の業務引き継ぎ時間だ。


 銀座線の終点、渋谷駅。2020年に移築されたというこの駅は、常に変化しつつあるこの街に相応しいよう、全てが白色に統一された近未来的な見た目をしている。天井にはM字状に湾曲した、まるで肋骨のような柱が左右に伸びており、宇宙船のコックピットに居るような感覚を覚える。


 そんな駅の頭の方、JR線との乗り換えに使われる改札口の付近に、同業の女性がスマートフォンを弄りながら立っている。


「お疲れ様です。稲田いなだ先輩」

「ん?ああ、お疲れ〜如月さん」


 稲田果穂かほは顔を上げて、無愛想に挨拶をした。稲田先輩は黒髪のボブヘアと整った顔が目立つ、容姿端麗を絵に描いたような美人だ。なによりも、魔法少女としてのランクが私よりも1、いや2は高い。


「如月さん、災難だったでしょ?銀座線止まって」

「いえいえ、そんなでもありませんでしたよ」


 私は盛大に嘘をついた。今日が災難じゃなくて、いつが災難というのか。ただ、先輩魔法少女に余計な心配をかけるわけにもいかない。


「そうなんだ。この後どうするの?直帰?」

「そんな感じで考えてます」

「まあ、バイトできないもんね。つくづく魔法少女ってブラックだよね〜」


 魔法少女は基本的に週休2日制だ。1日8時間東京中を動き回り、時間が来たら別の魔法少女と交代する。給料は東京都の最低時給、約1000円に歩合制報酬が重なる形で支払われる。アルバイトは完全禁止ではないが、ごくごく一部のケースを除き、休みの日にしかできない形だ。


「まあ、頑張ってね。応援してるから」

「先輩こそ、お仕事頑張ってください」


 私は浅くお辞儀した。家帰ったらなにしよ、そんなことを考えながら。


 その時だった。スマートフォンに通知が来た。見ると、丸ノ内線担当の淡路あわじちゃんからのラインメッセージがあった。


『今日、赤坂見附で一緒に食べない?ちょっと時間早いかもだけど』


 私はフリック操作で『うん、いいよ!』と打ち込み、返信した。すぐに既読がつき、『OK!』と手を振るコアラのスタンプが押される。


「あっ、稲田先輩。同じ電車に乗っていいですか?」

「えっ、いいけど。また淡路ちゃんからお誘い?」

「はい!」


 口角の上がった表情をしながら、先輩に元気よく答えた。

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