第3話 お祓い

「う〜ん……」


 かなりドギツイ色に染まった衣装を見ながら、私は首をかしげた。


(昔見たアニメの主人公たちは、もっと可愛い服を着てたんだけどなあ……)


 脳裏を微かな愚痴が漂う。青や赤といった鮮やかな色が複雑に混ざり合い、それでいて調和を保っていて、フリルなんかも豪華に使用されたコスチュームを思い浮かべながら。


 実際、そういったものも用意自体はされているのだ。入手方法は実績を積むか課金するかの二択。


「お金、ないしなぁ……」


 残念ながら、自分の懐事情ではかなり厳しいものがある。我慢するほかない。


 そんな貧乏思考を払拭するべく、私は淡々と作業を進める。


「次は護符魔法、っと」


 護符魔法とはその名の通り、呪体から呪素を取り除く、お祓いの中核となる魔法だ。


 さっきのメモ帳を1ページめくり、一番簡易的な魔法陣を開く。


 魔法陣に関しても、杖のようなもっとイカした魔具まぐに変更できる。これも入手方法は実績か課金かの二択だ。


 左手を魔法陣に置き、詠唱を唱える。


「呪いよこの世界から立ち去れ!そして呪体に祝福あれ〜!」


 変身魔法に比べれば遥かにマシではあるものの、やはり少し恥ずかしい。こうして見ると、元からかっこいい断切魔法の優しさが全身に染み渡る。愛してる、断切魔法。


 ちなみに、この詠唱も実績か課金かで変更できる。世の中は全て金で回っている。


(ちくしょー!この資本主義めー!)


 そう内心に吐いていると、ゴキブリの死体に光の模様が重なった。護符魔法は上手くいっているみたいだ。


 やがて光の模様は徐々にフェードアウトし、数秒もしないうちに完全に消え去った。残されたのは、地面に横たわる死体だけ。


「ふぅ、終わった〜」


 衣装が解け、断切魔法が解除され、私は元の姿に戻った。OLライクな23歳女子の姿に。


 ピコンと音を鳴らすスマートフォンを私は手に握り、アプリを開いた。通知の正体は、今回の労働に対する給与支払いだ。


「さぁ〜て、今回はどうだ……?」


 独り言を呟きながら、支払い額を見る。


 果たして、そこに書かれていた数字は……。


「は、はっぴゃくえん!?」


 800円。まさかの3桁だ。いや、その前にさっき失くした切符の補填にすら届いてないじゃん!


「はぁ〜、少なっ」


 女子らしくない渋い声が口から溢れる。


(今日の仕事はこれで終わりなんだろうか……?)


 そう思いながら銀座線の駅に向かおうとした瞬間、スマートフォンが再び鳴った。


「うん?なんだろ」


 ロック画面の通知欄に視線を送る。どうやら、ポイント故障で銀座線が止まっているらしい。復旧時刻すらわからない始末だ。


「……うん、終わりだな」


 1周回って晴れ晴れとした気分になりながら、末広町駅に向かって歩いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る