第6話 目的

「ただいま〜……って誰も居ないよね」


 私は独り言の挨拶を呟きながら、自宅の玄関扉を開けた。杉並区・久我山にあるワンルームマンション、それが私の家だ。家賃は6.5万円。当然、一人暮らし。


 電灯のスイッチを押すと、室内の状況があらわになる。いわゆる『汚部屋』とまではいかないが、ペットボトルやコンビニ弁当の容器が散乱していて、結構汚い。


(淡路ちゃんや稲田先輩が見たらドン引きだろうなぁ)


 そんなことを考えつつ、クローゼットにてスーツを脱ぎ、水色の部屋着を着る。ド派手なピンクとは違って、落ち着いた色だ。


 ルーティンワークをほぼ無意識のうちに進める。洗濯物を畳み込み、ゴミをまとめ、テレビでレンタルした映画を観た。


 今日の映画は5年前ぐらいにヒットしたラブロマンス映画だ。余命が1ヶ月と宣告された少女と、部活でスランプに陥った少年の恋模様を描いた作品。ただ、ストーリーになんの捻りもないせいか、あまり面白くない。


「失敗だな〜」


 結構期待していたせいか、それとも今日の一連の出来事のせいか、ガッカリ感がやけに大きい。


「あ〜もう寝るかぁ……」


 そう口にした時、なにかがバサっと落ちる音がした。紙の音から、なにが落ちたかはすぐにわかった。


 私はその紙のもとへ行き、そっと手に取った。紙は、とある日の新聞記事の抜粋だ。


 見出しにはこう書かれている。『圏央道で追突事故、2名死亡』と。


「お母さん、お父さん……」


 私の両親は、交通事故で亡くなった。飲酒運転をしていた車と、真正面から衝突したのだ。私が小学4年生、9歳だった頃の出来事だ。


 新聞記事を再び壁にペタッとつけ、画鋲で固定する。記憶というのは儚いもので、こうして保存しておかないとすぐに消えていく。母の作ったミートソーススパゲッティの味も、連れて行ってくれた遊園地の思い出も、……死でさえも。


「……寝るか」


 妙にしんみりとなってしまった心を払うべく、洗面台で歯を磨く。


 悔やんでも仕方がない、前に進まないといけない。それはわかっている。わかってはいるが……。


 歯ブラシを磨く手に一粒の涙がこぼれ落ちた。もう片方の手で、涙を拭う。


 ――私は、そのために魔法少女になったんじゃないか。


 歯磨き粉をペッと吐き出し、口をすすぎ、ベッドに足を進める。明日も早いからさっさと寝てしまおう、そう思いながら。


 もう一度言おう。私は如月亞里亞。魔法少女だ。そしてこれは、東京を守るため、給料のため、両親にもう一度会うために戦う物語だ。

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