エピローグ
第33話 果たされた約束
「おじゃましまーっす!」
「おじゃまします」
「……おじゃまします」
約束通り、冒険部の三人は直太の家に遊びに来た。恐竜を探しに行った日と同じ、日曜日だ。
平日は入江が妹の面倒を見ないといけないから、来られないと言っていた。平日に部室に来ないのもそういう理由だったらしい。
「いらっしゃい!」
直太は笑顔で三人を出迎える。
「こっちだよ!」
三人をリビングに案内する。
青葉はいつも来ていてだいふくがいる場所を知っているから、早足で行ってしまう。
みんなでリビングに入ると、知らない人たちが来てびっくりしたのか、だいふくがピピッと鳴いた。
「だいふく、久しぶりー」
青葉はいつもみたいにだいふくに話し掛けている。
「わあ、この子がだいふくですか」
友則は興味深そうにケージの中をのぞき込んでいる。入江も無言でだいふくを見ている。
「あ、隠れちゃいました」
残念そうに友則が言う。だいふくはえさ入れの陰に隠れている。
「だいふく、ちょっと人見知りだから。ごめんね」
「そうなんですか。鳥でもそういうのあるんですね」
友則がうなる。
「それにしても、鳥の足って本当に恐竜みたいに見えるな」
黙ってだいふくを見ていた入江が言った。
「あ、僕も帰ってきてだいふく見たら思い出しちゃった」
「あの時はすごく怖かったけど、楽しかったよね」
「青葉さん、すごいですね。けど、確かに楽しかった、かもしれないです。貴重な経験でしたから」
「先生が車で恐竜をひくとは思わなかったけどな」
入江が言って、みんなが笑う。
「ねえ、入江くん」
直太は言った。
「俺?」
「卓也くんって呼んでもいいかな」
「え?」
「あ、僕のことも直太でいいから。みんな名前で呼んでるのに、入江くんだけ名字だなって思って。一緒にあんな冒険してきたのにそれも変かなと思ってさ」
一瞬入江は黙って、
「……別に、いいけど」
顔を背けて、そう言った。
「ありがとう、卓也くん!」
「あー、ずるい! 私も、卓也くんでいい?」
「じゃあ、僕も。卓也さん」
「……」
卓也は照れたようにそっぽを向いている。
「あ、そういえば!」
急に友則が大きな声を出す。
「聞きました? あの崖から見つかった化石のこと」
「崩れたところから出たらしいよね。私たちが見つけたことにならなかったのが悔しいけど」
ぐぎぎ、と青葉が歯ぎしりする。
「それが、テリジノサウルスだったみたいなんです。どうやら、子どもの頃に足の骨に痛めて治った後があるんだって聞きました。それって」
「もしかして……」
直太は呟く。
「あの、ヒナ?」
「かもしれません。ちゃんと大人になってたみたいですよ。大きな化石みたいですから」
「そっか」
「よかったね! ちゃんとあそこで逃げ切れたんだ。きっと、あのヒナだよ! 直ちゃんが守ったおかげだよ」
ふんふん、と鼻息荒く青葉が言う。
「頑張った甲斐、あったな」
卓也は静かに言う。
「ありがとう」
嬉しくて涙が出そうになって、なんとか堪える。
「でも、本当にみんなとの約束も、果たせてよかった。だいふく、見に来てくれるって。無事に帰ってこれるか、あの時はわからなかったから」
「僕、不安でしたよ」
「俺も」
「私は絶対帰るつもりだったよ! ……ちょっと不安だったけど」
小さい声で付け足して、青葉があははと笑ってから言った。
「でもさ、でもさ。先生が宇宙人だったなんてね。言っても誰も信じてくれなさそうだけど」
「あの車もこっちに帰ってきたらすぐ消えちゃったしね。どこに入れてるんだろう?」
「僕も気になります!」
「それは、俺も気になるかな」
「今度、色々聞いてみようよ!」
「あの先生、はぐらかしそうですけどね」
「でも、聞かないで諦めるよりいいよ。冒険部の顧問なんだし、どうせならどこか連れてってくれないかな。先生がいないと行けないようなところに」
「今回は事故でしたけど」
「でも、すっごい冒険だったよ!」
それは、本当だ。すごい冒険だった。それに、やっぱり直太もちょっぴり楽しかった。
「みんなとなら、また冒険、したいな」
だから、直太は言って、
「「「うん!」」」
みんなが笑って頷いた。
恐竜時代へようこそ! 青樹空良 @aoki-akira
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます