第31話 先生の正体
乗り込んだ車の中は。
「え、広っ!」
「どどど、どうなっているんですか、これは」
「……おじゃまします」
「……」
直太は思わず、おじゃましますなんて言ってしまった。
先生は運転席に座っている。
直太たちは後部座席に座っているのだが、四人が広々と座れる空間がある。どう考えても車の幅を超えている。しかも、シートはふかふかだ。
「じゃあ、帰りますか」
当たり前みたいに先生が言う。そして、ハンドルを握った。
「ちょっと待ってください!」
が、それを青葉が止めた。
「ここって恐竜時代ですよね? それで、先生はタイムマシンに乗ってきて……。というか、私たちもどうしてここに来たかわからなくて。どういうこと、ですか? 私たち、本当に帰れるんですか? それにこの車がタイムマシンとか……」
青葉は首をひねっているが、直太はこの車がタイムマシンなのはなんとなくわかる、気がする。
「ああ、そうですね。説明がいりますね」
「もしかして、先生は宇宙人ですか?」
先生の言葉に今度は友則が割って入る。まさか、と思っていると。
「あはは。よくわかりましたね」
先生はなんでもないことのように言った。
「そうです。私は、あなたたちの言う宇宙人です」
「えーーーーーーーーー!」
青葉が叫ぶ。
直太を含む三人は反応が出来なかった。先生は続ける。
「現代に帰る前に説明した方が良さそうですね。向こうだと人目がありそうですし」
そこまで、先生が言ったところで、直太はハイ! と手をあげた。
「先生、それよりも……」
「それよりも!?」
友則がびっくりしているけれど、さっきから直太には気になっていることがある。
「はい、なんでしょう。竹内くん」
授業の時みたいに、先生が言う。なんだか恐竜時代でタイムマシンに乗っているのに変な感じだ。
「僕、あの、さっきまで一緒にいたテリジノサウルスが心配なんです。さっきティラノサウルスに襲われてケガ、してるかもしれなくて、心配で。ヒナも、ケガしてたんです。一応手当はしたんですが。だから遠くまで逃げられないかもしれなくて」
「さっき近くにいた恐竜ですね」
先生が窓の外を見る。直太も同じように外を眺めた。
その姿はもうどこにもない。
「もう逃げていったようですね。大丈夫。ティラノサウルスもまだ目覚めないでしょうし。その間に逃げ切れるでしょう。一応、ただひいただけではなくて念のため麻酔もかけておきましたので。それにしても、恐竜のケガを手当てしたんですか?」
「は、はい。僕、鳥飼ってて。ヒナの時に手当てをしたことがあったんで、それと同じだなと思って」
「それは、すごいですね。きっと、竹内くんがしっかりと手当てしたんです。ちゃんと逃げてくれますよ」
先生に言われると、少しほっとした。それに、すごいと言われてなんだかくすぐったかった。
ちゃんと逃げてくれるといい。だって、せっかく直太たちががんばったし、やっと親子で再会できたんだから。
「よかったー」
青葉も気になっていたらしく、安心したような声で言った。
それにしても車(タイムマシン?)ではねながら麻酔をかけるとか、どんな技術なんだろう。さすが宇宙人だ。だから、さっきしばらくは大丈夫だと言っていたのだとわかった。
「よかったです」
「うん」
友則と入江も、実は心配していたのかほっとしたようだ。
「それで、続きですね」
先生が仕切り直すように言う。
「はい!」
そっちも気になっていたようで、友則が身を乗り出す。直太も安心したら、先生のことが気になってきた。
だって、恐竜時代まで車に乗ってきて、しかも宇宙人で。説明して欲しいことばかりだ。
「まず、ここは本当に恐竜時代です。あなたたちは、あの崖崩れでどうやらタイムスリップしてしまったようですね。時々あるんです。何かのショックで、別の時代や場所に飛ばされてしまうことが、ね。それで、崖崩れがあった地層が関係しているのではないかと大体の時代を割り出して、あなたたちを探していたわけです。急いで探したのですが、なかなか見つからなくて。見つけたのはよかったのですが危ないタイミングになってしまいました。狙った時間に行くのはなかなか難しいんです」
「助かったから、もう大丈夫です。登場の仕方、かっこよかったし」
青葉が言う。それは、落ち着いてから思い出すと確かにそうだった。
「完全にヒーローでしたね」
友則も同じように思っていたようだ。
「そう言ってもらえると助かります」
先生が照れたように笑った。
「やっぱり、私たちタイムスリップしちゃってたんだ……。すごい」
「先生、狙った時間に行くのが難しいってことは、僕たち、元の時間には帰れないってことですか……?」
不安そうに友則が聞く。確かに友則の言うとおりだ。先生の説明通りだとしたら簡単には帰れないことになる。
「いえ、それは大丈夫です。一度行ったことのある時間と場所に行くのは難しくないんです。あまり頻繁にすると時空にとってよくないんですがね。少しずらせば、なんとかなります」
「私たち、ちゃんと帰れるんだ……」
青葉が安心したように息をもらす。
「結構楽しかったけど、ちょっと怖かったし」
えへへ、と青葉は笑う。ちょっとどころじゃなかったと思う。けれど、青葉はそれを笑い飛ばした。
「で、どうしてこの車かというと」
ごほん、と先生が咳払いをする。
直太にはなんとなくわかっている。多分、アレだ。
「車型のタイムマシンが出ているこの星の映画を見たんです。好きなんですよ、アレ。かっこいいですよね。だから宇宙船より今はタイムマシンと呼びたいんです」
先生は目をキラキラと輝かせている。
やっぱりアレだったらしい。古い映画だけど、直太も見たことがある。結構面白かったし、確かにあの車はかっこいいと思った。
「あ、わかった。アレですね」
うんうん、と友則が頷く。そして、言った。
「先生って宇宙人なんですよね? どうして地球の映画なんか見ているんですか?」
「私、実は地球マニアなんです。だから、『おやつは三百円まで』もずっと言ってみたいとも憧れていたんですよ」
なぜか先生が照れたように笑う。そして、
「三百円までじゃなかったら、今こんなにお腹空いてないのにーーーーーー!」
タイムマシンの中に青葉の叫びが響いたのだった。
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