第29話 恐竜時代の交通事故

「でも、さすがにこれ、どうやって逃げればいいのかな」


 いつも前向きな青葉も、さすがにこの状況はどうにもならないと思ってしまったみたいだ。

 直太は青葉を守るように立つ。せめて、それくらいしか出来ないから。

 入江も、青葉と友則を守るように前に出た。そして、言った。


「……友則くん、スプレー貸して。竹内くん。二匹同時にスプレーをかけて、逃げよう」

「わかった」


 直太は答える。


「で、でも、親の方は全然届かない位置に顔が……」


 友則がもう諦めてしまったように震えている。


「俺たちを食べる時に顔、近付けるでしょ。その時にやる」

「……そうだね」

「そうしたら、逃げて。いい? 竹内くん。俺がでかい方やるから」

「わかった。入江くん」


 お互いに頷いて、直太は後ろから来ている若いティラノサウルスを入江はでかい方を、見据える。

 正直、やるとは言ったけど出来る気はしない。

 だけど、ただやられるだけは嫌だ。


「逃げて帰れたらさ、本当にみんなでうちに遊びに来てよ」

「行く」

「い、行きます」

「うん」


 みんなが答えたとき、ティラノサウルスたちが距離を詰めてきた。大きいヤツなんか地響きを立てて向かってくる。

 大丈夫。さっきみたいにやればいい。それだけだ。

 引き付けて。

 ぷしゅ。

 ティラノサウルスは、その攻撃を避けた。当たり前だ。二度とジョロキアなんか食らいたくないに決まってる。

 直太の首元にティラノサウルスの鼻面が近付く。


「直ちゃん!」


 すぐ後ろで青葉が叫ぶ。

 もうダメだ。

 そう、思った。

 その時。

 ティラノサウルスが横からぶつかってきた何かにひかれて吹っ飛んだ。あまりにこの場所に不釣り合いで、最初それがなんなのか理解出来なかった。いつもなら見慣れているものなのに。

 だって、それは何も無かったところから急に現れた。わけが分からない。

 吹っ飛ばされたティラノサウルスが転がっていく。


「え?」


 直太は思わずまぬけな声を上げた。

 そのまま、それはドリフトして大きいティラノサウルスの方へ向かっていく。そして、若い方と同じように何倍もあるティラノサウルスをいとも簡単に、はね飛ばした。


「えーと……? なんでここに、車? しかもなんかレトロな……?」


 口に出したのは、青葉だ。立ち直りが早い。

 恐竜たちははね飛ばされた衝撃で倒れたままだ。

 あの車が直太たちを助けてくれた、ということだろうか。

 車はぎゃっぎゃっと音を立てて止まる。ドアがまるで鳥が翼を広げるみたいに上方向へ開く。

 その様子を直太たちは息を飲んで見守る。


「よっこいしょ」


 力の抜けそうなかけ声を掛けながら、車から出てきたのは、


「四月一日先生!?」


 青葉が叫ぶ。

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