恐竜時代で大ピンチ!
第26話 ティラノサウルス再び
「あれ、って……」
直太は呟く。
まだ、その恐竜はこちらを見ていない。じりじりとテリジノサウルスの親と距離を取りながら、ヒナを狙っているのだ。視線がちらちらとそちらを向いているのがわかる。
その姿に見覚えがある。サイズは違うけれど。
サイズ感は、どちらかと言えば映画で見ためちゃくちゃに怖い恐竜、ラプトルに近い。
だけど、あの姿形は……。
「……ティラノサウルス、です」
友則が告げた。
「あの恐竜。小さい、よ? それにすごく足が速くて……。ティラノサウルスって足遅いって言ってたよね?」
聞き返したのは青葉だ。
「はい。でも、若いティラノサウルスはまだ体が重くなっていないので小型の肉食恐竜のように狩りをしていたと考えられています」
「考えられていますって言うか、今目の前で狩りをしているように見えるんだけど?」
「そうですね。見たのはきっと僕たちが初めてですから。説が立証されたわけですね」
「いやいやいや、わけですね。じゃなくて」
ティラノサウルスを前にしてするような会話じゃない。だけど、思わずツッコまずにいられなかった。
「今のうちに逃げた方がいいんじゃないかな」
入江が言った。
正論だ。
再び、ティラノサウルスがテリジノサウルスのヒナに襲いかかろうとして、親テリジノサウルスの爪にはばまれている。
あの攻防が続いているうちはいい。
だけど。
「直ちゃん、逃げないと」
青葉が直太の手を引っ張ろうとする。
「そうです。きっと、今はまだ僕たちのことはまだ眼中に無いんだと思います。見たことのない獲物だから警戒しているのかも。だけど、いつこっちに来るかわかりません」
「逃げよう」
友則と入江が口々に言う。
だけど。
直太はぎゅっとこぶしを握る。
「ヒナたちはどうなるの? あの、テリジノサウルスは?」
誰も答えてくれなかった。
逃げた方がいい。直太だって本当はそう思っている。テリジノサウルスに気を取られている間なら逃げられる確率が高い。
「なに言ってるんですか、直太さん」
「直ちゃん……」
逃げた方がいい。
だって、みんなと約束した。
家で一緒にだいふくを見るって。
だいふくだって、きっと直太のことを待っている。帰ったらいつもみたいに嬉しそうに出迎えてくれる。
だけど。
リュックの中から顔を出して直太に向かって鳴いていたヒナの姿を思い出す。
さっき、振り返りもせずに兄弟たちのところに行ってしまったけど。
それでも。
「なんとか、助けられないかな」
思ったら口に出ていた。
みんな、何も言わなかった。
当たり前だ。自分たちが危険な目にあったら大変だ。死んでしまうかも、しれない。
それなのに。
「わかった」
青葉が言った。
「な、なに言ってるんですか!」
友則が慌てる。
「俺も、すぐ逃げた方がいいと思う」
「見てくださいよ!」
俊敏な肉食恐竜に対して、ヒナを背に戦うテリジノサウルスの動きに疲れが見える。だが、子どもたちを守ろうと必死に長い爪で応戦している。なんとかティラノサウルスを近付けずに距離を保っている感じだ。
「僕たちに何が出来るって言うんですか。ティラノサウルスがテリジノサウルスを諦めてこっちに来たらどうするんです? 今のうちに逃げましょうよ」
「うううー」
青葉が頭を抱える。直太も、だ。言ってみたものの、あの恐竜たちに対抗できる手段なんて、ただの小学生にあるわけがない。武器だって何も無い。
「……武器」
直太はハッとして呟いた。
「青葉ちゃん、アレ、まだあるよね?」
「アレ? あっ! ジョロキアスプレー!?」
青葉は気付いてくれたようだ。
「熊だって撃退できるんだよね? それなら恐竜も、ただ撃退するだけなら出来るかもしれない」
ふむむ、と友則がうなる。
「そうですね。市販のものよりは劣るかもしれませんが、かなりの濃度で作ったはずです。あるいは……」
ティラノサウルスが吠えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます