第24話 親子の再会
「あ、ちょっと……」
するりとヒナが直太の腕を抜け出そうとする。
「待って!」
まだタオルにくるまれているから、ケガをしていた足が引っ掛かったりしたら危ない。
直太は暴れるヒナをそっと地面に置いて、その体を包んでいたタオルを外した。
よかった。引っ掛かったりはしなかった。
ヒナはよちよちと危なっかしい足取りでテリジノサウルスに向かっていく。テリジノサウルスも地響きを立てながらこちらへ近付いてくる。
踏みつぶされるんじゃないかと、ちょっぴり不安になる。けれど、あのヒナの様子を見ていればわかる。
だいふくもそうだ。直太が学校から帰ってケージの中をのぞき込むと、あんな風に鳴き出したりする。
だから、きっとそうなんだ。
テリジノサウルスが、ヒナに向かって頭を下げた。ヒナの臭いを嗅ぐようにフンフンと鼻を鳴らしている。そこは鳥とは違うんだ、と思った。
そして、ヒナは親鳥にまとわりつくようにひょこひょことテリジノサウルスの顔に体をすりつける。
「……本当に親子だったんだ」
見たらわかる。
「あ、見て!」
青葉が、さっきテリジノサウルスが水を飲んでいたあたりを指さす。
「あ」
直太も思わず声を上げた。
そこに、いたのは。
「……同じだ」
今まで直太が連れていたヒナと全く同じ姿をしたヒナが二羽、同じようにピィピィと声を上げている。
そうだ。鳥のヒナだったら一羽だけじゃないない。何羽か一緒に生まれるはずだ。今まで一緒に行ったヒナは兄弟たちの元にもたもたとした子どもの動きで駆け寄っていく。
本当に兄弟みたいだ。
「よかったな」
いつの間にかすぐ後ろにいた入江が言った。
「……うん」
直太は頷く。ここに来てからずっと一緒にいたヒナだ。離れるのがさみしくないと言えば嘘になる。
「本当によかった~。お母さん見つかったんだね。なんだか嬉しそう。いや、お父さんかもしれない? どっち?」
青葉も頭をひねりながら、にこにこと親子の再会を喜んでいる。そして、
「ねえねえ、今度、だいふく見にいっていい?」
なんて言ってから、
「でも、私たち帰れるかわからないんだった」
あはは、と青葉は笑った。その顔が少しさみしそうだった。
いつも元気で、お腹いっぱいなら怖いもの知らずの青葉も、テリジノサウルスの親子と兄弟を見てホームシックになってしまったようだ。鳥みたいな恐竜を見てだいふくのことも思い出したみたいだ。
直太は友則を見る。青葉までが不安そうな顔をしていたら、友則が余計に不安になってしまうんじゃないかと思った。
だから、にっこりと笑って直太は言った。
「うん! 見に来てよ。よかったら、友則くんも来てよ。うちのだいふくは可愛いんだ」
「え? だいふく、ですか? 可愛い?」
急に話を振られて、友則がきょとんとする。そうだった。
「だいふくは、うちで飼ってる文鳥なんだ。ごめん。いきなり言われてもわからなかったよね」
「ああ、文鳥ですか」
友則も納得してくれてみたいだ。
「僕は、別に……」
「いいからいいから! 本当にだいふくは可愛いんだから!」
直太が明るく言ったおかげで、青葉も少し気持ちを持ち直してくれたみたいだ。というか、友則が不安そうにしていたから元気づけなきゃと思ってくれたのかもしれない。
青葉が直太の方を見てニコッと笑う。青葉が笑ってくれると、やっぱり安心するし嬉しい。
「それなら……、帰れたら」
ぽつりと友則が言った。
「うんうん」
こくこくと青葉が首を縦に振りながら満足そうにする。
「それなら、入江くんもどうかな?」
「俺? いや、俺の方こそ別にそこまで仲良くないのにお邪魔するのは、なあ」
「えー、仲良くないとか何。冒険部の仲間でしょ。それに、こんなところで一緒に過ごして仲良くないとか悲しいよー」
直太の家に来る話になっているのに、青葉の方が残念そうな顔をしている。
「いや、ええと」
入江が助けを求めるような顔をして直太の方を見る。
「ねえねえ。入江くんも一緒に遊ぼうよ」
いつから遊ぶ話になったのか。しかも、直太の家で。
だけど、と思う。
「いいよ。入江くんもおいでよ」
「え。いいの?」
「うん」
「それなら……」
案外、あっさりと入江は答えた。
「みんなでだいふく、見に来てよ」
直太は言う。
なぜなら。
みんなで約束をすれば、それが本当になる気がしたから。
当たり前みたいに遊ぶ約束をする。
そうしたら、本当に、本当になる気がしたから。
それは、元に時代に帰れるってことだ。
元の時代に帰って当たり前みたいにみんなで遊ぶ。
学校に行く。
そう、出来る気がしたから。
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