第20話 僕だって本当は怖いけど

「あのさ」

「なんですか?」


 やっぱり、話し掛けられた友則は機嫌悪そうに返事をする。


「なんだか目が冴えちゃって。僕もちょっと起きてようかな。次は僕の番だし」

「横になっているだけでもいいって言いますよ」

「うん。だけど。なんかさ、こうやって火、見てるとキャンプしてるような気分になって」


 直太はちょっと笑ってみせる。友則が不安な気分になっているなら、直太が少しでも平気だって顔を見せたい。


「のんきですね。直太さんは」

「あはは、そうかな」


 もう一度直太は笑う。直太だって、この状況で不安を感じないわけじゃない。だけど、友則の不安が少しでも軽くなってくれればいいなと思う。

 だって、泣いていたくらいなんだ。

 あの顔を見て、思った。

 ずっと、友則はすごくしっかりしていると思っていた。直太の知らないことを知っていて、ちょっと生意気で、年下だとかあまり思ったことはなかった。

 だけど、違った。

 友則はやっぱり年下で、直太が守ってあげないといけない存在だと思った。そんなこと出来るかわからないけど。だから、今くらいは直太がしっかりしなくてはいけない。

 ぱちぱちと木がはぜる。ゆらゆら揺れる炎を見ていると少しだけ落ち着いてくる。息を吐いて、そして吸う。


「色々あったね、今日は」


 学校の中で挨拶するみたいに、直太は言った。つもりだ。


「……ありすぎですっ」


 やっぱり、友則は少し涙声だ。


「なんなんですか、ここはっ。いきなりこんなところに来て、しかも外で寝なくちゃいけないなんて。直太さんたち、よく眠れますね」

「結構疲れてたみたいで、寝ちゃったね」

「はぁ」


 友則がため息を吐く。


「変ですよ」

「そう、かな」

「交代とか言われても眠れませんよ」

「もしかして、ずっと起きてたの?」


 こくりと友則が頷く。


「じゃあ、友則くんの方が寝た方がいいよ。僕、次の番まで起きてるから」

「だから、眠れないんですってば。……だって、どうやって帰ればいいのかもわからないんですよ。恐竜だっているし。今だって肉食恐竜が襲ってきたらどうなるかわからないし……」


 今度はもう隠しもしないで、友則は手で涙をぬぐう。

 友則が言うこともわかる。直太だって心配だ。だって、考えてもどうすることも出来ない。アニメに出てくるようなすごい道具を出してくれる猫型ロボットだっていないし、なんで恐竜時代に来てしまったかもわからない。

 本当にどうやって帰ればいいかもわからない。どうしてここに来てしまったかもわからないんだから。

 こういうとき、なんて言えばいいんだろう。起きているのが直太じゃなくて青葉だったら、笑って大丈夫だって言いそうだ。青葉が笑って言えば不安も吹き飛ぶ気がする。

 でも今、青葉は眠っている。頼りになりそうな入江も。

 起きてしまったのが直太だったのが悔やまれる。一番何も出来ない直太が起きていて何が出来るんだろう。


「……怖いよね」


 考えていたら思わず本音が出た。よけいに怖がらせてしまうんじゃないかと慌てて直太は友則を見た。また泣き出してしまったらどうしよう。


「だ、だけどさ。一人じゃなくてよかったと思うんだ。いつものみんながいるから。ええと、友則くんがいなきゃわからないこともいっぱいあったし、さ」

「別に、ここでは役に立っていないと思います」

「そんなことないよ!」


 声が大きくなってしまう。それは本当だ。


「僕より年下なのに、色々知ってて本当にすごいと思ってるんだ」


 友則がきょとんと目を丸くする。


「大丈夫だよ。入江くんだってサバイバル技術がすごそうだし、友則くんがいたら僕たちが知らないことがわかるし、それに、青葉ちゃんがいれば暗くなることはないと思うから。今は寝てるけど」


 ぷっと、友則が噴き出した。

 よかった。やっと笑ってくれた。


「なんですか、それ。青葉さんのことだけ、ふわっとしてますね」


 言ってから、友則がふぁとあくびをした。


「ほら、少し寝ときなよ」

「別に眠くなんか……」


 と、反論しながら友則はぐらぐらと揺れている。


「大丈夫。僕は結構寝れたし」

「そうですか、じゃあ……」


 かなり眠いのか、友則はふらふらと横になるとすぐに寝息を立ててしまった。

 直太は眠れたなんて嘘だ。でも、倒れるように眠ってしまった友則を見ていたら、これでよかったと思った。

 だって、泣いているままの友則を放っておけない。

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