第17話 バナナはおやつに入りません
「でもさ、火なんか付けてて大丈夫? 恐竜とか寄ってこないかな」
直太はさっきからずっと気になっていたことを入江に聞いてみた。
「そうだな。多分。動物は見たことがないものを怖がったりするから、恐竜もそうじゃないかと思う。だから、逆なんだ」
「あ! 映画とかで動物が来ないように一晩中たき火をしてるの、見たことあるかも」
「うん。あまり油断はしないようにした方がいいと思うけど」
「恐竜の生態なんて、実際に見たことがある人は誰もいませんからね。用心するに越したことはありません」
「それでも火があると落ち着くよ~。それにやっとお弁当が食べれたし」
直太たちがさっきからやけに落ち着いているのはお腹がふくれたから、というのもある。
お昼はほとんどパニック状態だった。落ち着いたおかげで、昼ご飯用に持って来ていたお弁当を夜になってようやく食べることが出来た。
明日以降のために少しでも残した方がいいのではないかとも思ったが、お弁当は日持ちしなさそうだったので食べてしまおうということになったのだ。
「デザートにお菓子でも食べる?」
なんて、青葉は普通の遠足のように言っているけど、
「それはやめよう」
入江が止めた。
「食料が調達できていないから、少しずつ食べるために残しておいた方がいいと思う」
「えー、甘いものも食べたいんだけどなあ」
「ダメだよ、青葉ちゃん。ここ、コンビニもスーパーもないんだから」
それはサバイバル慣れしていない直太でもわかることだ。
「そっかあ、でも、そうだよね。明日からのご飯ないないもんね。もう、先生ってば三百円と言わずに無制限だったらもっといっぱいお菓子持って来れたのに!」
青葉は納得しつつも、ここにいない先生に怒っているようだ。
「あ、でも……」
青葉がごそごそとリュックの中身に手を突っ込む。そして、
「じゃーん! バナナはおやつに入りませーん!」
満面の笑みで某猫型ロボットみたいにバナナをかかげる。頭の中にあのファンファーレみたいなものが流れる。
「本当に、持ってきたんだ……」
「もちろん!」
バナナがおやつに入らないからって本当に持ってくるとは思わなかった。どう考えたってギャグなのに。でも、それをやってしまうのが青葉という人であって……。
「いいね」
入江がSNSに付けるみたいに言う。しかも無表情で。
そんなツッコミが出来るんだ、なんて思っていたけど、
「バナナは栄養価も高いし、腹もふくれる。非常食にはちょうどいい」
「あ、そういうこと?」
思わず口から出てしまった言葉に、入江が不思議そうに首をかしげる。
「他に何かある?」
「あ、ううん」
すごいツッコミだと思った、なんて言っても通じない気がする。
「そっかそっか~。先生をびっくりさせようとして持ってきたけどちょうどよかったね。じゃあ、さっそく」
皮をむこうとする青葉。
「だから、非常食だってばー!」
ツッコミが追いつかない。
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