第14話 ティラノサウルスが出たぞー!
それはかすかな振動だった。
かさかさとシダが揺れている。よく見ると太い部分も。
「地震!? ええと、こういうときはざぶとんをかぶって机の下に!」
「ここ、机ないから!」
直太は思わず青葉にツッコむ。ギャグなのか、気が動転してわけの分からないことを言っているのか判断できない。
「え、じゃあ、木の下?」
「待って、これ、地震じゃないかもしれない」
あいかわらず入江は冷静だ。
「近付いてきてませんか?」
友則が言ったときだった。
アザラシが水中から出てきてブシュッと息継ぎをしたような音が聞こえた。それも、頭の上から。
こういう状況を実際に体験したことはない。でも、映画とかで見たことがある。
だとしたら、これはアレじゃないんだろうか。
アレ。
おそるおそる、直太は上を見上げる。
アレ、だ。
しかも、でかい。
逃げないといけないと思うのに、体が固まってしまっている。
「わー、またでっかい恐竜だね。しかも背中ふっさふさ。ねえ、これってまた草食恐竜でしょ。羽毛みたいなのついてるし」
だというのに、青葉はのんきに上を見上げている。
「こんなに近くに来てるなら触ってもいいかなあ」
同じく固まっていた友則がぷるぷると首を振る。そして、しぼり出すような声で言う。
「ち、違います」
「へ? 違う?」
「……これ、多分、ティラノサウルスです」
「ティラノサウルスって、あのティラノサウルス? 肉食恐竜としてむちゃくちゃ有名な?」
「そのティラノサウルスですー!」
「えーーーーーーー!」
ようやく今の状況に気付いたらしい青葉の叫びに答えるように、ティラノサウルスが吠える。
びりびりと空気が震える。
耳をふさぎたくなるけど、ヒナを抱えているので出来ない。
「走って!」
入江が叫んだ。
はじかれたように直太たちは走り出す。
あんなでかい恐竜から逃げられるんだろうかと思ってしまうが逃げるしかない。
足にざしざしと植物が当たっているけど、気にしている場合じゃない。
「ま、待ってくださいー」
友則が遅れている。
年も一番下だから小さいし、そういえば運動もあまり得意ではないと前に言っていた。でも、どうすればいいのかわからない。手はふさがっているし、おんぶして走るなんて無理だ。
「友則くん!」
青葉が手を差し出す。
「大丈夫、まだ走れるよ! がんばって!」
「は、はい」
青葉と手をつないだ友則の走る速度が上がる。
「がんばって」
青葉とは反対側から、入江が友則の背中を押す。
直太は……、とりあえずヒナを抱えて走る。
「よし! 逃げろー!」
青葉が手を振り上げる。不思議だ。
青葉が言うとなんだか大丈夫な気がしてしまう。
子どもの頃からいつもそうだったからだろうか。大変なことがあってもいつもなんとかなってきた。
後ろからはティラノサウルスの足音。
振り返って確かめたくなる。だが、
「振り返らないで。速度が落ちる」
入江に言われて、ただ前を見て走る。
頭の中には映画で見たことのある場面が浮かんでくる。ティラノサウルスから逃げる人が頭から食べられる。
冗談じゃない。
あんなの作り話だと思っていたのに。
自分が体験する日が来るなんて。
息が切れる。
だけど、止まれない。
止らない。
「スプレー効くかな!?」
青葉が叫んだ。
そうだ。熊よけのジョロキアスプレー。
効くかどうかわからないけど、少しは役に……!
「あの高さじゃ届かない!」
入江が答える。
確かにそうだ。熊よりもずっと背が高いティラノサウルスの顔には届かない。
打つ手なしだ。
とにかく走るしかない。
段々足が疲れてくる。
いつまで走ればいいんだろう。
もうどれだけ走ったんだろう。
息が切れる。
喉が焼ける。
走らなきゃ。
足がもつれそう。
耳がごうごう言っている。
「みんな、がんばって!」
青葉の声。
そして、
「あれ?」
青葉が後ろを向く。
「青葉ちゃん、振り返ったら危な……」
「いないよ、ティラノサウルス」
「え?」
拍子抜けしたような青葉の声に直太も振り向く。そして、立ち止まる。
本当に、いなかった。
「待って、横から突然襲ってくるかもしれない」
入江がまだ走り出そうとするけれど、
「もう、ダメです……」
ぜいぜいと荒い息をしながら、友則ががくんと膝をついた。
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