第13話 なんか地面ゆれてません?

「テリジノサウルス、じゃないでしょうか」


 ヒナの姿をじっと観察していた友則が、顔を上げて言った。


「この爪、やっぱりずっと気になっていたんです。くちばしのようなものがあるので鳥だと思い込もうとしていましたが」

「まさか、肉食? この爪で獲物を襲ったりとかするの?」


 と、言いながら青葉は興味津々で直太が抱えているヒナをのぞき込む。そう言われてしまうと、手に爪が食い込むんじゃないかと不安になる。でも、ヒナはタオル越しにも温かくて放り出す気分にはなれない。


「いえ、テリジノサウルスは草食です。この爪は肉食恐竜から身を守ったり、植物を引き寄せて食べたりしていたと考えられています」

「へー。友則くん本当にすごいねえ」

「似ている恐竜でデイノケイルウスかとも思ったんですが、そっちには背中に帆があるので違うと思ったんです」


 青葉にほめられて、友則が得意そうに解説を続ける。


「それにデイノケイルスならさっきのハドロサウルスと同じような口をしていますし」

「あのさ」


 放っておけばずっと話し続けそうな友則の言葉をさえぎったのは入江だった。

 みんなが一斉に入江の方を向く。友則は話を途中で切られたのが不満なのか不機嫌そうな顔だ。


「ごめん。でも、気になって。恐竜のことはわかった。俺も話を聞いてて、そのヒナは恐竜なんだろうと思う。だったらここは」


 一度、言葉を切る。


「恐竜時代?」


 それは、直太も思っていた。

 だけど、言い切ってしまったら本当になるんじゃないかと不安だった。


「え、本当?」


 すぐに反応したのはやっぱり青葉だ。


「恐竜もなんだけど、植物が変。草がない」

「草?」


 聞き返した直太に、こくんと入江がうなずく。


「普通生えてるはずの草がない」


 言われて地面を見てみる。きょろきょろと周りを見回す。


「確かに、苔みたいなものしかない?」

「あ、本当だ。絵で描くような普通のぴょんぴょんってした草がないかも?」

「変ですね。……あ」


 友則が何かに気付いたような顔になる。


「そういえば、恐竜時代にはイネ科の植物がまだあまりなかったんです。恐竜が絶滅してからようやく出現したって言われてます。白亜紀にはあったって話もありますが、まだ少なかったはずです。よく草がないことに気付きましたね、入江さん。ぼくでもそこまで見てなかったです」

「よく山歩きしてるから、気になって」

「えー、そうなんだ!」


 青葉が驚きの声を上げる。


「俺の父さんがキャンプ好きだから、小さい頃からよく行ってる」

「あ! だから冒険部に入ったの?」

「一番近いかと思って。キャンプ部がなかったし」


 それを聞いて納得出来た。さっきからやけに慣れている様子だった。いつもぼんやりしているように見えていたのに、山に来てから頼りになると思っていたんだ。


「でも、なかなか部室には来ないよね」

「それは……」


 入江が何かを言いかけたとき、


「あの」


 友則が口をはさんだ。

 そして、言った。


「なんか、地面ゆれてません?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る