第12話 本当に恐竜がいた!

 眉をひそめた友則だったが、


「えっ」


 同じような反応になる。

 直太たちは四人で並んで、目の前の光景をぽかんと眺めていた。

 だって、こんなの驚くに決まっている。

 大きいトカゲに見間違うなんて無理。

 他の動物とは全く違う、存在感。

 見たことはある。

 映画とか、アニメとか、本の中とか。

 でも、実物が目の前にいる。

 なんて言ったらいいのかわからない。

 誰も声を出せない。

 夢じゃないかと思わずにはいられない。

 だって、目の前に恐竜がいるなんて、そんなことある?

 だとしたら……。


「え、ちょっと、すごくない?」


 気付かれないようにと一応考えているのか、小さな声で青葉が言う。


「ええと、肉食、じゃないよね?」

「違う、と思います」


 友則がずり落ちそうなメガネを直してじっと目の前の恐竜を見る。

 確かに直太にもあの恐竜は肉食には見えない。恐竜と言えばよく見るティラノサウルスとかと違って、のんびりとした顔をしているように見える。

 そんなことで判断出来ることではないかもしれないけど。

 種類まではそこまで恐竜に詳しくないからわからない。

 でも、


「多分、ハドロサウルス類じゃないでしょうか?」


 友則にはわかったらしい。


「見てください。口がカモノハシみたいになってますよね。あれがハドロサウルスの特徴です。あ、柔らかそうな葉っぱを食べてます。あんな風に口が動くんだ……」


 言われて見れば、確かにカモノハシみたいな口をもちゃもちゃと動かしている。


「ホントだ。ちょっとかわいい顔かも」


 隣を見ると、青葉の口元がゆるませている。


「ハドロサウルス類は日本でもいくつか化石が見つかっているので、いてもおかしくないはずですが……」

「でも、それって恐竜時代にいたってことで今いるってヤバくない? 化石じゃなくて恐竜を発見しちゃったってこと? 大ニュース? というか、ちょっと触ってきていい? 草食なら大丈夫だよね。冷たいのかな、あったかいのかな」


 なんて言いながら青葉が突撃していく。止める間もないほどの突撃っぷりだ。


「危ないって、青葉ちゃん! 草食って言ってもでかいんだし!」


 全然聞いてない。

 よくあんな大きな動物に突撃できるものだと思う。

 少なくとも建物の一階分くらいの大きさはある。もしかして、近寄ったらそれ以上あるかもしれない。


「ふみつぶされたらどうするのー!」


 直太が叫んでも本当に聞いていない。

 腕をつかんで止めようとしたけれど、ケガをしたヒナを抱えているから手が伸ばせない。


「あー、待ってー」


 ハドロサウルスがのしのしと歩き出して行ってしまう。青葉がものすごい勢いで近付いているから、びっくりして逃げたのかもしれない。


「行っちゃった」


 ハドロサウルスにおいて行かれた青葉がぽつんと立ちすくんでいる。


「青葉ちゃん!」


 直太は青葉に駆け寄る。


「触ってみたかったなあ」

「ダメだってば。前に一緒に動物園に行ったときにも、馬に近付こうとして怒られてたのに。いつもそうやって突っ走るんだから。何かあったら大ケガしてたかもしれないんだよ」

「はーい」


 こういう時の青葉は一歳年上であることを忘れる。冒険部に入ったのは、青葉に誘われたからというのもある。だけど、放っておけなくて心配で一緒にいた方がいいかとおもったというのもある、のかもしれない。

 そして、一旦落ち着くと、


「って、本当に恐竜? ロボットだったりした?」


 恐竜だと思い込んでいたけれど、今更そういえば本物だったのかなんて思ってしまった。恐竜型のロボットは恐竜展なんかで見たことがある。


「いえ、ロボットだったら固定されているはずなのであんなに移動できるはずがありません。人が入っているとしたら動きがスムーズすぎますし」


 確かに、直太が見たことがある恐竜型ロボットは固定されていて歩いたりすることは出来なさそうだった。だからこそ、本当に襲ってこないのだと安心できたのだけど。

 だけど、今、目の前にいたのは……。


「じゃあ、本当に本物だったんだ。すごい。すごーい!」


 青葉がぴょんぴょんと飛び跳ねる。


「だとしたら、ですよ」


 友則が直太の抱いているヒナに視線を向ける。


「やっぱり、そのヒナも鳥ではなくて……」

「「恐竜!?」」


 直太と青葉の叫び声が重なって、ヒナがギャッと鳴いた。

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