第11話 熊が出たぞー!?
結局、鳥のヒナに見えるなにか(鳥か恐竜かわからないからとりあえずなにか)を放っておくことは出来なかった。リュックに入れていたタオルでそっと包んで安静にしながら保護することにした。足は折れているかもしれないので一応添え木をしておくことにした。
タオルで光が入らないように包むと、おとなしくなってくれた。これはだいふくを保護したときにもやった方法だ。暴れるとよけいにケガがひどくなってしまう。
今の直太は、そうしたヒナを赤ちゃんを抱っこするように抱えている状態だ。
「帰れればすぐ病院に見せに行けるんだけど」
「その子も気になるけど、私たちも遭難してるよね、これ」
「ですね」
そうなのだ。ヒナのことも心配だけど、まずは無事に帰ることが一番の目的になっている。
そして、
「あれ? 誰かいる?」
がさがさと少し遠くで茂みが揺れている。今度はヒナという感じじゃない。
「もしかして、先生が私たちを探しに来てくれた?」
青葉が走り出そうとする。
「待って。動物の可能性もある」
止めたのは入江だ。
「え、熊とか?」
ぴたっと青葉が足を止める。
再びガサガサと植物が揺れる音がする。風じゃない。
何か大きな動物が動いているような。
「熊が出たとかいう情報は出てなかったはずだけど、用心した方がいい。俺が様子見てみる」
「大丈夫? 入江くん」
「刺激しなければ」
熊、という単語を聞いて直太は動けなくなった。
様子を見るだけと言いながら動ける入江がすごいと思った。
ヒナを抱えているから動きにくいというのもあるけど、もしも何も手に抱えていなくても同じだと思う。
そろそろと進んでいた入江の動きが止まる。
そして、直太たちの方へ振り向く。
今まで表情がほとんど変わらなかった入江が、珍しく驚いたような顔をしている。
「も、もしかして、本当に熊?」
青葉がリュックをそろそろと下ろして、何かを出そうとしている。その動作だけで青葉が何をしようとしているのかわかってしまった。
「ちょっと待って青葉ちゃん。もしかして……」
「え、うん。せっかく作ったから熊が出るなら試してみたくて」
青葉が取り出そうとしているのはアレだ。この前、作っていた自作熊よけ、ジョロキアスプレー。
「本当にそれで追い払えるの?」
「試してみなきゃわかんないよ」
本当に熊が出るなんて思っていなかったからほとんど趣味みたいなもので作っていると思っていたけど、いざ使うとなると心配になる。なにしろ、自作だ。
「……違う」
入江が首を横に振る。
「違う?」
青葉が聞き返すと今度は首を縦に。
入江は無言でしげみの向こうを指さす。
「見ろってこと?」
こくこくとうなずく入江。
本当に熊だけど、こっちに気付いていない、とか。
真っ先に動いたのは青葉だ。
「見ても絶対に大きな声は出さないで」
「どういう、こと?」
不思議そうにしながら、しげみの向こうをのぞく青葉。
直太もそれに続く。怖いもの見たさというのはこういうことを言うのかな、なんて思いながら。だって、入江があんなにびっくりするなんてこのしげみの向こうには一体、なにがいるんだろう。
「……!」
声が出なかった。
青葉もぽかんと口を開けて、目の前にいる生き物を見つめている。
「え? なんですか? 危ない動物ではないんですか? みんなして黙って、気になるじゃないですか」
「「しっ」」
「二人してなんですか?」
後ろから近付いてきた友則に、直太は思わず青葉と二人でナイショのポーズをしてしまう。
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