ここって恐竜時代!?
第10話 恐竜、拾っちゃった?
どこまで行っても遊歩道なんてなかった。
「さっきまであったはずなのに、なんで!」
「近くにあるとわかってても迷うことはあるけど、これはおかしい。そんなに深くまで入っていなかったはずなんだ。少し道をそれただけでこんなことあるわけがない」
冷静に青葉に答えているのは入江だ。
「先生に会えないのもおかしいよ」
直太も首をひねらずにはいられない。
最初は少し移動しただけかと思った。汚れてはいないけど少し流されたくらいだと。
だけど、どこまで行ってもさっきまでの景色がどこにもない。
それに加えて、
「……ギャア」
変な声が聞こえて、びくりとする。
「今、変な声出したの誰?」
青葉が聞くが、みんな首を横に振る。
「じゃあ、なんの声?」
「ギャア」
もう一度、声がする。
「なんですか? なんですか?」
友則が後ずさりする。
「……ギャ」
そして、もう一度。
なんだか、よく聞くと弱々しいような気がする。
「ちょっと待って」
直太は耳を澄ませた。同じようなことが、前にもあった気がしたからだ。
少し離れたところから聞こえている気がする。それも地面に近い場所から。
声が聞こえなくなった。だから、さっきまでの声で場所を探すしかない。声がしたあたりのシダをかき分ける。
「どうしたの?」
「ちょっと気になって」
「なにが?」
「いた!」
しげみの向こうに羽毛のようなものが見えた。
「やっぱりだ」
動いている。
「ケガしてるみたい」
直太がシダをかき分けた先で、足から血を流した鳥が地面にうずくまっていた。
思ったよりも大きい。だいふくと比べてしまっているからだろうか。ニワトリくらいの大きさはある。
だけど羽毛とか鳥の形から、ヒナみたいに見える。だけど、こんな大きなヒナなんているだろうか。
「うそ、大丈夫?」
青葉がのぞき込んでくる。
みんな追いついてきて、ヒナを見ている。
「ヒナみたいですけど、ちょっと大きすぎないですか?」
「友則くんもそう思う?」
「はい」
なんの鳥だろう。ニワトリくらいの大きさなのにまだヒナの姿に見えるなんて。
インコとか、カラフルな鳥はいるけど日本に住んでいる鳥でこんなに大きな鳥はいるだろうか。
「どこかから逃げ出しちゃったのかな」
だいふくのことを思い出す。
周りを見回す。似たような鳥はいない。
直太はリュックの中からタオルを取りだした。
「え、直ちゃんどうするの?」
「とりあえず、保護した方がいいかと思って」
「保護ですか?」
「放ってはおけないよ」
姿が見えなくても親鳥が近くにいることもある。そういう時は不用意に拾ったり助けたりしない方がいい。
だいふくを拾ったときにお母さんと一緒に調べた。
ヒナが一羽でいるときは巣立ちの練習をしていることもあるみたいだけど、ケガをしている場合はすでに親に捨てられていることもある。
あんなに鳴いていたのに親鳥が来なかったのは、その可能性が高い。
それに、もしも誰かが逃がしてしまった鳥だったら探している人がいるかもしれない。この子は野生で日本にいるような鳥には見えない。
「なんか、爪すごくない?」
「爪?」
青葉に言われて、足を見てみる。
「本当だ。ダチョウみたい」
なんだか、がっしりしている。
「違う違う。そこじゃなくて、手? じゃなくて羽根のとこだって。ほら、そこ」
「羽根? 翼のこと?」
足をケガしていることばかり気になってそんなところ見ていなかった。
「え」
爪があった。
翼の先。
「翼、じゃない?」
翼にも見えるけど、というか、今まで翼としか思っていなかったけど。改めて見ると。
「前足?」
そんなことあるわけないけど、そう思わずにはいられない。
友則がヒナをのぞき込んでじっくりと見る。段々と表情が変わる。何かに気付いたような。
そして、言った。
「これ、鳥というより、恐竜に見えませんか?」
しばらくの沈黙の後、
「えー、そんなわけないでしょ」
あっはっはと青葉は笑った。
「……」
入江は黙ったままで。
「僕も、そう思ってた」
と、直太は言った。
足を見たときからそう思わずにはいられなかった。だいふくとは全然違う、筋肉が付いているような足を。
だいふくの足はもっと細い。多分、普段見るような鳥ならみんなそうだ。
「まっさかあ」
なんて青葉は信じていないみたいだけど、そうとしか思えない。
「もしかして、恐竜の生き残りなんでしょうか? それとも鳥が先祖返りしたとか……。それにしても、こんなに人がよく歩きに来るような遊歩道のある山の中で今まで見つからないなんてことは……」
友則はぶつぶつと呟いている。
友則の言うように先祖返りとか、現代まで生き延びていた恐竜とか、そんなことがあるんだろうか。
「でも現代に恐竜がいるなんて、そんなことあるわけないと思います」
信じられないというように友則がメガネの位置をしきりに直している。
「恐竜か鳥かわからないけど」
直太は言った。
「ケガをしているなら放っておくことは出来ないよ。このままじゃ、この子は死んじゃう」
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