第5話 恐竜の子孫、飼ってます?
家に帰ると、直太はいつもすぐにリビングに向かう。玄関からリビングに向かう途中ですでにチッチッと鳴き声が聞こえてくる。だいふくが待っているからだ。
声を聞くだけで嬉しくなる。直太は小走りになってリビングに飛び込む。
リビングのすみに置かれたケージの中で顔をゆらして、だいふくが止まり木をスキップするように直太の方に近付いてくる。
「ただいまー」
声を掛けるとだいふくが再びチッチと鳴いた。だいふくは文鳥だ。
白くて座っていると和菓子の大福にみたいに見えるからだいふく。直太が名前を付けた。
のぞき込むと甘えたような声を出す。大福みたいでふくふくしていて毎日見ていても飽きないくらい可愛い。
「直太、おかえり。ちゃんと手洗った?」
二階にいたらしいお母さんが階段を下りてきた。
「今から洗う!」
直太はもう一度だいふくのことを見てから、洗面所に向かう。手を洗ったら、ケージから出してなでてあげよう。だいふくはそうされるのが好きだ。
急いで手を洗ってリビングに戻る。
ケージを開けてそっと手を差し入れると、だいふくが寄ってきてぽすんと直太の手の中に収まる。まんまるでよけいに大福に見える。
「最初から手乗りだったし、絶対に誰かが飼ってただろうにね」
お母さんが直太の手の中にいるだいふくをのぞき込む。
「だけど、最初はエサでつらないと乗ってくれなかったよ」
「そうだったね。それに、元気になって本当によかったね。直太が拾ってきたときには足もケガしてたし、どうしようかと思ったんだから。直太も泣きそうな顔で帰ってくるし」
「だって、血が出てたし死んじゃったらどうしようかと思って」
思い出すと恥ずかしい。でも、学校帰りの道の上で弱々しく鳴いていただいふくを見たら、放っておけなくて、本当に死んでしまうんじゃないかと思って、家に着く頃には泣きたくなっていたんだ。
それからネットでケガのことを調べて、安静にさせて、最終的にはお母さんが病院に連れて行ってくれた。
「直太があんまり心配するから、お母さんもどうしても助けたくなっちゃったじゃない」
ふふっとお母さんが笑う。
「でも、迷子の文鳥保護してますの張り紙も出したし、警察にもちゃんと届けたけど飼い主は現れなかったんだよね」
「うん」
答えながら、直太は少しほっとしていた。ケガをしているからどうしても助けたいと思って拾ってしまった。けれど、今はそんなだいふくがすごく大切な存在になってしまっている。
誰かが迎えに来たら平気な顔をして渡せるだろうか。
「もしかして、だいふくが逃げ出した後に引っ越しちゃったりしたのかな。気付いてないとか、もしかして、捨てられてたとか」
「きっとそうだよ。もう一年経ってるし」
「そうだね。さすがにこれだけ経って飼い主がいなかったらね。それに、もうだいふくはうちの子だもんね」
「うん」
もし探していたら元の飼い主がかわいそうだとも思う。こんなにかわいいだいふくと、もう一緒にいられないなんて。
あの日、血が出ていただいふくの足はもう治っている。
「足が折れたとかじゃなくて本当によかった」
きれいなピンク色のだいふくの足。よく見ると、なんだか恐竜の足に似ている気がする。
恐竜の化石を探しに行くという話になってから、友則が持ってきた恐竜図鑑をみんなで広げたりしていた。それで、なんとなく何かに似ているなと思っていたんだ。
そういえば、
「映画で恐竜は鳥に進化した、とか言ってたね」
「あー、そういえばそんなこと言ってたっけ。お母さんも子どもの頃見てびっくりしたような記憶があるよ」
「だいふくは恐竜だったの?」
言葉の意味を理解しているのかいないのか、だいふくはくっくと首を動かしている。
「手に乗るくらいだからいいけど、大きくなったら怖いのかな」
大きくなっただいふくを想像してみる。でも、ふかふかで真っ白な姿が大きくなっただけで、全然恐竜なんかに見えない姿しか思い描けなくて全然怖くないし、図鑑とか映画で見る恐竜みたいにかっこよくもない。
大きくなってもきっとかわいい。それに、ふわふわの大きなだいふくに体をうずめたらすごく気持ちよさそうだ。
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