第3話 危険物取扱注意!
放課後、直太がいつものように部室に行くと、友則が机の上に理科の実験に使うような薬品を置いているところだった。
「どうしたの? それ」
「吉野さ、じゃなくて、青葉さんに頼まれたんです。先生に頼んで使わせてもらえるようにって」
直太は友則が机に置いた薬品のラベルを見る。
「エタノール?」
「はい」
「エタノールっていえば、アレだよね?」
直太はフタを開けてみる。
やっぱり、と思う。かいだことのある臭いだ。嫌な臭い。
「注射の時の臭いだ」
「嫌なこと思い出させないでくださいよ。別に、それだけに使うわけじゃないんですから。言われなければそんなこと考えずに済んだのに、全く」
ぶつぶつと友則がぼやく。友則も注射は嫌いらしい。というか、きっと注射が好きな小学生なんていない。そうに決まっている。
慌ててフタを閉める。今すぐ打たなくちゃいけないわけでもないのに、思い出しただけで怖くなるのは不思議だ。
「あ、用意しといてくれたんだ。ありがとー」
二人でぶるっていたところに、青葉がムダに明るくやってくる。
「で、一体なにに使うの? エタノールなんて、注射じゃ、ないんだよね?」
「ふっふっふー」
なぜか得意そうに、青葉がビニール袋に入った何かをかかげてみせる。よく見ると赤い実が入っているようだ。
「学校に食べ物とか持ってきたらダメなんじゃない?」
「いや、食べないし。食べたら死ぬし」
「なにそれ、怖い」
呪いの実、とか? そんなもの、ゲームとかアニメの世界以外にもあるものなのだろうか。
「ほら、今度冒険行くでしょ。山には危険がいっぱいだよね! だから、熊よけ作ろうと思って!」
「そんな危険なところに行くって話だったっけ?」
「どんな危険があるかわからないのが冒険でしょ! だから準備だけはしとかなきゃ。せっかく冒険部らしいこと出来るんだからさ。そんなぶちこわすようなこと言わないでよ~」
「そ、そうだよね。ごめん」
そういえば、昔から設定にもこだわって遊ぶ青葉だった。それにしても、
「でも、熊よけなんか作れるの?」
「作れるとか作れないんじゃなくて作るしかないんだよね、これが。ネットで調べたら熊よけスプレーって一万円くらいするんだよ!? お年玉でもちょっと無理めな設定でしょ? だからなんとか出来ないかなって調べてたの」
「で、出来そうなんだ」
「効くかどうかちょっとわかんないけど、やるだけやってみようかと思って」
てへ、と青葉が笑う。ちょっとかわいい。
「あのね、友則くんにも一緒に調べてもらったんだ。ね」
「はい」
と、友則がうなずく。
直太ではなく年下の友則に相談されてしまったことが少しさみしい。確かに、友則の方が物知りだから相談する相手として間違ってはいない。
「そこで、これ!」
再び取り出される赤い実。よく見るとしわしわしている。食べても美味しくはなさそう。
「だから、それ、なんなの?」
「じゃーん! ジョロキアー!」
「じょろ、きあー?」
「違う違う、ジョロキア」
聞いたことがあるようなないような名前だ。
「唐辛子の一種ですね。お菓子でたまに見るハバネロよりももっと辛い種類です。わかりやすく言えば、世界一辛い唐辛子です。兵器として利用されることもあるとか」
「なにそれ、怖い」
本日二回目。
「なんでそんな危ないもの持ってるの」
「おばあちゃんが栽培してて、さすがに辛すぎて食べられないって乾燥させてたやつが家に置いてあったの」
「青葉ちゃんのおばあちゃん、なに育ててるの……。そういえば庭で野菜とか育ててたっけ」
キュウリとかトマトとか、もらったことはある。なにしろ、家が隣だから。けど、そんな危険なものを育てているのは知らなかった。
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