第2話 もう一人の冒険部員

『もう一人、部員がいませんでしたか? ああ、竹内直太くん、同じクラスでしたっけ? 彼にも伝えてもらえますか? せっかくですからみんなで行った方が楽しいですからね』


 先生に言われた直太は、休み時間の教室で困っていた。

 もう一人の部員、入江いりえ卓也たくやは教室の一番後ろ、さらに窓ぎわという特等席でぼんやりと校庭を見ている。給食の後の長い休み時間だというのに友達と話しているわけでもなく、外に遊びに行く様子もない。

 直太と仲のいい友だち数人は、今日はやめておくと断ると一瞬残念そうにしていた。けれど、さっさと外に遊びに行ってしまった。休み時間は長いようで短い。早く行かないと終わってしまうからしょうがない。

 新学期でクラス替えがあったばかりでも、二クラスしかないから五年生にもなれば入れ替わりはあってもクラスに仲がいい子は何人かいる。友則が言っていたようにクラスがめちゃくちゃたくさんあった頃はどうしていたんだろう。知らない子ばかりのクラスになったら困ってしまう。

 そして、クラスが二つしかなくても話したことが無い子はやっぱりいる。直太は友だちがいないわけではないけれど、誰にでも積極的に話す方ではない。今も少し緊張している。

 入江が冒険部の部員だということは前から知っていた。だけど、放課後に部室に来たことがなかったから、ほとんど話したことがない。

 幽霊部員、というやつだ。

 それに、教室の中でもほとんど存在感がない。あまり他のこと話しているのを見たことがない。だからといって暗いという印象でもない。

 直太の気も知らずに入江は外を見て、眠そうにあくびをしている。


「あ、あの」


 意を決して、直太は入江に声を掛ける。


「ん?」


 入江がゆっくりとした動作で直太の方を向く。


「ええと、入江くんて、冒険部の部員だよね」


「うん、そうだけど。竹内くんもだよね?」

「知ってたんだ」


 思わず出てしまった言葉に、こくり、と入江がうなずく。失礼だった、かもしれない。部室で顔を合わせたことはあったけど、あんまりぼんやりしているように見えたから覚えていないと思っていた。


「あのね、今度、冒険部で恐竜の化石を探しに行くことになったんだ。入江くんも行く? あんまり部室に来ないから、先生に聞いておいてって言われたんだけど」


 パッと入江の顔が輝いたように見えた。入江だって冒険部の部員だ。そういうのが好きに違いない。でも、すぐにいつもの無表情に近い顔に戻る。入江はそういうイメージだ。一人でいるのが好きなタイプ。見間違いだったのだろうか。


「……行けないかも。それっていつ? 学校が終わってから? 放課後?」

「日曜日だよ」

「行く」

「え」


 即答だった。

 思わず、先生が恐竜を探しに行くと言ったときと同じような反応をしてしまった。

 入江が不思議そうな顔をする。


「なんか、変だった?」

「ううん、なんでもない」


 直太は慌ててごまかす。こっちから誘っておいてびっくりしただなんて言えない。今までほとんど部室にも顔を出さなかったから、ただ部員になっているだけで興味がないものだと思っていた。

 一応、先生に言われたから誘ってみるつもりだったけど、断られると思っていた。


「あ、それと」


 言っておかなければいけないことがある。


「恐竜の化石なんかすぐには見つからないと思うから、ちょっとした山歩きみたいなものになるかもって言ってたけど。それでもいい?」

「いい」

「そっか」


 正直に話したら断られるかと思った。聞いたときには直太もがっかりしたからだ。最初から、化石を探しに行くんじゃなくて山歩きに行くと言えばよかったのかもしれない。そうしたら、期待させずにすんだから。

 だけど、入江はあまり気にしてはいないようだ。確かに、山歩きに行くだけでもわくわくはする。

 部室でただ冒険したい、なんて話しているだけよりはずっといいに決まっている。


「あ、平日は部室には行けないから詳しいこと、また教えてくれると助かる」

「うん、いいよ」


 結局、部室には来ないんだな、と思いながら直太は答えた。

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