第6話 メイド、説明する


「さて、早速ですが、メイドを雇う上での説明をさせて頂きますね。まず、金銭は不要で――」


 今、彼は神崎から共同生活する上での説明を受けていた。食品の買い出しのことだったり、風呂の時間、神崎の部屋のこと、そして約束事。


 対面する形で椅子に座り、祐介はふむふむとメモをとりながら聞いていた。


 神崎の部屋は、急いで物置部屋をリニューアルして、そこを神崎の部屋とした。物置部屋だけど、割と広さもあり、個人部屋としても使える雰囲気だった。故両親の部屋は二部屋とも空いていたけど、家族写真とかもあって、ドアを開けただけで涙が止まらなくなるので、そのままにしておいた。


 だがこのメイド、都合の良いことしか説明してない。最後まで聞いた所で肝心の契約解除の説明が無かった事に気づき、祐介は口を開いた。


「あの、万が一、合わないとか金銭上の都合とかメイドが必要無くなった、とかで契約解除したい場合ってどうしたらいいんだ? 会社に問い合わせればいいのか?」


 という言葉を聞いた瞬間、神崎の目はギロッと獲物を狙うような目つきに変わり、つめた~い眼差しで祐介を捉えた。


 祐介は冷や汗を掻きながら、怖気づいている。


「契約解除? そんなのわたくしが認めません。だって一生わたくしはあなたのそばにいますから」


「いや、でも気が変わったとか――」


「シャラップ!」


(シャラップ?)


「自立できるようになったとk――」


「シャラップ!」


「人生何があるか分からないだろ!」


「シャラ――そうね、人生何があるか分からないものね。例えばわたくしが祐介様と結婚するとか。そしたら、関係性が変わって契約解除……そしてゆくゆくは子育て……80歳になっても一緒にいられるのかな…………」


「もしもーし」


 彼女は絶賛妄想の渦に巻かれ中だ。


「ハッ」


 ようやく気を取り戻したようだ。


「話を戻しましょう。わたくしは祐介様に契約解除されたら、死にます」


「そんな簡単に死ぬとか言うなよ」


「簡単ではありません。こっちは深刻なんです。祐介様に契約解除――つまり捨てられた。祐介様から必要とされてない、社会からも必要とされていない。死ぬしかありません!! わたくしは要らない存在……!」


 するといつの間にか持っていた包丁を神崎は自身の腹に向けた。


「お、おい、待て。早まるな。一旦落ち着け」


「落ち着けません。祐介様に捨てられたら、わたくしは死んでしまうのですよ? 罪悪感とか無いんですか? わたくしはもっと祐介様と同じ時を過ごしたかった……ううっ。捨てられたくない……」


 大粒の涙を零す神崎。

 祐介は動揺する。


「わ、分かったから落ち着けって。よっぽどの事が無い限り、俺は神崎を契約解除しない。約束する」


「よっぽどの事があったら、契約解除するのですね……悲しいです、ううっ」


(めんどくさいメイドだな……)


「絶対、俺は君を契約解除しないから」


「ほ、本当ですか!? 今のセリフ、ばっちり録音しましたから。約束ですよ?」


 瞬間、神崎の涙は引っ込み、表情が晴れる。


(めんどくせー)


「他のメイドも契約解除されたら死ぬのか?」


「? それは分かりません」


(なんとなくこいつの性格分かってきた。いわくつきの理由も。すげぇ病んでる)

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