第4話 いわくつきメイド
「ご主人様、一つ愚痴を聞いてもらってもよろしいでしょうか」
急に神崎はそんな事を言ってきた。
何だろう。給料が安いとか指名してもらえないとか前の主が横暴過ぎたとか?
「ああ。別にいいよ」
一応世話してもらってる身だし、一つくらいなら……、とお返しを込めて承諾した。
「それがですね、全然指名してくれないんですよー。実はご主人様が初めてだったりします」
確かに祐介がサイトを見た時点では残る三名に含まれていた。
この場合の初めて、というのはちゃんと雇ってもらえたのが初めてという意味だ。
契約依頼の電話が掛かってきた事は何度もあった。でもその度に断られる。電話中にブチッと一方的に切られるなんていうのは日常茶飯事。なのに祐介だけは真摯に彼女を受け入れていた。それが神崎にとっては嬉しかった。
(ここは飲み屋か)
酔っぱらいの愚痴にも似た彼女の態度に祐介は呆れる。
「何がいけないのでしょう?」
電話が切られる、という愚痴を彼女は祐介に話した。
「余計な質問をしたとか?」
「余計な質問……した覚えはありません。契約するにあたっての必要な個人情報の聞き出ししかしてません」
「そうか。じゃあ問題ないよな。……何でなんだろうな?」
実はそれも彼女の嘘で毎回、必要な個人情報に加えて必ずセクハラじみた質問をしている。
『元カノのお名前はなんですか?』とか『初体験はいつですか?』とか、時に質問とは違った『愛してる』や『一生、ご主人様のそばにいます』などと言うこともある。ちなみに祐介の時のセクハラ質問は『現在好きな人はいますか?』だった。けれど彼はさほど気にしていない。
元カノの名前を聞くのは社会的に元カノを処分する為らしい。
他にも『ご主人様と性行為がしたい』とつい本音が出てしまった時は即電話を切られた上に、警察に相談されたこともあった。
神崎は少し変わっている。でも妙に「全然指名してくれない」という言葉が引っかかった。
「意外。神崎ってハイスペックで美少女で何でも出来そうだし、優しいのに。少なくとも俺は君を雇って良かったと思ってるよ」
(はわわわわわ。ダメ、昇天しそう……)
祐介からの突然の褒め言葉の連続に昇天しそうになる神崎。彼女の顔は真っ赤で今にも身体が沸騰しそうだった。
「あ、ありがとうございます。褒めて頂き、大変嬉しいのですが、選ばれないのにはちゃんと理由があります。このメイド、いわくつきなのかもしれません」
「……いわくつき」
祐介は頭を悩ませる。
「いえいえ、余計な事を言ってしまったようですね。今後分かることかと思いますので。あんまり気になさらないでください」
そう告げると、神崎は気を取り直して食器洗いを始めた。
彼はまだ知らない。これから彼女の重すぎる愛に押し潰される未来が待ち受けていることを。
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