ウダウダ言っていたら、イタズラしちゃうゾ?



「そ、そんなの、き、聞いてないよ?!」

「だって、言ってないもん」


 ニッコリ笑って、私は言う。


 生徒会主催、ハロウィンパーティー。去年、彼氏がっ君が不参加なのは、知っていた。文化祭が終わった後、学校の公式イベントというイベントは無いから、期待感に胸を膨らます生徒も多い。通称、聖女のハロウィンパーティーが、第二文化祭と言われる所以である。 がっ君が、この夏コミパ――コミックパーティーに出品した新作。


『グイグイ魔女とキョキョド王子様』


 ネームを一読した時から、これって私とがっ君じゃん! って思ったものだ。

 このコスプレをハロウィンパーティーでするって、私はずっと決めていたのだ。


 生徒会本部に根回しをし。

 演劇部衣装班に直談判した。

 友人達の協力にも感謝。

 今度、パフェ奢るからね!


「こ、これはやりすぎなんじゃ……」

「そう?」


 がっ君は、恥ずかしがり屋だ。

 そして時々、自分なんかと不必要な遠慮を見せる。


(あのね、がっ君?)


 髪を描き上げた時の仕草も。

 汗をかいた時も。

 照れた顔だって。


 どれも、本当に誰より格好良いんだよ。教えたくない。教えたい。でも、やっぱり独り占めしたい。でも、誰にがっ君の本質を知らずに、勝手にジャッジすることに腹が立つ。

「でもね、希良――」

「トリック オア トリート?」


 お菓子をくれないと、イタズラしちゃうゾ。

 なんて素敵な、魔法の言葉なんだろう。





 ――ウダウダ言っていたら、イタズラしちゃうゾ?












「演劇部でーす! 仕上げのメイクに……あ、ごめん。その最中とは。もうちょっと、したら来るね、希良々」




 ガラガラ。

 何か、音声が飛び込んできた気がするけれど。

 きっと、気のせいだ。

 がっ君の王子様コーデが素敵すぎるて、もう他のことが目に入らない。



「ちょっと、希良。今、あの、そこ――」

「がっ君、目を閉じていて」


 掌で、そっと瞼を撫でて。

 王子様のキスで目を覚ますヒロインの気持ちが、分かった気がする。

 これで、起きないわけがない。


 でも、私がお姫様なら、もう少し寝た振りをしてしまうのかもしれない。

 

 あと少し、もう少し。もっともっと、がっ君が欲しい。

 私の横で、カボチャのランタンがコロンと音を立てて落ちて、それから――。






■■■





 演劇部員の要請を受けて。

 妹が、高校に乗り込んでくるまで、あと20分――。

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