『エア今さま』 下


 奥社の内部にある、あかずの扉を、神主さんは押し開いた。


 『あれは!』


 村長さんは、叫びそうになった。


 それは、金銀の飾りに、何重にも覆われてはいたが、その正体は、明白だった。


 『えあこんだ!』


 神主さんが、かなり変わった祝詞をささげた。


 『たかきざにおわします


  われらの かしこき


  エア今さまに 


  つつしんで、もうしあげまする


  われらを、はらいたまえ


  われらを あくぎょうから


  すくいたまえ


  はなたれし、あの、ひのたまから


  しゃくねつのだいちから


  くるしみから。


  いざ、ときはなち たまえやあ。


  ……………』



  作法通りの振る舞いのあと、神主さんは告げた。


 『もう、話をして宜しいです。』


 『あの、これは、えあこん。』


 『さよう。エア今さまにござります。わが村の守護神にあられます。』


 村長さんの記憶は、甦りつつあった。


 『いまや、エア今さまが、まいたちます。いざ。』


 神主さんは、神棚にあった、リモコンのボタンを押した。


 すると、あたりには、急速に爽やかな風が吹きめぐったのである。


 『これぞ、エア今さまの、恵み。神のみわざ。』


 『あの。これは、電気が必要です。しかし、いま、わたしの知る限り、発電機は、限られた場所にしかない。というか、つまり、首都しにかないはず。』


 『しゅと、とは?』


 神主さんは、不思議な顔になった。


 『やはり、村長さまは、異界の方ですか?』


 神主さんは、不安そうに言った。


 『ああ。思い出しました。わたしは、あのとき、首都から落ちた。あの空中移動都市で、発電機を修理していた。事故がありました。幸い、爆発はしなかった。あの時のようには。…………あ、あの、発電機は、どこに?』


 『はつでんき? くうちゅうとし? あ、あなたさまは、まさか、やはり、天におわした方ですか?』


 『は? いやあ。あの、つまりい。この、エア今さま、に、エネルギーを供給しているもの。です。』


 『はて、とんと、わかりませね。』


 『神主さま。まだ、隠している部屋がありますね。わたしは、エア今さまから、それを、確かめて見てくる、ように言われてきております。』


 神主さまは、真っ青になり、あたりは、かなり涼しくなったにも関わらず、もう汗だくになって、ひれ伏した。


 『やはり、エア今さまの、お使いでしたか。ささ、この、この下に、入口がありますゆえ。』


 神主さんは、床の敷物を上げた。


 そこには、地下に降りる通路が開いたのである。


 村長さんは、下に降りていったが、神主さんは、動かなかった。


 自動的に灯りが入った。


 旧式な、LEDだろう。


 しかし、村には、ついぞ、ないものである。


 村長さんは、見たのである。


 『これは、あの、出来損ないの、行方不明になった、小型化原子力発電装置! たいへんだ。逃げなくては、被爆する。この、防護服は、レプリカだよ。効果なしとみました。』


 村長さんは、神主さんをむりやりに、奥社から引っ張り出して、とにかく、逃げた。


 かつて、テロ盗賊団体『赤い塩づけ』が、地上にあった時代の原子力開発研究所から盗んだとされる、『開発小型化原発 A-302 げんしくん』に違いない。


 この村は、彼らの末裔の村なのか?


 研究所は、当時、すでに、人体移動型AI純粋水爆を開発していたが、連中は、次々に勝手な行動をとり、勝手に増殖し、地球各地を爆破してまわった。


 人形水爆といっても、威力は一体で、0.7メガトンに達する。ただし、巧みに偽装していて、検知装置には掛からない。


 げんしくんは、そうした、最新型ではない、収益を狙った、一般向け商業試作品の、しかも、明らかな欠陥品だったのだが。


 首都、白旗院の御守りは、効果があったのかもしれない。



       💡


 


 


 


 


 

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『エア今さま』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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