化け物のままでいい
月中
第1話 化け物のままでいい
私――――霧島優利(きりしまゆうり)の人生は物凄く中途半端なものだったと思う。なんでそう思うのか、って?その答えは簡単。
私には何一つ人に誇れる能力が無かったから。――――なんて事はなく、むしろある程度は能力がある方だった。
だけど、この事実がこの考えに至った答え。私は歳を重ねるたびに、能力がない方が救いがあったんじゃないか、と思う様になり始めた。
だって、よく考えてみて?落ちこぼれには落ちこぼれなりに、這い上がる方法がいくらでもあるでしょう?
実際、テストで最下位に近い子がある時から急に平均点近くを取るようになった、なんて話いくらでも聞いた事があるわ。他にも似たような話は、世界中探したら山のように見つかるでしょうね。
結局、今まで努力をしてこなかった人が突然努力をし始めて結果を残す。――他の人にとってはそれが当たり前の事でも、何故か特別素晴らしい事の様に思えてくる。
そう考えた時むしろ救いがないのは、特に優れている能力がある訳でもなく、かと言って能力がない訳でもないそんな半端な存在だとは思わない?
だって最初から努力してきたのに、とびきり素晴らしい結果も残せず、微妙な結果を残し続ける。
初めは褒められても結果が良くならなければ、相手だって慣れて褒められることも期待されることも少なくなっていき、いずれはなんとも思われなくなる…………。
そんな半端な存在が私、霧島優利だ。学生時代では学力や運動能力、社会人になってからは会社での営業成績……その全てが中途半端だった。
大抵の事は平均以上の成績を修めてはきたが五位に入れる程の実力はなく、いつも十位に入るかどうかと言ったものだった。
十位に入ったら充分じゃないかと、よく言われるが一旦考え直して欲しい。
例えば、学校の定期テストで友達が「十位だったよ!」と言ってきた時、最初は「凄い!!」と思うがそう思うのは一瞬だ。
だって「十位だったの?凄いね〜」と言った後なんて言えばいいか分からないでしょ?
「次は五位までに入れたらいいね!」――そんな簡単に順位が上がる訳ないじゃない。
「十位だなんてそうそう取れないよ。私、尊敬する!」――そうね、じゃあ私も私よりも上位の人達みんな尊敬するわ。私よりも優秀だものね。
「十位って事は一つくらいは一位だったの?」――ごめんね。どの教科も五位にすら入ってないの。
ほら、なんて言われても全部気まずくなっちゃうでしょ?まあ私の性格が捻くれているかもしれないけれど。でも相手だって何回もおんなじやり取りしてたら、疲れるに決まっているわ。
運動も同じ。だってスポーツ選手を目指している訳でもなかったし、運動部に所属している訳でもないから別に運動能力を上げる必要性がなかったんだもの。
それに得意なスポーツも無かったからどの種目でも一位を取ることができなかったし、なんなら五位にすら入ってなかった。
そうね…………、クラスに一人はいたでしょう?競技種目でチームにいたら、まあラッキーくらいの子。それが私だったわ。
でもね?社会に出たら優秀な人材になれると信じてたの。
――――けれど現実は違った。営業成績はノルマはここなせてるけれども、それは会社にとっては当たり前。会社が望んでいる人材はノルマをこなしつつ、多くの営業先を見つけてくる優秀な人材。でも、私にはそんな人材にはなれなかった。
……ね?何もかもが中途半端でしょう?
みんな褒めて認めてくれるのは最初のうちだけ。すぐに慣れて誰もが私のことなんて忘れていく。
でも…………そんな人生ももう終わる。
「もしもしっ!大丈夫ですか!?私の声が聞こえますか!!」
「………………」
「くそっ!この出血量だと間に合わないぞ!!」
「…ねぇ………こど……も……は?」
「今はその子のことよりも、自分の体を「おいっ!一緒だった子供の意識が戻ったぞ!!」!ほんとかっ!?」
あぁ、あの子は助かったのね……。
「聞こえましたか!?貴女が庇った子は助かったようです!貴女もちゃんと生きてその子と会いましょう!」
「……そう…ね」
でももうそれも叶わないみたい。
「!もしもし!?もしもし!?」
「――――――――」
薄れゆく意識の中最後に見たのは、焦りの表情を隠せないまま一心不乱に私を助けようとする名も知らない一人の救急隊員だった……………。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ゆ…ち……うり……ちゃ……」
んんっ、うるさい........。もうちょい寝かせてよ……。
「おき…………ゆう……!」
だからっ………!!
「やぁー!!!」
うるさいってば!!!
…………え?
「あ、ようやく起きたのね!おはよう、優利ちゃん!」
「にしても朝から元気な声が出てたな〜優利!」
……………………………え?
「まぁ赤ちゃんなんだもの!元気が一番よ!」
「それもそうだな母さん」
…………………………………………………え?
私は恐る恐る周りを見渡す。
「お、優利どうした〜?」
「もしかしたら、まだお家のお部屋に慣れてないのかも。優利ちゃんはいろんなものに興味津々なのよね〜?」
そう私の目の前で話すのは、私の記憶よりもだいぶ若返っている両親。そして…………、大人だった私にはありえない赤ちゃん特有の柔らかくて丸っこい小さな身体。
………………………ふふっ。
「あぎゃーーーー!!!!」
赤ちゃんになってるんですけどーーーー!!!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あの後、感情がコントロールできないからなのか泣き叫ぶように大声を出した私は、気を失ったかのように深い眠りについた。
そして今、本日ニ度目の起床をしたはがりだ。
にしても私はあの時、歩道に飛び出て車に轢かれそうになった子供を守って死んだはずだわ。なのに、何故か赤ちゃんの姿になって生きている………。
……………いや、ほんとなんなのっ!?
何で子供を守って死んだら自分が赤ちゃんになってんのよ!!
「優利ちゃ〜ん?どうしたの〜?」
「さっきは急に泣いちゃったけど、お腹すいてたのか〜?」
そう言って母さんと父さんは私のほっぺたをつつく。
「う、うぅ……!」
ちょ、母さん、父さんぽっぺたつつくのやめて……!
私の言葉なんて聞こえないと言わんばかりにほっぺたをつつき続ける両親。
いやっ……ちょ…!嫌がってる私の顔を見てっ!?
「うふふ。可愛らしいわ〜♡」
「あぁ、ほんとだな……」
「……んぶぅー」
……もういっか。好きにさせれば。
二人からのほっぺた攻撃を一回無視することにして、今の現状についてちゃんと考えないと……。もし私が本当にあの時死んだと仮定するならば、今の私は『生まれ変わっている』、または『過去にタイムスリップしている』ってことになるわね。
それは子供を救った代償とでも考えたらいいのかしら?
……………いや、この考えはどう考えても非現実的すぎるわ。でも、今、私が感じている母さんや父さんの手の感触、自分の心臓の鼓動音………。
これら全てが私が生きている、という事実を残酷に突き付けてくる。
……はぁ。もし、神様がもう一度人生を歩む機会をくれたとしたならば有難迷惑ね。だって……、あんな人生もう一度生きたい、なんて私は望んでないもの。
「………あら優利ちゃん?そんな暗い顔してどうしちゃったの?」
「も、もしかして、パパとママからのほっぺた攻撃が鬱陶しかったのか!?」
「えぇ……!?そ、そうだったの?ごめんね、優利ちゃん」
……あっ、いや、ま、まぁ、ほっぺた攻撃は鬱陶しかったけど、別に嫌じゃなかったっていうか!!なんなら!久しぶりに母さんと父さんと、触れ合えてちょっとは嬉しかったていうか....!!
そんな気持ちからか、離れていく2人の指を思わず掴んでしまった。
「………や」
「「………………」」
…………どうしよう。この沈黙がとても私の羞恥心を攻撃してくる。っていうか二人もなんか一言、言ってくれたっていいんじゃない!?
そう思って二人を見つめていると、二人は次第に身体を震わせ始めた。
な、なんで……?え、赤ちゃんとはいえ気持ち悪かったとか!?
「「うちの子、天才だわ!!/天才だ!!」」
え……?
「この子もしかして天才なんじゃないかしら!?」
「僕も今まさにそう思ったよ!」
て、天才....?この私が........?
「あ、ほら!今、私たちが優利ちゃんのこと褒めたの分かったのよ!さっきとは違って、おめめがきらきら輝いているわ!」
「ほんとだ!まだ一歳にもなってないのに僕らの言葉が分かるだなんて……!」
「「世界一の天才だ!!!!!!!!」」
…………………………………な、なんて気持ちいいの!!!!!
ど、どうしよう……!今までこんなにも褒められたことながなかったから、こんな単純な言葉にも心が喜んでしまう……!!
と、とりあえず、まずは落ち着かないと………!
「この年齢でこの頭の良さってことは、将来は偉大な人になるに決まってるわ!」
…………お、落ち着かないと!
「そうだなぁ……。優秀なお医者さんとか!?」
「いや、弁護士の先生かもしれないわよ!?」
………お、おち「「でも絶対世間で名の知れた有名人になるわね!/ね!」」
…………まぁ、いっかーーーーー!!
よくよく考えたら、前世ではあんまり褒められたことがなかったんだもの!!その分も含めて今世では褒めちぎられても良いんじゃない!?
こうなったら今世では前世での知識をフル活用して、成績トップを総ナメしてやるんだから……!!
そうしたらこれからの人生、多くの人からの称賛が私を待っているわ……!!
「んだぁ!!あぅー!!」
目指せ!!今世では天才少女!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれからあっという間に時が過ぎ、私は十五歳まで成長した。
そして今日は、私が入学する帝東大学附属高等学校(ていとうだいがくふぞくこうとうがっこう)の入学式だ。
今は大勢の新入生達が体育館で、入学式が始まるのを待っている。私の周りの新入生達は、緊張しているのか落ち着かない様子で入学式が始まるのを待っているようね。
さて、入学式までまだ余裕があるようだから今までの私の人生について軽く話しておこうかしら。
まず私はいち早く話せるように特訓したおかげか、生後八ヶ月で話せるようになったわ。
どんなに早い子でも生後九ヶ月はかかるのよ?
それも割合で言ったら、二十五パーセントという割合。
ふふっ。この時点で私は周りから天才少女と褒め称えられたわ。
そして幼稚園に入学する頃には、足し算引き算は完璧にできていたわ。それも一桁の計算だけではなく、三桁以上の計算もできていたの。
小学校や中学校でのテストは毎回満点だったわ。
つまり学年トップを常にキープしてきたってこと。まぁ、前世での知識があるから当然ちゃ当然だけど。
でも、驚くのはこれからよ!
私は成績だけではなく、運動に関しても努力を惜しまなかった。
前世ではそこそこの身体能力だったけれども、今世では赤ちゃんの頃からお転婆娘並に動き回ってやったの。ほら、幼い頃に運動してる方が将来は身体能力が良くなるって言うでしょ?
そして見事、私は運動部からは助っ人を頼まれるほどの身体能力を手に入れたのよ。
そんな訳で私は周りから、前世とは比にならない程の称賛をされてきた。
――――――――――でも、一つだけ腑に落ちないことがあるの。
それはね……?この私が!!帝東大学附属高等学校の入試試験で一位じゃないってことよ!!
確かに、この高校は中学校からのエスカレーターで高校、大学へと進学できる超難関校だけれどもよ!?
今の私は他の子よりも優秀な天才よ....?そんな私が他の子に負けるわけないじゃない....!!
この高校に入学して特に目標なんかなかったけれど、入試結果を見た私は決意したの。
そう、私を負かした柊零華(ひいらぎれいか)に勝って、私の方が優秀だって証明してみせるんだから!!
「只今より入学式を始めます。新入生、起立!」
あ、どうやら入学式が始まるようね。
この入学式が終わった後はそれぞれのクラスが、担任の先生に引率されてそのまま教室へと向かうはず。
それまでこの長ったらしい行事に付き合わないといけないだなんて....。はぁ....、ため息が止まらないわ。
でも、私はこの入学式で柊零華の見た目をきちんと把握しなければ……。
「では続きまして、新入生代表による挨拶です。柊零華さん、お願いします」
「はい」
....!きた!
私はさっきまでのだらけきった態度とは一変し、柊零華を見つめる。
あれが柊零華ね……。もしかして、生まれながらの天才は頭だけではなく、容姿も優れているのかしら?
今まで太陽の光になんてあたったことないと言わんばかりの透き通っている肌に、光り輝く腰までの金色の髪。
そしてスラッとした体型に、目にした者全員を魅了してしまうほど美しい碧眼....。
――――まさに、地上に舞い降りた天使様のような美しさだわ。
........敵ながら天晴とでも言っとこうかしら。
でも、私の目標は柊零華を完膚無きまでに負かすこと。本来の目標に関係しないことまで気にする必要は何一切ないわ。
見てなさい!今は涼しげな顔で居られるかもしれないけれども、必ず私があんたをギャフンと言わせるんだから!とりあえず、手始めに新入生テストでアイツに勝ってやろうじゃない!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よ~し、今回のテストの結果は、廊下に貼られてるから気になるやつは見ておけよ〜」
ふふっ。とうとうこの時が来たわね!!
この日のために私が、どれだけ勉強を頑張ってきたか!!
予習復習を欠かさずに学校でも勉強をし続け、休日も一日八時間以上は必ず勉強をしてきたわ....。
まぁおかげでクラスでは浮いちゃって新しいお友達はできなかったけど........。
でもそれも、この日のため!!
私の目標を達成するための華麗な一歩を、踏み出させてもらうわ!
一位 一年四組 柊零華
二位 一年二組 霧島優利
............なんで、なんでっ!!私が二位なのよ!?あんなにも毎日、勉強頑張ったのにっ……!!
お、おのれ……!柊零華め....!!
「次は絶対に勝ってやるぅ……!!」
「ねぇ、そんなに悔しそうにして誰に勝ちたいの?」
「誰にって柊零華に決まってるでしょ!?」
「私に?」
「えぇ、そうよ!!あなたにっ!……………ん?」
今、なんて………?
私は恐る恐る声の主がいる方へと振り向く。
「そんなに私に勝ちたいんだ」
「な、な、なんで!!ここここに柊零華がぁ!?」
「なんでって、私だってテストの結果を見に来たんだよ。えっと……、貴女は誰?」
「!わ、私は一年二組の霧島優利よ!覚えておきなさい!」
「うん。分かった」
「「………………………」」
き、気まずい……!!なにこの空気………!!
「ねぇ………、霧島さんはどうしてそんなに私のことを敵対視してるのかな?」
「そ、それは……」
い、言えない!!前世の知識を使ってまで天才のフリをしてきた私が、本物の天才を見てプライドをズタボロにされただなんて……!!
そんなの言えるはずがない…………!!!
「ねぇ、どうして?」
「あ、貴女に勝ちたいから」
「?だからその理由を「とりあえず!!貴女に勝ちたいの!!」……………そっか」
うっ。今世でこんな冷やかな表情で見られたの初めてだわ………。しかも、柊零華はさっきから表情が一切変わんないし!ていうか、美少女がする冷やかな目はだいぶ精神的にくるものがあるのよ…!!私のメンタルの為にも、早くここから立ち去らないと……!
「と、とにかく!そう言うことだからこれからは覚悟しとくことね!!」
「え?」
「今回は小手調べのつもりで手を抜いちゃっただけだから!!」
「……うん」
「だから!!次のテストでは絶対に私が勝つから!!」
「………そう」
「そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだからね!!」
私はドラマとかでしか聞いたことがない捨て台詞を言い放しながら、教室へと猛ダッシュで戻っていった。
我ながらなんてみっともないの……!!恥ずかしさで顔から火がでそうな思いだわ…!!
……でも、今回のテストで改めて思い知らされた。本物の天才を倒すためには半端な努力じゃ駄目………。もっと、もっと努力しないと……!!
見てなさい、柊零華!!あんたの冷やかなあの表情を、悔しさでいっぱいにしてやるんだから!!
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「柊さんってさ、凄く綺麗だけど何だか近寄りがたいよね」
「あー、分かる。雰囲気が怖いっていうかさー」
「無愛想っていうか不気味なんだよね」
「ちょっと〜そこまで言ったら可哀想でしょ」
「いいじゃん。皆思ってることだし」
「まぁ皆、あの子のことは化け物みたいだーって思ってるもんね」
「だって、あの見た目で成績も常にトップだし、それに加えて運動もできるだなんてほぼ人間じゃないでしょ」
「それは言えてるって、やば!急がないと次の授業に遅れる!」
「うわ、ほんとだ」
「早く行こ〜」
「…………………」
これは私が中学二年生の時に、クラスの女の子達が話しているのをたまたま聞いた。
私が周りから疎まられてるのは、小さい頃から知っていた。小学校の時はこの見た目が怖かったのか、あだ名は「妖怪女」だったし。
で、今は「化け物」呼ばわり………。まぁ、私も周りと仲良くしようだなんて思ってもいないし、騒がしいのは嫌いだから別に構わないけど。
だって、学生は勉学が本業だもの。私には周りの子達みたいに、仲良しこよしをしている暇なんてない。しかも私達は来年は受験生だし、附属の高校に進学するからと言って勉強を疎かにしていいというわけでもない。
だからむしろ今まで通り、独りぼっちの方が良いに決まってる。
そう、分かっているのに、なんでこんなにも心が痛いの?どうして………、どうしてこんなにも涙が止まらないの?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あれから二年の時なんてすぐに進んだ。高校は特に問題もなく進学し、中学校の時と同様入試も一位で通ることができた。
もう入学して早二週間とたつけど、学校生活も今までと変わらず、といったところだ。新しいクラスで、相変わらず友人の一人もいないまま過ごしている。多分、中学校から進学してきてる子が多いから、私の噂はもう既に皆知っているんだろう。
……私は周りと少し違うだけなのに。
いや、こんな事考えている暇があるんだったら、新入生テストの勉強に力を入れないと。高校での最初のテストだし、こんなテストで躓いていたら両親に心配かけてしまうもの。
それから私は新入生テストまでの日々を勉学へ費やし、無事にテストを終えることができた。テストが返却された今日、結果が廊下に出ているはず。
うーん、私が一位じゃないだなんてありえないとは思うけど、念のために見に行こうかな………。
他の子達も自分の順位が気になるようで、廊下は人でいっぱいだった。でも皆、私に気付くと目を逸らしながら距離を開けていく。
…………結果だけ見て、早く教室に戻ろう。
一位 一年四組 柊零華
………うん。結果は予想通り。
私は成績でずっと一位だったし、別に今更喜びとかはないけど安心感は毎回凄いんだ。緊張とかプレッシャーなんて感じたことはないって自分では思ってたけど、もしかしたら知らないうちに感じてたのかな…………。
それにしても、目の前の子凄く悔しそう。あまり順位が良くなかったのかな?まぁ、私には関係のないことだし、さっさと教室に「次は絶対に勝ってやるぅ……!!」
「………ねぇ、そんなに悔しそうにして誰に勝ちたいの?」
…………あれ?なんで私、この子に話しかけてるの?でも、口が勝手に動いて………。
「誰にって柊零華に決まってるでしょ!?」
「私に?」
え、私に………?
「えぇ、そうよ!!あなたにっ!……………ん?」
まさか私が話しかけてくる、だなんて思ってなかったんだろう。目の前の彼女は恐る恐るといった感じで、ゆっくりとこちらへと振り向いた。
「そんなに私に勝ちたいんだ」
「な、な、なんで!!ここここに柊零華がぁ!?」
「なんでって、私だってテストの結果を見に来たんだよ。えっと……、貴女は?」
「!わ、私は一年二組の霧島優利よ!覚えておきなさい!」
「うん。分かった」
「「………………………」」
えっと、お互い黙って変な空気になっちゃった……。
それにしても彼女、今まで私が出会ったことないタイプの人間だなぁ。だって、私と怖がらずにこんなにも話してくれたのは、彼女が初めてだもの。というか、家族以外とまともに目を合わせて話したのは何年ぶりなんだろ……。
………もう少し彼女と話してみたい。こんな私と話してくれる彼女についてもっと知りたい。そんな想いが、私の心の中で溢れ出てくる。
――――――こんな事、今まで想ったことないのに。
「ねぇ………、霧島さんはどうしてそんなに私のことを敵対視してるのかな?」
「そ、それは……」
「ねぇ、どうして?」
「あ、貴女に勝ちたいから」
「?だからその理由を「とりあえず!!貴女に勝ちたいの!!」……………そっか」
私に勝ちたい、か……。
「と、とにかく!そう言うことだからこれからは覚悟しとくことね!!」
「え?」
「今回は小手調べのつもりで手を抜いちゃっただけだから!!」
「……うん」
「だから!!次のテストでは絶対に私が勝つから!!」
「………そう」
「そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだけなんだからね!!」
そう言って彼女――――霧島さんは廊下を凄い速さで走っていった。それを呆然と見届けた私は、もう一度、テストの結果を見る。
一位 一年四組 柊零華
二位 一年二組 霧島優利
………あぁ、霧島さんはニ位だったんだ。
霧島さん――――私を見た目で判断しないで、周りから疎まれているにも関わらずあんなにも話してくれた珍しい子。
………さっき、彼女は私に勝ちたいと言った。
ということは、私がまた彼女にテストで勝ったら今日みたいに話してくれるだろうか?
悔しそうにしながらも、私に会いに来てくれるのだろうか?
他の子達と違って私の見た目ばかり見るんじゃなくて、私の中身を見てくれるだろうか?
友人とはまた違うかもしれないけれど、私と対等な関係で接してくれるのだろうか?
もし、もし、そうなのであれば私は――――。
「私は、化け物のままでいい」
………ふふっ。今日はなんだか自分が自分じゃないように感じるなぁ。だって、化け物のままでいい、だなんて初めてなんだもの。
私は自分の足取りがいつもよりも軽くなっているのを感じながら、教室までこの初めての感情を噛み締める様に、忘れない様にゆっくりと歩いて行った。
化け物のままでいい 月中 @tukinaka0505
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