【番外】水着イベント(DLC)

 テストも終わり、あとは夏休みを待つだけになった七月のとある週末。


「あ~だる~い」


 そろそろ帰ろうかという時分に、レオンが机に突っ伏していた。

 なんとなく構って欲しそうだったので、何があったのか聞いてみる。


「聞いてよリュクス! ボクは明日、休みだっていうのに学校に来て、プールの掃除をしないといけないんだよ!」

「そりゃまたどうして?」


 詳しく聞いてみると、どうやら運動系の授業を欠席した分の補填ということらしい。

 普通の学校なら一発で単位を落とすのだろうが、この学園なりの温情だろう。

 あのみがわりの一件以降、心を入れ替えて授業に臨んでいた姿も評価されたのかもしれない。


「でも自分でやらなきゃ意味がないだろ」

「げぇ。ここのプール、めっちゃ広いんだよなぁ」


 この学園のプールは地下空間に存在する。

 とはいっても天井は魔法で投写された空が広がっており、開放感は抜群だ。


 そして、50メートルの長さのレーンがいくつも重なっている。


 どこまでが清掃範囲なのかは不明だが、槽だけでもかなりの広さだ。


「確かに大変だな。一日掛かりかも……人手がいるか」

「か、可哀想。私も手伝いに行こうかな?」


 近くで聞いていたエルも混じってくる。


「駄目だよ二人とも。レオンくんを甘やかしちゃ」


 俺とエルが「どうする? 手伝う?」と目配せしていると、アズリアが注意してきた。


「でもさ……流石に一人で掃除は無茶じゃないか?」

「そうだよアズリア。三人でやれば早く終わるかもだし、一人でってのは可哀想だよ」

「可哀想じゃなーい!」


 遠くから叫び声をあげたのは、新人教師のモレス先生だ。

 他の生徒の注目も気にせず、ぐいぐいこちらにやってくる。


「明日、この子がちゃんと掃除してるか監視してなくちゃいけない私が一番可哀想!」


 どうやら休日出勤になってしまったらしい。

 おそらくまた押しつけられたのだろう。社会人の悲哀が表情から窺える。


「ゼルディアくんにオルファさん。手伝えるなら来てくれると助かるわ。一人で、しかもやる気のない状態でやってたら日が暮れちゃうわ。もちろんお礼はするから」


「まぁいいですけど。どうせなら……あっ、そうだ!」


「どうしたの?」


「どうせならみんなを巻き込んでイベントにしませんか?」


 俺の言葉に、四人は「イベント?」と首を傾げる。


「せっかくだから大勢人を集めて、プールで思いっきり遊ぶ。その後、参加した全員で掃除。人数が集まればそれだけ掃除は早く済むわけですし」


 どうせなら人手としてピエールさんも呼んでおこう。掃除の時だけ。


「え……でもそれじゃレオンくんのためにならないんじゃ……」


 アズリアがチラリと先生の方を窺うと。


「許可します。ちょっと楽しそうだわ!」


 そういや先生、体育会系の陽の者だったな。

 乗り気な先生を見て、アズリアがうつむいて何かを呟いている。


「水着……急いで買いにいかなくちゃ……学校のじゃちょっとね」


 アズリアの独り言は横で「うぇーい」と叫んでいるレオンの声で聞こえなかった。


「アズリア~私、水着持ってないよ~。後で買いに行こう?」

「エルも? 私も! ラトラも誘って一緒に行こう!」


 女子二人も乗り気のようだ。

 さて、どうせならBチームの男子メンバーにも声をかけるとして、後は……。


「リュクスくん。何やら面白そうな話をしていますね」


 赤い髪をなびかせて、リィラが近づいてきた。

 すかさずレオンが猫のように「しゃーっ」となるが、リィラはそれを無視。


 以前なら「お前なんか誘ってないけど」と言っていたレオンだったが、威嚇するくらいで済むようになったのは立派な成長だろう。


「ああ、実は清掃前に、プールで遊べることになってね」


「まぁ、それはいいですね。私も是非、ご一緒してよろしいでしょうか?」


「歓迎するよ。でも参加する以上、王女とはいえ掃除はやってもらうぜ?」


「もちろんです。望むところですよ!」


 掃除すら楽しいイベントであるかのように、リィラは笑う。


「さて、リィラも来るなら……」


 あいつらも誘わないとな。

 俺は離れた席に座るエリザを見つける。

 こちらのことは気にしていたようで目が合ったが……ぷいっと逸らされてしまった。


「私は行かないわよ」


 どうしたのか近づいてみると、きっぱりと言われてしまった。


「ま、まぁ無理にとは言わないけどさ」

「そこはもうちょっと粘りなさいよ!」

「えぇ……」


 叱られてしまった。


「俺はエリザとも遊びたいよ」


「い、いいんだけど……水着が嫌なのよ。ひ、人前で肌を晒すのは気乗りしないわ」


「そういうもんか……別に泳がなくても、私服――」


 そう言いかけていたとき、後ろからガシっと肩をつかまれた。


「話は聞かせてもらったよリュクス」


「クレア! そのテンション、もしかして参加してくれるのか」


「もちろんだよ。丁度最近、可愛い水着を仕入れたからね。披露する機会ができて嬉しいよ」


「奇遇ですねクレア。私も最近、新しい水着を入手しましたよ」


 おお。もしかしてDLCのアレを着てくれるのかな。それとも別の?

 どちらにしても楽しみだ。二人の水着ならきっと可愛いに違いない。


「あ……あ……」


 楽しそうに水着の話をしているリィラとクレアを難しい顔で見ていたエリザ。こちらにキッと視線を向けると、尋ねてくる。


「アンタは……私の水着、見たい?」

「え? メッチャ見たい!」

「ふ、ふーん? そうなんだ。そ、そこまで言うなら参加してあげなくもないわよ」

「やった! 嬉しいよ!」


 これであらかたのメンバーは揃っただろうか。


「さて、それじゃあ今のうちに清掃用具だけ調達しておくか……ん?」


 明日の準備をしようとしていると、クラス中から視線を感じた。


「ララ。話は聞かせて貰いましたよ。是非私たちも参加をさせていただきたく」

「▇▇▇▆▆▆▅▂────!!」

「ミーたちもいっちょ混ぜなよ~」

「プールサイドに太陽、いらへんか?」

「デュフ。デュフ……」


 結局この話題は学年中に広まり、1年生のほぼ全員が参加する特大イベントとなった。

(イブリスもちゃんと誘った)


***

***

***

あとがき


5章執筆が遅れているので、時間繋ぎに以前言っていた「書籍が重版した時用の御礼SS]の冒頭のみを投稿しました。

重版してないけど、それでも買ってくれた方へのお礼も込めて…! 本当に。本当にありがとう!

電子書籍のあらすじまだ直ってない(;;)


さて、幕間の物語は今回で終了。

次回からは第5章、夏休み編となります。

もうしばらくお待ちください。

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