エヴォリューションⅡ(後編)

 人間のおっさんに変わったピエールさんは、どこかで見た俳優に似ている。


 歳は30代後半くらいに見え、高級そうなビジネススーツを身に纏う。


 胸板は厚く、背筋もピシっとしており、髪もビジネスマンぽくきっちりしている。


 都心で働くやり手のサラリーマンといった風貌だ。


 一見すれば今までのように変身しただけにも見える。

 だが、彼から溢れ出る魔力の量と質が段違いだ。

 明らかに数段のパワーアップをしたことが窺える。


「えっと、ピエールさん……でいいんだよな?」

「はい神。私はドッペルゲンガーからドッペルレイヤーに進化しましたが、今まで通りピエールと呼んでいただいて構いません。いえ。寧ろ神が私に名付けを行いたいのであれば今すぐにでもこのピエールという名を捨てましょう」


「いや、ピエールさんのままでいいですよ」

「ピエール・サン?」

「違う」


 会話すると疲れるところは相変わらずといったとろか。


「随分と力を増したようですけど……」

「はい。身体能力、魔力量ともに、以前の数倍はパワーアップしていると思われます」

「数倍か……いや、言い過ぎじゃないか」


 以前のピエールさんの戦闘力は一般人並だったが……今なら変身能力と会わせればかなり強いのではと思わされる。


 そうだ、変身能力といえば。


「変身能力は残っているんですか?」

「もちろんです神。今まで触れた者たちの情報も余すことなく私の中に残っています」


 ドッペルゲンガーという種族は手で触れた相手の姿に変身できる。


 但し、姿が変わるだけで能力値などはコピーすることはできない。


 そして、声もピエールさんの渋いイケボのままというのがデメリットだった。


「しかし進化した私はさらに上位の変身能力を手に入れました。名付けて【完全変態パーフェクト・トレース】」


「パーフェクトトレース!?」


 なんか凄そうな技名じゃないか? 


「名前を聞いた感じ、ドッペルゲンガーの能力の弱点を克服した、完全な変身ができるってことですか?」


「大体そんな感じです」


「おお、見たいかもしれない!」


「わかりました。では準備をしますので少々お待ちを」


「準備?」

「うー?」


 首を傾げる俺とキメを他所に、ピエールさんは部屋の外へと出て行った。

 そして、10分ほどすると戻ってきた。


「それは?」

「はい神。モルガさんのメイド服を借りてきました」

「許可は?」

「……」(目逸らし)

「アンタ何やってんの!?」


 流石にライン越えスレスレだよ!?


「これも私の能力【完全変態】を使うために必要なのです。下着もあればより完全だったのですが」


 それはアウトだね。よかった。そこらへんの倫理観はまだ残っていて。


「ま、まぁいいか。黙って返しておけばバレないだろう。……チラッ」


「そんなめでみなくていい。キラメくちかたい。あんしんしろぱぱ」


「ああ。信じてるぜキメ。よし、それじゃあ始めてくれピエールさん」


「はい。では行きますよ――完全変態パーフェクト・トレース!」


 ピエールさんは大きな声で叫ぶと、纏っていたビジネススーツを脱ぎ始めた。

 そして、手に持っていたモルガのメイド服を着込む。


「おっ……おお……ああ?」


「これが我が完全変態かんぜんへんたい。いかがですか神?」


「変態じゃねーか」


 目の前に現れたのはただのメイド服を着たおっさんだった。


 モルガの姿に変身するのかと思ったが、中身は先ほどのおっさんのまま……。


 以前の変身に比べ、恐ろしく精度の低い擬態……。


 これは一体。


「ちょっと説明が欲しい」


「はい神。我が完全変態は、他者の服を着ることで魔法能力やスキルなどを複製できるという超強力な、新しい能力です」


「ほう……ドッペルレイヤーってそういう」


 レイヤーってなんだろうってずっと思ってたけど、なるほどコスプレイヤー的なレイヤーだったのか。


「モルガさんは炎属性と土属性の魔法の使い手。モルガさんと化した今の私は、その能力を自由自在に使うことができる!」

「全然モルガと化せてないけどね?」


 全部において本物に失礼だよ。


「というか、変身能力と合わせて使えばいいんじゃないですか? ピエールさんの体格のまま着てるから、メイド服がぱっつんぱっつんで限界ですよ?」


「いえ神。残念ながら完全変態は変身能力との併用ができないのです」


「嘘だろおい!?」


 強い能力だと思ったのに……この人と一緒に戦う=コスプレおじさんが横に居るって状況になるのか……うわぁ。


 強いんだろうけど。俺がこの人と共闘することはないんだろうなぁと思いつつ、適当に褒めておいた。


「オッケー。ピエールさんの能力はわかった。じゃあそろそろモルガのメイド服を脱いでくれ。いい加減伸びちゃいそうだ」

「わかりました神。あれ? チャックがきつすぎて脱げませんね」


「はぁ!? ちょっと貸してください。うおおおお! よし、なんとか脱がせた」


 俺がピエールさんを脱がせていた時。


「リュクスさま~私のメイド服知りませ……ん……か……?」

「あ……」


 俺の部屋にモルガが来た。

 俺とピエールさんを見た途端、モルガの表情が消えた。

 自然と俺の背から汗が噴き出る。


「あの……ええと。これは。そう。あのピエールさんが進化してさ。それで新しい能力を使うのにどうしても他人の衣類が必要だって言うから仕方なくさ。だからこれは決して変なことをしていた訳じゃなくてそのええと」

「ふふ。今日はよく喋りますねリュクスさま。私、まだ何も言ってませんよ?」


 ひえぇ……。


「ぴえ……まま、ぶちぎれてる。ぱぱはきょうしぬ」

「なんでだよ……俺何も悪くないだろ。なぁピエールさん。あ、いない!?」

「あいつかぶとむしになってにげた!」

「クソ……あの野郎……裏切りやがった」

「リュクスさま? あのおじさんに私の服を着せて何をしていたんですか? しかもキラメさんの前で?」

「あ……ええと。ごめんなさい」

「ごめんなさいじゃないですよね? 説明してください?」


 その後。


 ちゃんと初めから説明したらわかってくれた。


 でもちょっと怖かった。


 おのれピエール!!





リュクス・ゼルディアの手持ちモンスター


1、キメラ(幼女・娘)

2、おっさん(変態)

3、次章にて


***

***

***


おかしい。Web小説主人公の手持ちモンスターはスライム、ドラゴン、フェンリル辺りと相場が決まっているのに……。

ちなみにピエールさんの見た目のイメージは去年の朝ドラに出てた要潤〇みたいなイメージです。


前回、書籍の購入報告くれたかた本当にありがとうございました!

マジで嬉しかったです(;;)!!




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