第162話 エピローグ&あとがき

 次の日。


 教室にレオンがいないのを見て肩を落としたが、すぐに思い至る。

 その足で、屋上へ向かう。

 やはり、レオンはここにいた。


「おはようレオン」

「ああ、おはよー」


 朝とはいえ、屋根のない屋上には初夏の太陽光が降り注いでいた。

 レオンの白い肌が焼けてしまわないか心配な程に。


 俺とて、日焼けなんてしようものならメロンに怒られてしまう。

 事は手短に済ませなくてはならない。


「熱いだろ? 中に入ろうぜ」

「いやー。うーん」

「熱中症になっちゃうぞ?」

「え? 今、『ねぇチューしよう』って言った?」

「言ってねーよ」


 小学生か。


「その手は食わないぞ。話を逸らそうとしても無駄だ」

「ちっ」

「ほら。教室に行こうぜ」


 俺は手を差し伸べたが、手すりに寄りかかったレオンは「むにゃー」と気の抜けた顔をしていて、全くこちらに来ない。


「何? もしかして、ビビってんの?」

「はぁ? 違うけど」

「じゃあ行こうぜ」

「うーん。気乗りしないなぁ~」


 今度はへにゃへにゃと体を揺らす。

 可愛らしいのでずっと見ていたいし、「じゃあ今日はサボるか!」と言ってしまいたくもなる。


 でも、それじゃ駄目だと昨日気づいたじゃないか。


 例えレオンに嫌われても、俺は。


 俺は一応残していた最後のつけ爪に魔力を込める。


 するとつけ爪が砕け、付与されていた魔法が発動する。


 その魔法とは……。


「わ……うわあ!?」


 レオンの頭上にヘイローが現れ、体が宙に浮く。

 残しておいた最後の魔法。それはエルから貰ったものだ。


「な、なるほど付与魔法でアイツの魔法をね。でもリュクス。エンジェルフライは上下移動しかできないんだよ? 忘れてた?」

「いや。これはエンジェルフライじゃない」

「へ? うわ!?」


 俺はヘイローを操作し、レオンの体をこちらに引き寄せる。


「エンジェルフライの強化版、アークエンジェルフライだってさ」

「強化版……アイツがそんな魔法を?」

「ああ。エルだけじゃない。みんなお前に追いつきたくて、魔法の練習を頑張ってるみたいだぜ」

「……そうなんだ」


 表情からレオンの感情が読めない。

 でもきっと、みんなの思いが伝わっていると信じたい。


「でも」

「なんだ?」

「ボクの席にはさぁ。アイツが座ってるんだろ……はぁ憂鬱」

「なんだそんなことか。それなら心配ないぜ」

「え?」

「あのみがわりならもう来ない」

「なんで?」

「元々数日で機能停止する仕様だったんだよ」

「そ、そうなんだ」


 ほっとしたようなレオンの顔。


「わかったよ。リュクスがそこまで言うなら、教室に行ってあげる」

「コイツ……。わかったよ。ほら」


 俺はアークエンジェルフライを解除すると、レオンを着地させる。


「えぇ!? あのまま運んでよ~」

「甘えるな。自分で歩け!」

「ちぇ~楽ちんだったのに」


 俺とレオンは並んで屋上を後にする。


 階段を下り、廊下を歩く。


 俺たちの間に言葉はなかった。


 しばらく、二人の足音だけが廊下に響く。


「ねぇ。あの偽物を倒したのって、リュクスなんでしょ?」

「なっ……。なんのことやら。俺は何も知らないぜ」


 相変わらず鋭い。

 レオンの前でラトラの付与魔法を使うのは、ヒントを上げ過ぎたかもな。


「もう。嘘が下手だなぁ。わかった。じゃあそういうことにしておいてあげる」


 ニッコリ笑って、レオンは先に駆けだした。

 こら廊下を走るな! そう言おうとした俺の耳に。


「ありがとう」


 と、小さく聞こえた。


 そして教室の入口に立ったレオンは、しばらく扉を見つめ、やがて意を決して中に入っていった。


 あと三年。


 卒業して、俺たちが離れ離れになる日は確実に来る。


 その時、今日ここで勇気を出した自分をレオンが誇れるようになることを祈る。


 何も最高の学園生活なんて目指さなくていい。


 掛け替えのない親友がいて。


 片思いの女の子がいて。


 馬鹿をやれる友人がいて。


 嫌いな奴がいて。


 一度もしゃべらなかった奴がいて。


 最後まで相容れない奴がいて。


 そういう当たり前の学園生活を、レオンたちと共に過ごせたら。

 俺も。三年後。卒業した後に。

 きっと笑顔で、レオンの旅立ちを見送ることができるはずだ。


「……ん?」


 教室の中から、なにやら笑い声が聞こえた。

 一体みんなは何を話しているのだろう。

 楽しい話なら俺も混ぜて欲しいと、教室へと足を踏み入れた。


 ***


 ***


 ***

 あとがき


 これにて『魔眼の悪役に転生したので~』の第四章完結となります。


 今章の目標であった「書籍発売前に完結!」を達成でき、非常に満足しております。


 第三章があれもこれもと書きたいことを書きまくった章であるのに対し、今回は「一切の無駄話を廃する!」を目標に書き切りました。


 見合いを断られた見合い相手が学園に乗り込んできたりとか、カスハラ四天王が集結する話とか、そういう話を差し込む余地はありましたが、上長でしょう。


 今後のための前振りをしっかりしつつ、リュクスとレオンが真の親友になるためのストーリーを書くことができ、非常に満足しております。


 とはいえ、みがわりの扱いについてはいろいろ悩みました。

 当初の予定では原作レオンそっくりなみがわりにリュクスがメロメロになり、レオンと仲違い……なんて展開もありましたが、あまりにもリュクスが嫌な奴に見えたり。

 他にもいろいろとプランがありましたが、いろいろあって今の形に。


 なんとなく、面白くしきれなかった感があります。


 この辺、書籍でここまで出せることになったら要改善ですね。


 そう、書籍! 書籍の第一巻がいよいよ来週7月10日発売です。

 正直僕はプレッシャーで震えております。


 カラー口絵、挿絵を含めると第1章に登場したほぼ全てのキャラクターがイラスト化されておりますので、是非チェックしてみてください!

 個人的には夏祭りの口絵がお気に入りです。


 また、デビュー作の時にあまり効果がなかったので、他の作家さんのように「書籍発売記念SS」みたいなのはやりません。

 ただ「大ヒット感謝SS」として水着回を書きました。が決定したら投稿しますのでお楽しみに!


 さて、いつから開始かは未定ですが、第五章は夏休みのお話になります。


 メインの敵などは一切出ず、ゆる~いお話にする予定です。


 最近出番の少ないヒロインズにもメイン回をあげたいと思っていますし、結構長くなると思いますが、なんとか夏中には終わらせたい所存……(無理かも)


 ここまでお読み頂きありがとうございました。


 それではまた次回。

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