第138話 クロニクル

 巨大な石で出来た数枚の歯車が組み合わさったボスモンスターの名はクロニクルギア。


 その巨体で体当たりしてくるだけという非常にシンプルな攻撃を行うモンスターだった。

 無論ギアがかみ合う部分に挟まれればタダでは済まないとはいえ、ここまで進んできた俺たちにとって、クロニクルギアは大した敵ではなかった。


 体が岩で出来ていたのも大きい。


 ここまで散々メタル系モンスターに苦しめられてきたのもあって、楽に倒すことができた。


 そしてクロニクルギアを一度倒したところでクリスタルコアを一つ破壊。


 通常ならクロニクルギアのHPが回復するのだが、クロニクルギアは姿も変えた。

 所謂進化という奴だろうか。


 その名もクロニクルスチーム。


 半円状の鉄の球体から触手のようにポンプが生えたモンスターで、高温の蒸気を撒き散らし攻撃してくる。

 俺たちの動きに対応するかのように高温の蒸気に身を包み、近接戦を封じてきた。


 だがこちらも出現から数十秒でリィラのヘブンズフェニックスが直撃、二つ目のコアクリスタルが砕けた。


 そして敵は、次の戦いでまた姿を変えた。


 お次はクロニクルコイルという電球型のモンスターに変化し雷属性の攻撃を操る。


 ここまで来て、おおよそ敵の姿が変わることへの法則に気が付いた。


 敵の姿は地球の科学技術の発達を象徴するような姿になるようだ。


 なるほど【進化の宝珠】と呼ばれる素材アイテムを持つだけのことはある。


 要するに倒す度に進化していく敵というわけだ。


 さらに戦闘スタイルは、前形態を倒したものに対抗するような戦い方へと変化する。

 その後も電球→人型ロボットへと姿を変えるボス。


 だがいくらこちらの戦い方を学習し、対抗策を持ち出しても俺たちは6人パーティー。手の内が尽きるということはない。


「ハイジョ。ハイジョ。シンニュウシャヲハイジョスル」


 4つ目の形態クロニクルロボ。

 某車に変身する金属生命体のような二足歩行のロボが腕を振り回す。

 人に近い動きには賞賛の言葉を送りたいが、残念ながら人に近い方がこちらとしてはやりやすい。


「食らえ――ダークライトニングスラッシュ!」


 俺の持つ刀【九頭竜刃】がクリティカルを発動。

 一振りで九連撃となったダークライトニングスラッシュが鉄の装甲を砕き、クロニクルロボは沈黙した。


「キノウテイシ。キノウテイシ」


 クロニクルロボのモノアイが消える。


 すると、頭上の4つ目のクリスタルが砕け散り、再び起動するクロニクルロボ。


「見た目変わってないじゃん。怒濤の変身ももうネタ切れかな?」

「いや……」


 ビジュアルこそ殆ど変わっていないが、どこか装甲が綺麗になってツヤを増したような?


「次はまた私の番ですね――ヘブンズフェニックス!」


 敵が攻撃に移る前に、リィラが先制。

 不死鳥の姿を象った聖なる炎がクロニクルロボを直撃するが……。


『無駄です。私のボディはモノゾイドメタルでコーティングされています。あなた方の魔法攻撃は無力です』


 ここでようやくメタル系ダンジョンとしての実力を出してきたという訳だ。


 しかもスピーカーから発せられる音声は抑揚はないものの、さっきより格段に人間らしくなっている。


「なんかしゃべり方も賢そうになってるっす」

「あはは。魔法が駄目なら……剣はどうかな? ロボットさん!」


 不敵に笑ったクレアが一瞬で距離を詰めると、その剣を振るった。

 だが敵はスムーズな動作でクレアの攻撃を回避する。


『私はロボットではありません。高性能アンドロイド、クロニクルヒューマノイドといいます』

「くっ……たぁ!」

『貴方の攻撃は容易く私の装甲を切り捨てる。ですが対処は可能。貴方が見極める刃の筋を少しズレしてやればいい』


 これは賢そう……ってもんじゃない。実際に賢くなっている。


 今までのメタル系は剣や魔法を受け付けない装甲こそ厄介だったが、動き自体は単純だからやりやすかった。

 だが目の前のコイツは……人間と同じレベルに思考して戦うことができる強敵という訳だ。


『――クロニクルミサイル』


 しかも、本人は否定していたが普通にロボっぽい攻撃も仕掛けてくる。

 飛ばされたマジックミサイルを迎撃しつつ、皆で対抗策を考える。


「見た感じ弱点とかないけど……どうするのよ!?」

「……う~ん」


 エリザの質問に答えることなく、俺は敵を魔眼で観察している。


 ヤツは追撃をすることなく、敢えてマジックミサイルを捌く俺たちを観察しているように見える。


 もし以前より頭脳が進化したのだとしたら、こちらの動きを学習されている可能性もある。

 ただでさえ、進化の度にこちらに対するメタを一つ増やしてきた敵だ。


 ヤツの頭上に浮かぶコアクリスタルは残り一つ。

 つまりあと一回は絶対に進化されるということ。


 今までのヤツは俺の居た地球の人類が歩んできた科学技術をイメージしたような姿へ進化してきた。


 しかし、流石に今対峙しているレベルのアンドロイドなんて居なかった。

 胡椒みたいな名前の化物みたいな奴とかなら覚えているが、人間と変わらない二足歩行が可能なロボ……じゃなかった、アンドロイドなんて見たことがない。


 つまり、今の時点でさえ未来的な存在なのだ。


 あと一回進化したらどんな技術体系を含んだ姿になるのかは想像できない。


 今は下手に俺たちの手の内を晒すより、さっさと倒して最終形態に進化させてしまった方がいいかもしれない。


「というと……やっぱり落石?」

「そうなるな……リィラ!」

「わかりました――アースブレイク!」


 リィラは杖を地面に当てると、土魔法を発動。


 クロニクルヒューマノイドの足下で地割れが起き、足場が悪くなる。


『これは……これは』


 人間の真似をして二足歩行にしたのが仇となった。あの足場では上手く動けない。


「――ストーンフォール!」


 そして続けてリィラが土魔法を発動。

 敵の頭上に大きな岩が出現する。


「リュクスくん!」

「オッケー任せろ! ――イミテーション!」


 その岩を素材にイミテーションを使い、さらに巨大な岩石を作り上げそのまま落下させる。

 あれほどの質量で押しつぶせばモノゾイドメタルの装甲も関係ない。


「いっけえええええ」

『その手は読んでいました』


 だがその瞬間、クロニクルヒューマノイドは右手を光線銃のように変形させ、迫り来る巨大岩石に向ける。

 銃口を固定し、ギリギリまで引き付けるように狙いを定める。


『巨大岩石など、このイレイザーピストルで消滅させてくれる……何!?』

「あはは! 動きを止めてくれてありがとう! お陰で見やすかったよ!」


 その光線銃が発射される前に、クレアが腕ごと切り落とした。

 そして瞬時に敵の側から離脱する。


『くっ……』


 それ以上の対抗手段を持っていなかったのか、諦めたようにクロニクルヒューマノイドは岩石の下敷きになった。

 そして岩石が消えた後、ぺしゃんこになったクロニクルヒューマノイドに最後のクリスタルが砕け注がれる。


「やった! やりましたねリュクスくん!」

「長かったなぁ」

「次で最後ね」

「これでようやく進化の宝珠が!」

「ああ。気合いを入れていこう」


 敵の姿が変わっていく。

 長かったこのダンジョンの最後の戦いが始まろうとしていた。


 ***


 ***


 ***


「……はっ」


 夕刻。

 合宿所の待合室にて、イブリスが置いていったおもちゃで遊んでいたキメラは何かを感じた。

 直感に似た何か。


 それは、リュクスたちに危機が迫っていることを告げるものだった。


「どうしましたキメラちゃん。おトイレですか? うんちなら私も着いて……」

「ちがーう!」

「あら、それじゃあなんでしょうか?」


 事情を説明しようとするキメラだが、上手く言葉が出てこない。


 それに、目の前に居る「ママ」と慕う女性、モルガに全てを話して巻き込むのは気が引けた。

 キメラにはなんとなくわかっていた。


 このままリュクスたちの元へ向かえば、自分もタダでは済まないと。


「まぁま……」


 だから最後に、モルガに対して自分の思いを告げることにした。


「ん? どうしましたキメラちゃん?」

「まま。キメラをたくさんかわいがってくれて……ありがとう!」

「え……それってどういう……キメラちゃん!?」


 次の瞬間、キメラの姿は消えていた。

 なんとなく、リュクスの元へ向かったのだとモルガは考えた。


 五年前。


 十年祭のパーティーへと向かうリュクスを見送った時のような妙な胸騒ぎがあった。


「リュクスさま……キメラちゃんをどうか……どうか」


 モルガは得体の知れない不安を感じながら、遠くに居る主とキメラの無事を祈った。



***

***

***

あとがき


順番通りにやっているとトンデモない長さになるのでこのような感じですまぬ!


そして小説フォロー数31000人突破です! 感謝しかない!


あと今まで言えてませんでしたが毎回いいねハート押してくれる方、ありがとうございます! 滅茶苦茶励みになっております!



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