第137話 進化の宝珠

 ……10


 ……9



「ガルオオオング」


 SF的なキャノン砲を背負ったドラゴンの虚ろな瞳がこちらを捕らえる。


 肉体に直接ブッ刺された動力パイプがドクドクと脈打つと、砲に魔力が集中していくのがわかる。


 クールタイム終了と共に即発射の構えだ。そしてその照準は……俺とイブリスに向いている。



 ……7



「リュクスさん!」


 イブリスが叫ぶ。

 彼女のアイテムボックスが解放され、周囲に数多の素材が舞った。


 ポジトロンドラグーンは目を細める。目くらましか、それともこれを攻撃と認識したのかもしれない。


 だが俺たちの狙いは違う。



 ……6


 ……5



「任せろ――イミテーション」


 俺はイブリスの用意した素材を使用し、イミテーションを発動。



 ……4



 このエリアを漂う巨大な魔法反射パネルを複製する。


 何枚も何枚も。



 ……3



 ……2



「ガルオオオオオオオオング!?」


 異変を感じ取った様子のポジトロンドラグーン。だがもう遅い。

 既にその姿は分厚いパネルに覆われて、見ることは出来ない。



 ……1



 ……0



 高濃度の魔力を肌で感じ、レーザー攻撃が放たれたことがわかった。


 だがそれを目視することはできない。


 わかるのは、ガチガチに固めたパネルの隙間から僅かに漏れる光と衝撃波だけ。


「終わったんですかね……」

「みたいだな」


 数秒の後。

 ポジトロンドラグーンを覆い尽くしたパネルが砂のように消えていく。


 そして、その中には何も残されてはいなかった。


 俺たちの勝利だった。


「ああ……跡形もなく」

「はは。なんとか勝ったぜ。やったなイブリス」


 俺は勝利の余韻に浸りながら、イブリスに拳を突き出す。

 イブリスはそれに応えるように拳を突き出し……たりはせず。


「ああああああああ素材いいいいいいい!? 何も……落ちてないいいいいいい」


 ポジトロンドラグーンが何の素材も落とさなかったことに発狂するのだった。


 ***


 レオンたちと合流し、ポジトロンドラグーンが守っていたこのエリアの奥へと進むと、見たこともないくらいの豪華な扉があった。


 間違いなくボス部屋だろう。


「皆さん、この先から感じます! この先に私の求める素材【進化の宝珠】が存在すると!」

「なんだこの女。変わり身早いな」


 さっきまでふて腐れていたにも関わらず、ボス部屋を見た途端テンション爆上げのイブリスを見て、レオンが呆れた。

 イブリスの変わり身の早さに、いつもならレオンを窘めるリィラも苦笑いである。


「それがイブリスの言っていた素材か?」


「はい! 後はその【進化の宝珠】さえあれば、呪縛札の封印を解除し、この中に封じられている力をキメラさんに返してあげることができます!」


「なぁ。前から思ってたけどそれって何か根拠とかあるの?」


 レオンの冷静な問い。


 一見冷たい物言いにイブリスも正気を取り戻したのか、怯えたように俺の方を見た。

 いや俺の方を見られても。


「え、ええと。根拠とかはないんすけど。でも自分は昔からこうなんです。自分の中にもう一人の自分が居て、何を作ればいいのか、それには何が必要なのか……教えてくれるみたいな? 違うかな? ええと……ああ、難しいっす」


 たどたどしく語るイブリス。


 もちろん本当にイブリスに助言をしている人格があるわけではなく、今のはイブリスの分かりづらい例え話だ。

 おそらくこれは、本来言葉にするのが難しい、とても感覚的なことなのだろう。

 感覚を言語化しようとして、苦労しているようだ。


 先ほどのクレアがモノゾイドの装甲を切れる感覚を俺たちに説明できていなかったように、イブリスもまた、理屈を越えた才能がもたらす超感覚的な事象を説明できずにいる。


 それは俺のような凡人には一生理解できないものなんだろうな。


 レオンも聞いてわかるもんじゃないと理解したのか、それ以上イブリスを問い詰めることはしなかった。


「どうしますか? 休憩します?」


 リィラの提案に、全員が頷く。


「賛成~」

「そうね。多分だけど、次が最後の戦いになりそうだわ」


 こちらを見るエリザに、俺は頷き返す。


「エリザの言う通り、この奥に居るヤツがダンジョンの最終ボスだろう。万全の準備をして挑もう」


 長かったダンジョン探索もいよいよ大詰め。


 必ず勝利し、目当ての【進化の宝珠】を手に入れる。




 ***



「あれは……何?」


 万全の準備を整えボス部屋に突入した俺たちを待ち受けていたのは……。

 巨大な歯車型のモンスターと、その頭上に浮かぶ5つのコアクリスタルだった。



***

***

***

あとがき


今日結構ストックしたからしばらく定期的な更新が出来そうだZE!

GW中にこの章終わらせられるように頑張るだZE。


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