第136話 勿体ないとは言うまいな

「ビィイイイイイイ」

「お出でなすった」


 再びエリアに侵入した俺たちに立ちはだかるブラストホーネット。

 雨のように降り注ぐマジックミサイルを適当に捌きつつ、レーザー攻撃を待つ。


「来た!」


 エリア奥からの超高密度の魔力反応。

 放たれたレーザーはパネルを数回反射して、俺たちに向かって降り注ぐ。


「――ファントムステップ」

「――フォトンドライブ」


 俺とレオンはヒロインたちをそれぞれ二人抱えると、二手に分かれて回避。

 レーザーの直撃を避ける。


「ビィイイイイイイ」


 レーザー攻撃はブラストホーネットだけを飲み込み不発に終わる……が、その衝撃は凄まじい。

 エリア全体に爆風が広がる。


 俺たちは土魔法で壁を作り、それを防ぐ。

 ここまでで既に20秒……思ったより時間を消費したな。


「よし、それじゃ行くぞ」

「はいっす!」


 俺はイブリスをおぶる。そしてスキルを発動しようとするが……。


「ビィイイイイイ」

「ちっ、新手か」


 別のブラストホーネットが行く手を阻む。


「あはは、ここは私に任せて、リュクスたちは先へ」

「ああ、任せたぜクレア」


 俺はブラストホーネットをクレアに任せ、ファントムステップを発動。

 ポジトロンドラグーンの居る場所まで加速する。


「グエェ……振り落とされそうっす」

「無駄口叩くな。舌噛むぞ」

「リュクスさん冷……痛」(舌を噛んだ)


 何故イブリスだけを抱えていくかというと、イミテーションでパネルを作るための素材が大量に必要だからだ。

 全部俺の魔力で補うにはちょっと大きすぎる。

 なので、無限に近い容量のアイテムボックスを持つイブリスを連れていく必要がある。


「リュクスさん! 新手です!」

「ちっ、早いな」


「ビィイイイイイイ」


 新たなブラストホーネットが進路を塞ぐ。


「くっ……応戦する」

「駄目っす! ここで立ち止まったら間に合わない!」


 だがあの弾幕を乗り切れるとは……。


 その時。


 不死鳥の形をした炎がこちらにやってくる。


「あれは!?」

「リィラ! エリザ!」


 聖なる炎ヘブンズフェニックスを土魔法で作った鎧に包み、エリザのマジックブースターで強化した……といったところか。

 さながらフルアーマーフェニックスと化した聖なる炎はブラストホーネットとその弾幕を飲み込んで、俺たちが進むべき道を開いてくれた。


「ビィギィイイイ」


 撃破までは至らないが、それでもブラストホーネットをどかせることには成功した。


「このまま進むぞ!」


 残り60秒。

 もう時間は無い……というのに、またブラストホーネットの襲撃を受ける。


「こいつらしつこすぎっす」

「いや、大丈夫。どうやら追いついたみたいだ」

「へ!?」


 俺はスピードを緩めない。

 何故なら、アイツが駆けつけてくれたのを感じたからだ。


「リュクスの邪魔するやつは、ボクが許さないよ!」

「レオン!」

「ここはボクに任せて先に行け!」

「ああ、頼んだぜ」


 ペロリと舌を出しピースするレオンにここを託す。


「で、でもレオンさんの剣じゃブラストホーネットには……」


 確かに魔法が一切通用しないメタル系の上に飛行しているブラストホーネットに対し、レオンの戦闘スタイルは相性が悪い。


「むっ」


 イブリスの声が聞こえていたのか、レオンの表情が曇る。


「じゃあ見せてやるよ地味女――フォトンディメンジョン!」

「フ、フォトンディメンジョン!? いくらネズミを呼んだところで」

「いや……」


 フォトンディメンジョンは何も小動物を生み出すだけの魔法じゃない。


 高価な素材を消費することで、もっと大きくて強い疑似生命体を作ることも出来る。

 ゲームではアイテムを消費すれば8種類ほどの呼びだし先が存在した。

 まぁ……消費するアイテムが貴重過ぎて、エリクサー症候群の俺はもっぱらネズミばかり出してたけど。


 レオンに関しては「もったいない」とかそういう思いはないらしい。


 何故ならレオンが魔法陣に投げ込んだのは……。


「食わせるのは【異星のカケラ】現れよ……光の巨人!」


「ああああマジかよ!?」


 レオンが使ったのはゲーム中では一つしか手に入らない【異星のカケラ】というレアアイテム。そ、それをこんなところで使うなんて!?


 大丈夫だよな?


 ゲームはそういう仕様だから一個しか手に入らないだけで、この世界ではそんなことはないんだよな?


「へあっ!」


 魔法陣から光輝く巨人が出現。


「ビィ!?」


 流石のブラストホーネットも面食らったのか逃げようとするが……。


「へあっ!」


 巨人の手がその体を掴む。そして……。


「ビビビビビビビ」


 そのまま握りつぶした。


「さぁリュクス! 行って!」

「おう、サンキューなレオン!」


 ニカっと笑うレオンと光の巨人を残し、俺たちは奥へと進む。


「強!? メッチャ強!? もうあの巨人だけでいいんじゃないっすか!? ダンジョンクリアじゃないっすか!?」


「駄目だ。あの巨人は確かに強いが、数分しか実体化できないんだ」

「短い! でもこのエリアを攻略するくらいなら……」

「いや、巨人をよく見てくれ」

「あ、あああ!?」


 イブリスも気づいたようだ。


「た、体育座りしてるっす。しかもそれでも狭いからか、首がちょっと曲がってます!?」


 そう。光の巨人にとってダンジョンは狭すぎるのだ。

 なんか子供が作った狭いかまくらに無理やり入ってきた大人みたいないたたまれない感じで体育座りしている。


「とはいえあの巨体。俺たちより目立つからか、他のブラストホーネットは全部巨人の方に向かっていったな」

「なら後は……」

「ああ。目の前のアイツを倒すだけだ」


「ガルオオオオオオング」


 残り10秒。


 俺とイブリスはポジトロンドラグーンと対峙した。


***

***

***

あとがき


光の巨人はあれですね…いつか使おうと思って結局使わないままゲームクリアしちゃうやつですね。

「なんで模擬戦のときに使わなかった?」に関してはアイテムを持ち込んでいなかったのでしょう。

天井がよく見えないくらい大きなドームで体育座りなので相当でかいっすね。


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