第130話 装備とか準備とか

 時は少し遡って、出発の30分前。

 ダンジョンの入口に集合した俺たちは、互いの装備を確認していた。


「リュクスはあまり変わんないね~」

「お前もな」


 俺とレオンは学園支給の戦闘用学生服に身を包んでいた。


 見た目は普段の制服と同じだが、特別な生地による斬撃耐性や衝撃を吸収する効果が加え得られた一品だ。


「その腰に下げた剣は……刀っていうんだっけ?」

「ああ」


 俺がメイン装備として選んだのは【九頭竜刃くずりゅうじん】という刀。

 扱いは難しいが、上手くいくと一振りで九連撃を繰り出せる面白い剣だ。


「それも留学中のダンジョンで手に入れたのもなの?」

「いや……そのはずなんだけど。よく覚えてないんだよ」

「え? なんで?」

「気づいたら持ってた」

「何それ怖い」


 トコトワのダンジョンを攻略していたら、知らない間に持っていた。


 ちょっと怖いが、呪いの装備とかではないし、強力な装備なのは間違いないので使わせて貰っている。


 後は装飾品として制服の下に【忍者ポーチ】を巻いている。

 これはイブリスが作ってくれた簡易的なマジックポーチで、筆箱くらいのサイズながら1平方メートルほどのアイテムを収納できる。


 俺はこの中にいくつかの武器の元になる素材アイテムを収納。


 状況に合わせてイミテーションを使い、戦況にあった武器を作って戦うつもりだ。


「レオンは俺の渡した装備で良かったのか?」

「うん。大満足だよ」


 レオンの装備は、俺と同じ戦闘用学生服、そして背中にグランセイバーⅢ(密造)。

 この前の模擬戦で使用したものは国王に納品済みだが、余った素材で密かにもう一本作って隠し持っていたのだ。


 それを今回はレオンに使って貰う。


 そして、左手にはメタルシールドを装備。

 この盾はダンジョンでドロップした何の変哲もない盾。いわゆるコモンアイテムだ。

 もう少し性能のいい盾もあるのだが、防御力と軽さを天秤にかけ、レオンが選んだのがこのメタルシールドだった。


「あんまり武器にこだわりはないんだよね。あるものは何でも使うスタイルでさ」

「でも親父さんとダンジョンに潜ったりしてたんだろ? それなりにいい武器が手に入りそうだけど」

「いい武器は地元の人にあげちゃうからさ、あのおっさん」

「あ~……なんかそんな感じするなあの人」

「だから剣も安物をずっと使ってたかな。使い古して折れたら次に剣が手に入るまで素手とか魔法で戦わなくちゃいけないしね」


 なるほど剣が強いにも関わらずそこまで剣頼りでもない、オールラウンダー的な戦い方が出来るのはそういった経緯からか。

 常に剣が手元にあるわけじゃないという環境がそうさせたのか。


「唯一のレア装備はこれかなー」

「その首輪か?」

「そ。これは【フォトンリンク】。光魔法発動による魔力消費を抑えてくれるアイテムさ」

「確かに光魔法専用アイテムは地元の人には配れないな」

「思えばこれが唯一、父親から貰ったものかもしれないね」

「そんなことないだろ」

「そうかなー」


 俺とレオンが互いの装備を確認し終わった頃。


「やぁ、早いね君たち」

「クレアか!」


 次に姿を現したのはクレアだった。


 白いスーツのような制服とマントは【騎士団の隊長服】だろう。

 そして腰にはこれまた王国騎士団の正式採用装備である【パラディンソード】。


「この女、こういう格好すると本当に男みたいだな」

「騎士団装備一式って感じだな。カッコいいよクレア」

「あはは、ありがとう。昨日の内に届けて貰ってね。間に合ってよかったよ」


 騎士団には鎧装備もあるが、クレアは機動力をとったのだろう。

 一見ただの洋服だが、防御性能はかなり高いはずだ。


「あら、私が一番かと思ったのに」


 次に到着したのはエリザ。

 俺やレオンと同じく学園から支給された戦闘用制服の女子用を身に纏っている。


 手には俺が渡した杖【デプスチャージャー】を大事そうに抱えている。


 この杖は留学中にダンジョンで手に入れた杖で、補助魔法の効果持続時間を増やす能力と、持ち主の意識外からの攻撃に対し、水の障壁をオートで出現させ防御する能力を持っている。

 そして首からは、これまた俺が渡した【竜の牙の首飾り】をかけている。


 効果は補助魔法使用時の魔力消費を節約できるというもの。ただし効果量は少ない。まぁないよりマシというくらいか。


「すいません。遅くなりました」


 続けて登場したのはリィラだった。


 エリザと同じく女子用の戦闘用制服を来ているが、さらのその上から、真紅のマントを羽織っている。

 その名も【スカーレットロード】。あらゆる攻撃への耐性が上昇するスカーレット王家専用装備である。


「私の初陣のためにと、お父様が送って下さいました」

「似合ってる。まさに王女って感じだ」

「ふふ、ありがとうございます」


 にっこり笑うリィラの手には、身長と同じくらいの長さを持つゴツい杖が握られている。


「お前、軽々持ってるけど……ゴリラかよ」

「ち、違います!」


 レオンの突っ込みに慌てて否定するリィラ。

 リィラの持つ杖の名は【プロミネンス】。真紅の宝玉が組み込まれた非常に大きな杖だ。

 早朝、リィラの部屋にこれを運んだレオン曰く「クソ重い」とのことだった。


「私の手にはすごく馴染みますよ。おそらく、相性がいいのでしょう」


 このプロミネンスも、俺が留学中にダンジョンで手に入れた装備である。


 ゲームにも登場した杖でテンションが上がっていたが、俺が使ってもイマイチ性能を発揮できず、さらに重すぎて使えなかった。


 そこでようやく、この杖がリィラ専用装備だったことを思いしたのだが、なるほど専用装備とはこういうことかとなんとなく理解した。軽々しく持ち運んでいるところを見るに、リィラが持つと軽くなるのだろう。


 効果としては杖を使って発動した魔法のダメージを増加させる能力を持っている。


 また、消費魔力を増大させることで相手の魔法耐性を一段階無視することもできるという専用装備だけあって非常に強力なものだ。


「あれ? 【雛竜の涙】はつけてないのか?」


 もう一つ、攻撃魔法の消費魔力を抑える指輪を渡していたのだが、リィラの指には見当たらなかった。


「いいえ、ちゃんと持っていますよ」

「指に嵌めないと効果がないぞ?」

「では、リュクスくん。お願いしてもよろしいですか?」


 そう言うとリィラは雛竜の涙を俺に手渡し、左手を差し出してきた。


 俺はその手を取ると、リィラの中指に嵌める。


「その指なんですね」ぷくー

「え……ごめん何か間違えた?」


 なんかリィラが怒ってしまったので、横に居たエリザに視線で助けを求める。

 だが「知らないわよ」とそっぽを向かれてしまった。


「ふわぁ。皆さん早いっすねー」


 最後にジャージ+白衣という普段通りの格好をしたイブリスが到着。


 俺たちはダンジョン調査に向けての最終確認に移るのだった。



 ***


 ***


 ***


 時系列がごっちゃになってすみません。


 4日目


 早朝、リュクスとレオンで装備を配るため各部屋を回る →みんな装備を調えて入口に集合→見送りにモルガ、キメラたちがやってくる。キメラ駄々こね→ダンジョン突入

 といった感じ。

 先にこの話やれよと思われるかも知れませんが……忘れてたので急遽書きました。


 また、昨夜リィラとクレアのお風呂が遅れていたのは、王都から運搬されてきた装備を受け取っていたから…という裏事情も。

 エリザのコーラル家にも代々伝わる装備はあるのですが、コーラル領は単純に遠かったので出発には間に合いませんでした。


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