第128話 女子風呂リターンズ

「うおおお! おっきいおふろ!」

「キメラさん。滑るので走っちゃ駄目ですよ」


 モルガです。

 リュクスさまが学園長さんとお話している間に、キメラさんと合宿場の大浴場にやってきました。

 時刻は21時。


 ゼシオン様のご厚意で宿泊させて頂いている私たちですが、他の貴族のご令嬢とご一緒する訳にはいかないということで、誰も使っていない時間を狙っての入浴です。


 浴場の閉まる時間が22時なので、のんびりはしていられません。


「さてキメラさん。ささっと髪を洗って……あれ」

「うわーぴんくちゃーん!」

「え……」


 先に浴場に突撃したキメラさんが叫んでいます。

 気づきませんでしたが先客がいたようです。

 よく見れば、脱衣スペースの端っこに着替えが……。


 私は急いで浴場に入ると、湯船に浸かっていた人物に頭を下げました。


「申し訳ございません。まさかこの時間にご利用されているとは」

「私、人に肌を見られるのが嫌なのよ。だからこの時間にしていたんだけど……」


 先に入浴していた人物、エリザ・コーラル様は表情の読めない顔でこちらを見つめていました。


「それは……本当に申し訳ありません」

「う?」

「でもアンタたちなら構わないわ。怒っている訳ではないから、自由にして頂戴」


 リュクスさまから「学生の風呂利用は17時~20時まで」と聞いていたので、どちらかというとルール違反をしているのはエリザさまなのですが……。


 まぁ御三家ともなると、そういったものを無視できるのかもしれませんね。


「お心遣い感謝いたします。ではキメラさん。まずは髪を洗いましょう……ってああ」

「うわーいひろいおふろー」


 私の手を逃れ、キメラさんは浴場を駆け回ります。


 興奮しているのはよくわかりますが、滑って転んでは大変です。


 キメラさんは無傷でしょうが、壁や設備などを破壊してしまう恐れがあります。


「コラキメラさーん。あんまり怒るとパパに叱って貰いますよー」

「こわくなーい! うえーい!」

「もう……」

「アンタも大変ね」


 エリザさまに労られてしまいました。


 あまり他者の前で叱りたくはありませんが、ああも暴れ回わられては仕方がありません。

 私も心を鬼にして、キメラさんに少しキツめに言ってやります。


「キメラさーん。流石に私も怒りますよ?」

「あははーこわくなーい。ままなんてこわくなーい」


 私がむっとしていると、脱衣所の方から新たに二名ほど、大浴場にやってきました。


「あれー誰か入ってる?」

「キメちゃん! キメちゃんじゃないですか!」


 新たに現れたのはクレア様と王女様。


 どちらもリュクスさまのご友人ですね。


 何故この時間なのかはわかりません。


「申し訳ございません王女様。王女様がこの時間にご利用されるとは知りませんでしたので」

「いえいえ構いません。寧ろキメちゃんとお風呂に入れて嬉しいです。キメちゃーん。走ったら危ないですよ~」

「……はい」


 流石王女さま。

 ゴキゲンな蝶のごとく手がつけられなくなっていたキメラさんが借りてきた猫のように一瞬で大人しくなりました。


 心なしか顔が青ざめていますが、大丈夫ですよ。


 リィラ王女はとても優しい方なので、怒られるようなことはありません。


「モルガさん。その、私がキメちゃんの体を洗ってあげてもよろしいでしょうか?」

「王女様にそのような……」

「私が洗ってあげたいのです!」

「わかりました。ではお言葉に甘えさせて頂きます」

「え? まま……え?」

「良かったですねキメラさん。今日は王女様が直々に髪を洗ってくださるそうですよ?」

「はしったのはあやまるからゆるして」

「ふふふ。変な子ですねぇ。緊張しているのかな~? それでは王女様。よろしくお願いします」

「任せて下さい! ではキメちゃん、こちらへ」

「あわわ」


 王女様とキメラさんがシャワーの方へ向かいました。


 私はさくっと髪と体を洗います。


「キメちゃんの髪はやわらかいですねー」

「あい……」

「あら、水が冷たいですか? 何やら震えているような?」

「だいじょうぶです」

「ではこのまま流しましょう。それー」


 ふふ、王女様と仲良くしてくれて嬉しいですね。

 しかしまだ掛かりそうなので、私は一足先に湯船に浸かりましょう。


「ふふ。待っていたわよ。ええと……」

「モルガです。メイドの」

「そうだったわね」ジー


 エリザさまは私の身体のある一部分を凝視してきます。


「貴方もなかなかのものを持っているわね」


 私もそこまで大きい訳ではありませんが、自分より大きいから気に入らないのかもしれません。ここはエリザ様を刺激しないように無難な返答をしておきましょう。


「ゼルディア家の食卓は質素ながら栄養満点ですので」

「果たして食べ物の違いなのかしら……まぁいいわ」

「あの、ところで待っていたとは……?」

「ふふ、そうだったわね。貴方には色々聞きたいことがあるのよ」

「聞きたいことですか」

「ええ。留学してた頃のリュクスの話、聞かせなさいな」


 なるほどそういう事でしたか。

 エリザ様とリュクスさまは確かお手紙のやり取りは一切していなかった様子でした。


「そういうことなら私も混ざらせてもらうよ」

「クレア様!?」


 クレア様も湯船に合流してきました。

 こうなると庶民の私としてはとても居心地が悪いですが、どちらもリュクスさまのご友人。

 逃げるわけにはいきませんね。


「リュクスの五年間の話、興味あるね」

「あら、アンタも気になるの?」

「当然だよ。何せ私はリュクスの親友だからね」


 親友なら本人に聞けばいいのでは? と思いつつ、まぁ私に聞いてくるということは、普通の思い出話とかが目当てではないのでしょう。


「単刀直入に聞くけど。アイツ、5年の間に変な女とかに引っかかってないでしょうね?」


 やはりそう来ましたか。

 それこそ本人に聞いて欲しい話題ですが、リュクスさまのこと。適当にはぐらかすでしょう。


「どうなの?」

「私も気になるな」


「え~……https://kakuyomu.jp/users/KurujiTakioka/news/16818093072963330884(リュクスの過去の番外編へのリンク)……特にそのようなことはないですよ」


「なんか凄い間がなかった?」


「気のせいです。リュクスさまは極めて健全に、五年間を過ごされていましたよ」


「へ、へぇ~そうなんだ。つまんないわね」


 そう言いつつ、安心しているのがわかります。エリザ様、ちょっとわかりやす過ぎて心配になりますね。


 しかしエリザさま。

 ここで安心するのはあまりにも他者を信頼し過ぎです。


 私はゼルディアに仕えるリュクスさまのメイド。


 もし仮にリュクスさまが女と遊びまくる堕落した生活を送っていたとしても、主の評判を下げるような発言をする訳がありません。


「そっかーリュクスはあんまりモテなかったのか。あはは。あんなにカッコいいのに、向こうの人たちは見る目ないね」


「元々同年代が少ない土地でしたからね。あ……でもそういえば。13歳くらいまで毎年バレンタインデーにチョコをくれていた子が居たような……」

「「誰それっ?」」


 お二人とも滅茶苦茶食いつきますね……。

 そろそろ身体も暖まってきましたし、脱出したいところですが。


「もういい。からだあらうのあきた」

「駄目ですよキメちゃん。尻尾もちゃんと洗わなくては」

「ういー」


 王女様とキメラさんはまだかかりそうですね。

 まぁ大した話ではありませんし、お二人に語って聞かせるのもいいかもしれません。


「ではお話ししましょう。あれは島に行って最初のバレンタインデーのこと。リュクスさまは屋敷の向かいに住んでいたポミルくんと出会います」

「ポミル!?」

「聞いてないわ。アイツからは何も聞いてない……」


 その後、ポミルくんとのエピソードに一喜一憂するお二人を楽しみつつ、キメラさんとのお風呂を終えるのでした。


***

***

***

あとがき


そういえば女子風呂回がなかったなと思って書いたものの、このヒロインたちが集まるとキャッキャウフフにならんぞどうなっている……


思ったよりキャピキャピしなかったのでサポ限にしようかと思いましたが、番外編の宣伝がてらにメイン投稿に致しました。

次回からいよいよ第3章クライマックス編スタートです。


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