第125話 ねーちゃん!
「あ、ねーちゃん!」
ボクとキメラが食事を終えて合宿所に戻ると、眼鏡をかけた女と出くわした。
人と目線を合わせたくないのか、目が隠れるほどの前髪。さらにその上から眼鏡をかけているというよくわからない女。
ええと。どこかで見たことあるような……。
「キメラさん! こっちに来てたんすね」
「うん。ぱぱにあいにきた!」
「そうなんだ! で、リュクスさんは?」
「ぱぱは……」
「え? え? 何があったんすか?」
「リュクスは体調不良で休養中」
この二人だと話が進まなそうだったので、仕方なく会話に入り、説明しておいた。
「そうすか。そこまで深刻そうじゃないくてよかったっす」
「ねーちゃんもここにいたのかーびっくりしたー」
「へへ。自分は部屋に引きこもってますからね」
「ねーちゃんのへやいってみたい!」
「ええ……と」
こちらを窺うように地味女が視線をこちらに向けてくる。
いや正確にはコイツの目線は確認できないんだけど、そんな感じがしたのだ。
「いいよ、仲いいんだろ? ボクはリュクスの部屋に行ってみるから、満足したら戻ってこい」
「あーい」
「それじゃあキメラさん。行きましょうか」
「おー!」
***
***
***
「おおお! おもちゃがいっぱいー!」
「あはは……おもちゃじゃなくてフィギュアなんすけど……まぁいいや」
イブリスの部屋に入ったキメラは目を輝かせた。
部屋の片面は天井まで続く棚が置いてあり、モンスターのフィギュアが所狭しと並べられていた。
無論、イブリスのために用意された部屋というわけではない。
アイテムボックス内に収納されていた棚を呼びだし、そこにフィギュアを並べたのだ。
短期の滞在ではあるが、部屋を自分好みに改造したのだ。
「こうしないと落ち着かなくて……」
「み、みてもいい?」
「ていうか、触って遊んで良いよ。それ、自分が作ったものだからそう簡単には壊れないし」
「えええええ! すごいいいいい!」
すぐに修理できるので、もし壊れても気にしない。
キメラは四つ足のドラゴンのようなモンスターのフィギュアを手に取ると、うっとりとそれを見つめる。
「かっこいいなぁ~」
「えへへ。そう?」
「ねーちゃん。どこにいけばほんものとあえる?」
「いや、本物はいないんだよ」
「へ?」
「それはね。自分が考えて作ったんだ。空想っていうのかな」
「かんがえて……そうぞうってこと!?」
「うん」
「すごーい!」
素直に称賛してくれるキメラの態度に心がくすぐったくなったイブリスは、照れくさそうに頬をかいた。
「じゃあこれも?」
「それも」
「これも?」
「それもだよ」
「おおおおおおお! てんさい! ねーちゃんてんさい!」
(幼児特有のスーパーハイテンションっすね。かわいいな~)
イブリスは、はしゃぐキメラを見ながら、義父のことを思い出す。
『またこんなガラクタを作って……お前は自分の才能をまったく理解していない』
『お前が作るべきものは私が決める』
『ただ黙って売れるものを考えればいいんだお前は』
「……」
「ど、どうしたねーちゃん?」
「ううん。なんでもない。こっそり作ってたモンスターフィギュアだけど……キメラさんが喜んでくれて良かった」
「よろこぶよー。かっこいいもの」
純粋なキメラの笑顔に、思わずイブリスは彼女の頭をなでた。
そして、机の上に置かれた呪縛札を見る。
「もうすぐだよキメラさん。新しく発見されたダンジョンで目当ての素材が見つかれば、ここに封じられた力を君に返してあげることができる」
「おおー!」
「そうすれば、君はまた進化できる」
「あっ……そっかー。進化かー」
「どう? こういうのとか、こういうのもいいんじゃない?」
棚に並べられたいくつかのカッコいいモンスターフィギュアを指差し、イブリスが言った。
「それもいいけどー。キメラ、しんかするかはわかんない」
「ええ!? どうして!?」
「このみためじゃないとぱぱにあいしてもらえない」
「そんなことはないと思うけど……」
そう言いつつ、自信はなかった。
イブリスの記憶に残る怪獣のようだった頃のキメラに対するリュクスの態度は、あまりいいものではなかったからだ。
もし再び、モンスターのような見た目に進化した場合、リュクスからの愛情を受けられなくなるのではとキメラが恐れるのは無理もなかった。
経緯はまったく違うが……。
仮初めの父親に好かれるために頑張っているキメラに、どこか親近感を覚えるイブリス。
「キメラはぱぱにあいしてもらうためにこのみためになった! だからしばらくはこのままでいいかもしれん」
「そっか。君は、なりたい自分になれる力を持っているんだね」
そんなキメラを羨ましいと思った。
「ねーちゃんはちがう?」
「自分は……そうだね。今の自分がなりたかった自分なのか……自信はないかな」
最初は義父を喜ばせたかった。
そのために、思いついた魔道具を必死で作った。
その作業は楽しかった。だが一番の目的は、義父の喜ぶ顔だった。
しかし、イブリスの作った物がもたらす莫大な利益が義父を変えた。
より便利な物を。より売れる物を作れとプレッシャーを掛けてくるようになった。
自らが発明した魔道具で誰かが笑顔になったところを……もう何年も見ていないのだ。
その時、ふと暖かい熱が頭に触れた。
「何してるの?」
「なでなでしてる」
「よ、よしてよ子供じゃないんだから」
だが、不思議と涙が溢れていた。
義父がガラクタだと言った、イブリスが純粋に趣味で作り上げたモンスターのフィギュア。
そのフィギュアを見て目を輝かせていた女の子の優しさが、胸に響いたのだ。
「ねーちゃんもなれるよ」
「え?」
「なりたいじぶんになれる! なれ!」
「うん……ありがとう」
その後、二人は時間を忘れて、怪獣のフィギュアで遊びまくるのだった。
***
***
***
あとがき
なろう版、昨日1章完結でランキング爆伸びしてたのにメンテからの延長&終了時刻未定で涙。
これでランキングから転げ落ちたら絶望しかねぇわ。マジでゴミ
応援してくれた方々すまない。
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