第122話 ママ≠母親

 What is a "Mama"?

 Is it a being that protects us? A being that spoils us? Or perhaps a preference?

 There are no conditions to being a Mama.

 Age. Gender. Body shape. Inclusiveness. Financial capability.

 All these are insignificant issues.

 A Mama is simply a miraculous existence.


 ママとは一体何か?

 守ってくれる存在か。甘やかしてくれる存在か。それとも性癖か。

 ママであることに条件など必要ない。

 年齢。性別。体型。包容力。経済力。

 全て取るに足らない問題である。

 ママとは、ただ奇跡の存在である。


 B・W・オギャルスキー著「世界の答えは不完全なママ」より


 ***


 ***


 ***


 完全に不透明だったママを決める戦いだったが、一年生の有識者たちによってその方法が決定した。

 その内容はシンプルにキメラの前でアピールするというもの。


 4人がそれぞれママアピールをし、最後にキメラ自身に決めさせるという方式だ。


 なんだこれ? と思わなくもないが、みんな楽しいそうなので空気を読んで黙っておく。

 くだらないと思いながらも、こういうふれあいで少しずつ、キメラがみんなに受け入れられていけばいいなと。

 俺はキメラを膝に乗せ、4人の準備ができるまで待っていた。


 その時、空気を読んでいた俺とは反対に空気を読めずにいた男、キモータくんが俺とキメラの前に現れた。


「デュフ。キメラちゃんのママを決める? デュフ。実に愚かだとは思いませんかリュクスくん?」

「何が言いたい?」

「そんなの決まっているじゃないか。キメラちゃん」

「う?」

「君が俺のママだ」

「キメェ」


 謎の理論を展開してきたキモータくんに、キメラは心から出た言葉を贈った。


「君は確かに容姿も言動も全てが幼い。だが、その幼さの中に純粋な母性を見た。キメラちゃんほど完璧なママはいない。まだ何ものにも染まっていないその無垢な笑顔。それを見た瞬間、俺は自分が精子に戻ったかと錯覚した。これをママと呼ばずしてなんとするデュフデュフ」


「オッケーわかった。いいかいキモータくん。一度深呼吸をして……そうだ。そしたら一端部屋に戻って眠っておくんだ。合宿が終わったら起こしてやる」

「デュフ。俺は常に冷静だし正常だ」


 だから問題なんだが……。


 とりあえず子供に見せるものじゃないと異常性癖者キモータくんを男子達が排除していると、ママに立候補した四人の準備が終わったようだ。


「ではまず、私から」


 一番最初に現れたのはリィラ。


 個人的にはまだ怪獣のようだった頃からキメラを気に掛けていたリィラがママと呼ばれたいと思っているなら、そうなって欲しいと思っているが……。


 子供というのは俺たちの思い通りには動かない。

 そこばかりは完全に運だろう。


「では王女さま。アピールを1分ほどでお願いします」

「はい」


 どこか儚げな雰囲気を纏いながら目を開いたリィラは、真っ直ぐにキメラを見つめる。


「キメラちゃん。私は貴方に助けられたあの日から、貴方のことが大好きでした。ですがこの気持ちを長い間、うまく言葉として形にすることができずにいました。愛なのか、はたまた恋のようなものなのか。私の胸に渦巻くこの感情の正体がわからずにいたのです。しかし、こうして今、人間の女の子の姿となった貴方を見てはっきりしました。おそらくなんですが……私は貴方の母です。記憶はないですがいつの間にか生んだみたいです。そうでないと説明がつかないくらい、姿を見た瞬間から止まらない涙。これはもう、私が貴方を生んでいないと説明がつかない」


 そうはならんだろ。


「貴方の……母です」

「ひっ……」


 リィラに顔を近づけられて、小さく悲鳴を漏らすキメラ。

 膝の上に乗せたキメラが小刻みに震えているのがわかる。


 おそらく生まれて初めて恐怖を感じているのだろう。

 可哀そうだがこれも経験か。

 偉い人も言っていた。「人生はスタディ」だと。

 

「あ、ありがとうございました王女様」


 司会進行をやってくれているゲリウスくんも若干引いている。


「さて気を取り直して。次はクレア・ウィンゲートさん。アピールタイムをお願いします」

「あはは。任せて!」


 颯爽と現れたクレアはスターの歩き方でキメラに近づくと、屈んで目線を合わせる。

 その仕草だけで、周囲に居たクレアファンの令嬢たちが歓声を上げた。


「可愛くなったね」

「う?」

「でもリュクスと私の娘としてやっていくなら可愛いだけじゃだめだ。強く。強くならなくちゃいけないよ」

「うー!」

「あはは。もう十分強いって? でも君ならもっと上を目指せる」


 そう言うと、クレアの目が輝く。

 クレアがパチンと指を鳴らすと、取り巻きの令嬢二人が大きな模造紙を広げる。

 その模造紙には何かのスケジュールと思われる円グラフが表示されていた。


「これは?」

「私が使っていたトレーニングスケジュールをキメラ用にアップデートしたものだよ。私がママになったら、こういう生活をして欲しいと思っている」

「ひえ……」


 どれどれ……。


 ええと朝5時起床からの瞑想&ストレッチ&ヨガ。6時から朝食、7時から基礎体力トレーニング。10時に間食から再び基礎体力トレーニング。12時昼食からのお昼寝。13時から実践訓練。15時間食からの実戦訓練再開。19時夕食、風呂、20時ストレッチ。22時就寝……。


「まぁまぁなトレーニングだな」

「ぱぱっ!?」

「でもちょっと甘すぎないか?」

「あはは。何言ってるのさリュクス。まだ生まれたばかりだしね。手加減は必要だよ。ここからだんだんと負荷を上げていく」

「そういうことか。うん、いいんじゃないか?」

「あわわ……」


 膝の上のキメラがプルプルしている。

 ちょっとワクワクしている感じだろうか?

 個人的にはもう少し勉強の時間も必要だと思うが、良質な脳に育てるには運動は必須。

 先に運動能力を極めておくのも間違いじゃない。


「今のままでも十分強いが……」

「うん。でも生まれ持った力に依存しているだけじゃ駄目じゃない?」

「確かに」


 なるほどこのママ決定戦が始まってリィラのアピールを見た時はどうなるかと思ったが……結構面白い。


「クレアはいいお母さんになりそうだな」

「ぱぱなにいってる……」

「あはは。嬉しいこと言ってくれるじゃないかリュクス」


 こうしてクレアのアピールタイムが終了した。


「えークレアさん、ありがとうございました。では次。エリザ・コーラルさん。アピールタイムです」

「よろしく」


 真剣な顔をしたエリザは、キメラに近づくと、目線を合わせてその手を握った。


「どう? 暖かい?」

「うん! ぴんくちゃんのおてて、あったかいよ」

「パパにこうしてもらった事はある?」

「ない……」


 ジっと、エリザが「なんで手も握ってないの?」と言いたげに睨んでくる。


「こうして手を握っていると、幸せな気持ちにならないかしら?」

「うう……よくわかんないよ?」

「そう。私はなるわ。今、とても幸せで暖かい気持ちになっている。きっと、貴方もそう思える日が来る」


 エリザはキメラの手を、両手で包み込むように握った。


「貴方は特別な子よ。いい意味でも悪い意味でも、これからずっと、特別な扱いを受け続ける。明確な悪意に傷ついて、全てを壊してしまいたいと思う、そんな辛い時がくるかもしれない」

「うぅ……?」

「でも、その時は思い出して。こうして貴方の手を取った人がいたことを。貴方を可愛がってくれる人たちがいたことを。それを思い出して。そうすればきっと、貴方は間違わないから」

「うー……むずかしい」


「エリザさんありがとうございました。アピールタイム終了です」


「エリザ……良かったのか?」


 自分がママになりたいというよりは……何かをキメラに伝えようとしている。そんな感じだったが。


「いいのよ。別に誰がママになろうが関係ないわ。その子が優しく育ってくれれば、私はそれでいい」


 そう言って、去って行った。


「手の温もり……か」


 エリザにも、そんな人が居たのだろうか。思い出しただけで心を奮い立たせる、そんな手を持った人間が。


「ええと、じゃあ次は最後の一人。アズリア・フルリスさんのアピールタイムです」

「よ、よろしくお願いします」


 エリザと入れ替わるように、四人目のアズリアが出てきた。

 アズリアに関しては、さっきあちらでエルとラトラに何かを仕込まれていたようだ。


 一体どんな手で来るのだろう。


 俺が固唾をがぶ飲みしながら見守っていると、アズリアは「あわわ」と緊張した様子で哺乳瓶を取り出し、少し照れくさそうに微笑んだ。


「キ……キメラちゃん、お腹空いてない? おっぱい飲む?」

「飲む」

「「「は?」」」


 俺が思わず飲むと答えてしまったせいで、リィラ、クレア、エリザから冷たい目を向けられる。

 いや違うんだって。俺はほら……キメラを抱っこしてたせいで正面からアズリアを見てたから……ついね。


「恥ずかしい……うぅ」


 一方のアズリアは両手で顔を覆っている。


 奥の方でエルとラトラが親指を立てているが……アイツら、アズリアになんてことを言わせるんだ。あとで何かお礼をしておかないとな。


「えっと。それじゃあ4人のアピールタイムが終わったところで、キメラちゃんに誰がママにふさわしいか決めて貰おうかと思います」

「お待ちを」


 この戦いを締めにかかったゲリウスくんの言葉を挙手で遮る者がいた。

 その人物は音楽令嬢と呼ばれる才女フォルテラ・オルガンガーン。


「えっと……何かなオルガンガーンさん」


 フォルテラはかなり大人ぽいビジュアルをしており、どことは言わないがかなり大きい。

 見た目だけなら立候補していた4人よりもママ感が強い女の子だ。


 そのため「まさかここから飛び入り参加か?」と思ったが、どうやら違うらしい。


「ララ。推薦をしたいのです」

「推薦とは……ママ候補をということですか?」

「ラ」(同意)


 ゲリウスくんは困惑気味に俺の方を見た。


「まぁ、いいなじゃないか?」

「わかった。それじゃあオルガンガーンさん。貴方が推すママ候補とは誰なのでしょうか?」


 ゲリウスくんに促され、フォルテラは普段は閉じている目をすっと開く。

 切れ長で妖艶な瞳を怪しく輝かせながら、彼女はゆっくりと口を開いた。


「リュクスママ」

「なんのつもりだ?」


 俺の言葉に臆することなく、フォルテラは意味不明なことを言い始めた。


「ララ。どうもこうも言葉通りの意味です。私はリュクスくん。貴方こそがママにふさわしいと思っています」

「悪いが俺はすでにパパポジションに収まっているし、そもそも男だ」

「ラッ。ママが女でなくてはならないなんて決まりはありません。ならば私は、自分の感覚を信じるまで」

「待て待て。そんなことを言われたら収集がつかないぞ」

「リュクスくんに抱かれ安心しきったキメラさんの顔。ラ。そして時折愛おしそうに彼女のお腹をポンポンするリュクスくんの姿。私はそんなあなたに、確かなママを見た」


 まずいな。何を言っているのかさっぱりわからない。

 リィラ、クレア、エリザとアズリアの四人も「どうなるの?」とこちらを見つめている。


「じゃあキメラ……そろそろママを決めようか」

「うー?」

「わからないか。あのお姉ちゃんたちの中からママを――」

「リュクスさまーお部屋の準備が終わりましたー」


 その時。

 食堂にモルガの声が響いた。みんなの視線がモルガに集中する。


「あ。失礼しました。お取り込み中でしたか」

「いや、大した用事じゃないからいいよ」

「あら。みなさんでキメラちゃんと遊んでくれていたんですね~」


 モルガはペコリとお辞儀すると、こちらに近づいてくる。

 その時、モルガを見つけたキメラの顔がぱっと輝く。


「ままー!」

「「「「「え!?」」」」


 そう叫んだキメラは俺の膝から飛び降りると、モルガの方へと走っていき、飛びついた。


「ままーままー!」

「おーよしよし。パパのお友達に沢山遊んで貰えて良かったですね~」

「うん!」


「えっと……」


 皆の視線が今度は俺に集中する。「今までの時間はなんだったの?」と言いたげだ。


「信じてくれ。俺も知らなかった」

「まぁ考えてみたら、一番側で面倒見てたあの子がそう呼ばれるのが自然よね」

「そうだよね」


 エリザとアズリアは得に気にした様子もなく、モルガに抱きつくキメラを微笑ましく眺めていた。


「キメラちゃん……もう少し、早く出会えていたら……」


 一方、ガチの涙を流すリィラ。

 キメラを可愛がっていたからな……。


「あの……そのリィラ。こんなことなら真っ先にリィラのところに連れて行けばよかったよ」

「そうですね。ですが」


 リィラは涙を拭くと、笑顔を作ってくれた。


「あの子が幸せそうなら、今はそれでいいのかもしれないと思いました」


 こうして、訳のわからない戦いは、モルガが横から勝利?をかっさらう形で幕を閉じるのだった。


***

***

***

あとがき


パロディ多め。ラストが予定調和だったので、楽しい雰囲気みたいなのを優先しました。5千文字のちょーたいさく。

最初の英語は雰囲気づくりのために日本語の方をAIに翻訳させたものなので、真面目に訳さなくて大丈夫。伏線とかもないです。


なろうの方のランキング、ジワジワ伸びで今ジャンル別日間20位くらいまで上がれました。応援に行ってくれた方、本当にありがとう!



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