第120話 幻獣? いいえあれは…
モーメルの町での散策を終え、無事ゼシオン・トライメアへの事情説明も終えた俺とエリザは、中庭のベンチにて話をしていた。
「それじゃあエリザもアズリアも明日にはライセンスが発行されるんだ」
「ええ。先にダンジョンをクリアしちゃった訳だしね」
はじまりのダンジョンのクリアという実績を作ったエリザとアズリアは、今日と明日に講習を行うだけで、ライセンスを発行してもらえるらしい。
ゼシオン様から正式に調査の許可も下りそうだったし、エリザたちにも手伝って貰うことができそうだ。
「ま、まぁ? アンタがどうしてもって言うなら手伝ってあげてもいいけど?」
「それは学園長たち次第だな。あの人たちが簡単にクリアできるようならそもそも行く必要がないし」
「それもそうね」
「でも、裏で準備は進めてるよ」
「準備?」
「ああ。実は今朝の内に屋敷の方に連絡をして……お、噂をすれば」
「何あれ……こっちに向かってきてない!?」
空を見上げると、白い馬が空を駆けるように飛行していた。
その背中には白い翼が生えていて、口には大きな木箱を抱えている。
「もしかしてあれって……幻獣ペガサス!? 本当に存在したの!?」
「いやあれはドッペルゲンガーだよ」
「ドッペルゲンガーって……何十年も前に確か絶滅したハズじゃ……」
「実はこの前、その生き残りと知り合いになった」
「なんでよ!?」
こっちが聞きたい。
ペガサスの姿に変身しているドッペルゲンガーのピエールは、俺たちの遙か頭上で停止すると、ゆっくりと地上に降りてくる。
「実は朝の内に手紙を出しておいてさ。新ダンジョン探索に備えて、俺の武器を運んで貰ったんだよ」
「アンタの武器って……グランセイバーⅢじゃなかったの?」
「あれはほら……王様に頼まれて作ったやつだから」
「ふぅん……そうなのね」
「ついでに5年間の間に集めた武器をいくつか持ってきた。エリザたちに合いそうなヤツもあると思う」
「ダンジョン産の武器ってこと? ふ~ん、アンタにしては気が利くじゃない」
「喜んで貰えて嬉しいよ」
今までは学校指定の装備しか使えない時の戦闘だったから装備が貧弱だった。
だが今回は、武器だけはちゃんとしたものを持って行けそうだ。
流石に防具となると、ピエールさんでも運べないからな。
「おお神! 今から着陸するので少し離れて頂きたい」
「リュクスさま~」
ペガサスピエールの背から、モルガが顔を覗かせ手を振っている。
「あら、懐かしい。あの子も来たのね」
「みたいだな」
「ぱぱ~!」
そしてモルガ以外にもう一人、居るようだった。
「パパ?」
「嘘だろ……」
エリザが首を傾げていると、ペガサスの背から一人の少女が飛び降りてきた。
キメラだ。
無視しても死なないだろうがそんなことは出来ず、俺はその小さな体を受け止める。
「ぱぱ! あいたかった!」
「お、おう……俺も会いたかったぞ」
「……誰、その子。パパって……」
じーっとこちらを睨むエリザ。そして、両手の指を折りながら何かを数えている。
一体何を数えているのだろう。
「その子の年齢からして……アンタが7,8歳の時に作った子供ってこと?」
「そんな訳なくない!?」
「そうよね」
どうやら冗談だったようだ。
心臓に悪いぜまったく。
「ほら、模擬戦の時のキメラがいただろう?」
「ええ」
「その子が進化したんだよ」
「ごめんなさい。何を言っているのかサッパリだわ」
ですよね。
俺も未だによくわかってないから。
「まぁアンタのことだからふざけた嘘ってことはないんでしょうけど……」
「信じてくれて助かる」
「それにしてもあの見た目からこんな可愛い女の子になるなんて……まぁ魔物として特性は残っているみたいだけど……それにしても不思議ね」
「詳しい人曰わく、キメラの『みんなから愛されたい』って願望が形になったんじゃないかって」
「願望ねぇ。それで見た目を変えられるなんて、やっぱり不思議だわ」
「まったくだ」
そんな話をしていると、腕の中のキメラはエリザをじーっと見つめながら言った。
「ねぇおねえちゃんだれ?」
「私はエリザ・コーラル。アンタのパパのお友達よ」
「わー! ぱぱのともだちー!」
「言える? エリザよ」
「ぴんくちゃん!」
「凄いわね。一文字も合ってないわ」
キメラのやつ、覚えられないから見た目の特徴であだ名をつけやがった。
しかしぴんくちゃんか。
ないだろうがエレシア様と会ったときが気まずいな。エリザがぴんくちゃんなら、エレシア様はダークピンクちゃんとか?
「何ニヤニヤしてんのよ?」
「いや、別に。それにしても、お前どうしてここに?」
「それは私から説明しましょう」
ようやく降りてきたピエールとモルガ。エリザを見つけて慌ててお辞儀をした。
「説明してくれ。俺が頼んだのは武器だけだったよな?」
「はい。キメラちゃんに見つかると面倒だと思ったので、内緒で出発しようと思いました。無事ペガサスは飛翔し、一安心かと思いきや」
飛び立ったペガサスを見つけたキメラは庭に飛び出してきたという。
だがモルガたちは遙か上空。可哀想だが置いていくしかないとそのまま飛び続けようと思った……その時。
「ジャンプして飛び乗ってきたのです」
「マジか……」
「時間も時間なので、このままこちらまで飛んできた次第です」
それはまぁなんというか……疑ってごめん。
「昨日今日とちゃんと良い子にしていたんですが、やはり寂しくなったんでしょうね」
「そうか……」
抱き抱えていたキメラを降ろす。
「ぱぱおこる?」
「怒らないよ。でも高く飛ぶのは危ないから、パパが居るときだけにしなさい」
「あい!」
「ふふ」
俺とキメラのやり取りを見ていたエリザが堪えきれないといった様子で笑った。
「な、なんだよ」
「いや。アンタってこんなお父さんになるのかなーって思っただけよ」
「自分の子供にはもっと厳しくするさ」
「ふふ、どうだか」
「ぱぱ、わたしはぱぱのほんとうのこじゃない?」
「まぁ本当の子供ではないだろ」
「え?」
こちらを見上げるキメラが涙目になってる。
大泣き5秒前って感じになってる。
「う、嘘だよーん」
「なんだうそかー!」
ふぅ……なんとかごまかせた。おいエリザにモルガ。笑うな。
「さてキメラさん。そろそろ帰りますよ」
しばらく談笑した後、モルガが頃合いを見計らったようにキメラの手を握った。
「や」
「パパが困っちゃいますよ?」
「ぱぱといっしょがいい!」
「駄目。ちゃんと約束しましたよね? パパに会えたらすぐ帰るって」
「やなの!」
「まったく……」
面倒なことに駄々をこね始めてしまった。
「こ、これでも屋敷に居たときはちゃんと良い子だったんですよ?」
「わかってる。これもまぁ……甘えの一種なんだろう」
しかしどうしようか。
一端俺も屋敷まで戻って、寝かしつけてからまたピエールさんに運んで貰うか?
「神、それは私への負担が大きくないですか?」
「ただ飯食らっているんだしそのくらいは働いて貰わないとな」
「そう言われては返す言葉もない。しかし、神の役に立つことこそ我が生きがい。その無茶振り、遂行してみせましょう」
「なんかアンタの周り、どんどん個性的になっていくわね」
「言わないで……」
個性的と評するあたり、エリザのやさしさがにじみ出ている。
「さて、それじゃあ早いとこ出発するか。悪いなエリザ。先生たちに適当に説明しておいてくれ」
「まったく……わかったわ。気をつけてね」
「ああそれじゃあ――」
「待ちたまえ」
ペガサスに跨がろうという時。それに待ったをかける人物が現れた。
「貴方は……」
「ゼシオン様?」
御三家トライメア家当主、ゼシオン・トライメアが姿を現した。
鮮やかな金髪と整った顔立ちを持つ、34歳という年齢を感じさせない美青年。
ゼシオン様は柔和な笑みを浮かべたままこちらにやってきた。
「まだ合宿所にいらしたんですね」
「ああ、学生たちが集まるこの空気が好きでね。ダラダラとしていたら窓の外に幻獣種の姿が見えたのでね。慌てて飛び出してきたんだよ」
「それは……お騒がせして申し訳ない」
「しかしまさか、その正体がドッペルゲンガーだったとは驚いたよ」
国王から回ってくる報告書が楽しみだと愉快そうに笑った。
「ところで少し聞こえたのだが……これから王都とここを往復するとか」
「はい。このキメラが帰りたくないと駄々をこねているので」
「ほう……この娘が例の。パパと呼ばせているのは君の趣味趣向なのかな?」
「違います。勝手にそう呼ばれていて……いずれ矯正するつもりです」
「えぇー!?」
驚くキメラを無視してゼシオン様との会話を続ける。
「厳密には魔眼を通じての従魔契約ですので」
「なるほど。だが中身は普通の幼女となんら変わりないようだし、君と離れるのも酷だろう。お嬢さんもパパと離れるのは嫌じゃないのかな?」
「いや!」
「君の娘もそう言っているよ?」
「あのゼシオン様。コイツは……」
「はは、そうだったね」
からかわれているなぁ……。
見かけによらず悪戯好きな人のようだ。
「どうだろう。私の権限で新しい部屋を用意しよう。君たちは合宿の間、そこに泊まるといい」
「それは……ちょっと」
「ぱぱ。こいつはなしわかる」
「こいつじゃないゼシオン様だ。あと指を差すな」
正直、楽しみにしていた学校行事にキメラ問題を持ち込みたくないというのが本音だった。
「君はどう思う? パパとお泊まり、したくないかな?」
「したい!」
「はぁ……仕方ないですね。わかりました。部屋の手配をお願いできますか」
「ああ、すぐに用意させよう。君たちは食堂で待っていてくれたまえ。あとは……」
ゼシオン様はチラリとピエールさんの方を向いた。
「今晩、彼を借りてもいいかな?」
「ドッペルゲンガーをですか?」
「ああ。何しろ滅びたと思われていたドッペルゲンガーだ。色々と話を聞いてみたくてね。どうだろうピエールさん。私の部屋で一晩語り明かしませんか?」
「いえ……私はなるべく神の側にお仕えして」
「美味い酒も用意させますが」
「是非語り合いましょう」
コイツ……変わり身が早い。
しかし、なるべく贅沢しない方針のゼルディア家には酒が一切ないからな。
どうやらピエールさんは酒好きのようだし、実はずっと飲みたがっていたのかもしれない。
「ぱぱとおねんねうれしいなー」
「ねぇ。この後どうするのよ?」
「う~ん。せっかくだしみんなにコイツを紹介するか?」
「それがいいかもね。みんな気になってるだろうし」
楽しげに去って行くゼシオン様とピエールさんを見送った後、俺たちは他の生徒たちが集まる食堂へと移動した。
***
***
***
あとがき
新規読者獲得のために小説家になろうにも魔眼の投稿を開始したけど全然伸びねぇー!
みんなで助けてくれーい(泣)
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