第117話 新たなる扉
「ギイイイイイイ」
はじまりのダンジョンの最終ボスといえばディープスパイダーだ。
大きなクモ型のこのモンスターは天井に巣を張り、3D的な攻撃を繰り出してくる。
プレイヤーが初めて遭遇するギミック持ちのモンスターとなる。
まだ戦力の整っていないプレイヤーはディープスパイダーの攻撃を避けつつ壁をよじ登り、巣を破壊。
敵を地上に引きずり下ろしてから本当の戦いが始まる……という面倒な手順を踏む必要があるが、幸いこの世界ではその必要はない。
「ファイヤー!!」
イブリスの持つ50丁分のビームガンから放たれる魔力の弾丸は天井に張り巡らされた蜘蛛の巣を焼き払う。
「ギイイイイイイ」
八つの瞳に憎しみの炎を宿しながら、こちら目掛けて落下してくるディープスパイダー。
だがそうはさせない。
「――マジックブースター」
「――ダークライトニング!」
エリザの補助魔法を受け放たれた黒い雷が不用意に飛び降りてきたディープスパイダーの体を貫いた。
「ギイイイイイイ」
エリザから貰ったバフの量は凄かったようで、一発でディープスパイダーは消滅。
部屋中に素材をばらまき消滅した。
「ふぅ、楽勝だったな」
「そうね」
「さぁみなさん! 目当ての素材を探しましょう!」
「頑張りなさい」
「ええ!? エリザさんは手伝ってくれないんですか」
「私が手伝うのは戦闘だけよ」
ひぇ~と言いながら散らばった素材の回収に取りかかるイブリスを見送る。
俺も手伝うかと思ったが、横に居るアズリアが浮かない顔をしているのが気になった。
「アズリア? どうかした?」
「まさか、怪我でもしたんじゃないでしょうね? どこ、見せてみなさい」
「ち、違います。エリザさんのお陰で元気です!」
怪我ではない。
それなら。
「何か気になることがあるのか」
「うん。ちょっと見て」
アズリアが手元に表示している3Dマップを見せてきた。
広大なダンジョンをすべて表示することはできないのか、3D化されているのは上級エリアとこのボス部屋のみ……なのだが。
「この部屋の先にまた道がある?」
表示されたマップには、まだこの先に道が伸びている。
「でも、道なんてないわよ?」
周囲を見回す。確かに、このボス部屋は俺たちが通ってきた道と、帰る為の転移ゲートしかない。
行き止まりだ。
「はぁ……おかしいなぁ」
そこへ、素材を回収し終えたイブリスが戻ってきた。どこか落ちこんでいるようである。
「どうしだんだ?」
「目当ての素材がありませんでした」
「イブリスの勘も外れるんだな」
「こんなこと初めてです。はぁ。呪縛札の謎を解明したかったんだけどな。ところで、皆さんは何をされているんですか?」
俺はイブリスに経緯を説明する。
普通ならアズリアの魔法がおかしくなったで終わってしまうような話だ。
だが今まで頼ってきた彼女の魔法が間違いだとは思いにくい。
ならば、何か隠し通路のようなものがあるのでは? と考えた方が自然である。
「やっぱり自分の勘は間違ってなかった! この道の続く先に、求める素材があるんすよ!」
「まぁそう考えるのが自然だよな」
必要な素材の在処を直感で知ることができるイブリスの特性。(できればどんなモンスターが落とすのかまで教えて欲しい)
そしてアズリアの魔法。
この二つを合わせて考えれば、まだ見ぬ隠された道が存在すると考えるのが自然だろう。
ゲームにはなかった隠しダンジョン。
この世界ならあっても不思議はない。
俺たちはマップと実際のこのボス部屋を見比べ、壁の一点を見つめる。
只の壁にしか見えない。
まだ半信半疑だが、やってみる価値はありそうだ。
審議の結果、イブリスが取り出した爆弾(めっちゃ強力らしい)を使って破壊を試みることになった。
俺の魔法でもいけそうだが、壁に向けて撃つと飛び散って思わぬ事故になりそうだったからな。
イブリスが壁に爆弾を貼り付ける。
そして、エリザの防御魔法の中にみんなで隠れてから起爆。
凄まじい閃光と巻き上がる土煙が収まるのを待ってから壁を見ると……。
「うそ……本当に?」
「やった! 新しい道だ!」
蜘蛛の巣でベタベタだった壁は崩れ去り、新しい扉が出現した。
俺たちが近づくと、扉はゆっくりと開く。
扉の奥はすぐ階段となっており、下に続いているようだ。
どうやらディープスパイダーを倒した者が居れば、先へと進むことができるようだ。
「よし! さっそくこのまま進みましょう」
「いや」
ノリノリで進もうとするイブリスの腕を掴んで止める。
「今日はここまでにしておこう」
「えぇ!?」
「そうね。もう時間も遅いし……それに」
「階段は下に伸びている。ということは、階層が変わると言うことだ」
「それって何か問題あるんすか?」
「おおアリだ」
ダンジョンは階段を下ることでその性質を大きく変える。
この階段を降りた先が今までのはじまりのダンジョンと同じ景色とは限らない。
「それに、敵の強さもだ。一階層変わるだけで急激に強くなっていることもありえるし、見たことない能力を有しているモンスターが現れることもある」
只でさえ、ゲームにはなかった場所、言わば隠しダンジョンだ。
知らないモンスターが居てもおかしくないし、下手したら裏面級の難易度があったって不思議じゃない。
隠しダンジョンが実は最初に攻略するステージに隠されていた……なんてゲームではよくありそうな話である。
「とにかく一度戻って学園長に報告だな」
「そうね」
「え、でも……学園長に言ったら怒られるんじゃ?」
「まぁ一瞬怒られるだろうけど……」
そこで俺はイブリスを見る。
「な、なんすか!? なんでこっちを見てるんですか!?」
「特別特待生の調査研究を手伝っていたって方向で話を進めるか?」
「そうね。連れてきたメンバーも少数だし。その方向で良さそうね」
「イブリスの新しい発明のため……キメラの調査辺りも関連付ければ、学園長を納得させることはできるか」
「このダンジョンは同じ御三家の管理下だし話はすぐ通せるわ。天才発明少女主導でそれを私たち御三家の二人が支援した……って方が体裁はいいはずよ」
学園長に報告するにしても、ある程度の道筋は必要だ。
言い訳と言ってしまえばそれまでだが。
「リュクスさん……エリザさん……もしかして自分のせいにしようとしてません? これ、自分が学園長に怒られるヤツじゃないすか!?」
怯えるイブリスに、俺とエリザはニッコリと笑う。
「人聞きが悪いなイブリス」
「そうよ。新ダンジョンの発見。その功績をどうアンタの手柄にするか。その相談をしてるんじゃない」
「ううう嘘だ! 夜に出歩いた罪を自分になすりつけようと……ってあれ!? もしかして自分が一番悪い感じですか!?」
まぁ、俺たちは一応止めたからな。
「あ、アズリアさん。今回の隠しダンジョン発見は、アズリアさんの魔法によるところが大きくて」
「私もこの件はイブリスさんが責任を持つべきだと思うな」
「あ、アズリアさんまで~」
「その方が、目当ての素材に近づけると思うよ?」
「え……?」
その後俺たちは、転移ゲートでダンジョンを脱出。
学園長へ報告するため、彼女の部屋を訪れた。
俺の顔を見るなり嫌そうな顔をしていた学園長だが、イブリスがみんなとダンジョンに潜ったとしると、どこか嬉しそうに、そして真剣に話を聞いてくれた。
***
***
***
あとがき
一日目終了…。
次から波乱の二日目どす。
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