第116話 アズリアおこ
※アズリア視点
巨人アトラスを倒し、ミミックが溢れる中級エリアを抜けると、新たな中ボスとの戦闘が始まりました。
その名も飛竜ワイバーン。
昔お父様に見せて貰ったダチョウという鳥の数倍は大きい、ドラゴンに似た姿を持つ飛行するモンスターです。
飛び回りながらギャオギャオと吠えています。
凄く恐いです。
でもこの前、もっと恐い見た目をしたキメラを見ていたので、なんとかなりました。
もし初めてこのワイバーンを見ていたら、気を失っていたかもしれません。
「ギャオオオオン!」
「――ダークライトニング!」
リュクスくんの放った黒い雷が空飛ぶワイバーンを攻撃します。
黒い雷は幅広く拡散して、まるで魚を捕る網のようにワイバーンを襲いますが、そこでワイバーンの姿が一度消えます。
そして、黒い雷による包囲網から完全に脱出していました。
「え? え?」
「なるほど、絶対回避のスキル持ちか」
「なら私が追い詰めるわ――インビジウォール」
「キエエエエエエ……ギエ」
こちらを煽るように咆哮していたワイバーンは見えない壁にぶつかったように動きを止めます。
どうやら、コーラルさんの魔法のようです。
「――インビジウォール」
急いで別方向へ飛び去ろうとするワイバーンですが、その逃げ道を塞ぐようにまた見えない壁が張られます。
「――ダークライトニング」
そして、空中でもたついたワイバーンを黒い雷が襲います。
一撃で黒焦げになったワイバーンは消滅。
さらに奥の上級エリアへの道が開かれました。
「なんかやっぱり、お二人のコンビネーションって言うんですか? 凄いですね~」
リュクスくんとコーラルさん。
その二人の戦いを見ていたイブリスさんは興奮した様子でそう言いました。
「ま、まぁ? 同じ御三家だし? 幼馴染みみたいなものだし? 息が合って当然っていうか、息が合ってくれないと困るっていうか?」
不機嫌そうな感じを装っていますが、満更でもなさそうなコーラルさん。
隠しているのでしょうが、口元がニヤついています。
「ね! アズリアさんもそう思うっすよねぇ?」
「うん。そうだね……」
「ふゎ~なんかだかロイヤルカップルって感じ。憧れちゃうなぁ~」
「……」
確かに肩を並べて戦う二人はお似合いで。
胸がぎゅっとなって、その後に言葉が続きませんでした。
「悪いなエリザ。助かったよ」
「ふん。アンタは一発で倒すことにこだわり過ぎよ。急がば回れって言うでしょ?」
「でもエリザなら上手いことサポートしてくれるって思ったんだよ」
リュクスくんは、コーラルさんに微笑みました。
「模擬戦イベントの時も思ったけど、エリザの支援があると本当に戦いやすい。5年間、本当に頑張ったんだな」
「当然よ。私は常に進化し続けるの。ほら、さっさと素材を拾ってきなさい」
「オッケー。ちょっと待っててくれ」
リュクスくんが走り去った後。
「……っ!!」
顔を真っ赤にして歓喜するコーラルさん。
誰にも悟られないように。声を押し殺して。でも。それでも嬉しい気持ちが溢れてくるのか、体は震え、それを収めるように小さくガッツポーズをしていました。
まるで数年間の努力が報われたかのような。
普段は笑わないコーラルさんが、我慢しつつも口元に笑みを浮かべている。
きっと、リュクスくんと肩を並べるために。
あれから5年間、ただひたすらに研鑽を重ねてきたんだと思います。
しかし、そんな態度を本人の前で一切見せないところに、コーラルさんの女性としての強さを感じます。
「来なければよかった……」
思わず口に出していました。慌てて回りを見回します。
コーラルさんはまだ喜びを噛みしめていて。イブリスさんはリュクスくんと素材を吟味中。
ほっ……どうやら聞かれてはいないようでした。
どうやら目当ての素材はなかったようで、私たちは次のボスのところへと進みます。
「――それで、嵐竜の骨を駆動系に仕えないかと思ってまして」
「なんのことやらさっぱりだわ」
イブリスさんとコーラルさんがお話しながら前を歩きます。
私は探知魔法を使いつつ、その後ろをついていきます。
私の魔法を使えば、モンスターがどの位置にいるのか把握できます。なので、モンスターを避けながら、短時間でボスのところまで向かうことができるのです。
「次の角、右に曲がって下さい」
「了解っす」
「はいはい」
洞窟のような場所をひたすら進みます。
「悪いなアズリア」
「別に」
どことなく申し訳なさそうに話し掛けてくるリュクスくん。
腫れ物に触るような言い方が悲しくて、少し素っ気なく返事をしてしまいました。
というか、私は少し怒っています。
「な、なんか怒ってる?」
「怒ってないよ?」
「ならいいけど」
我ながら自分のことを面倒くさいなと思いつつ。
それでも、あの呼びだし方はないよね?と態度で抗議してしまいます。
「アズリアが居てくれると助かるよ」
「嘘だよ」
「え?」
そんなことを考えていると、思わず言葉にしてしまいました。
「別に私、必要なかったよね?」
「そんなことはないよ」
「このダンジョンの攻略に、私は絶対必要……?」
「それは……アズリアがいなくてもなんとかなる。それは認める」
「やっぱり」
なんだか今日の私は面倒くさいです。
でも許して欲しい。
私の恋が進展するかもと、泣いて喜んで、笑顔で送り出してくれた親友二人の顔を思い出すと。
あんな紛らわしい手紙を寄越してきたリュクスくんに少し意地悪したくなるのです。
「いくら私だって、居たら便利くらいのノリで呼ばれると、普通に悲しいんだよ?」
「ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ」
「ただ?」
リュクスくんは何か言い辛そうにしています。
「その……アズリアの魔法があったら助かるっていうのは口実でさ」
「口実?」
彼は照れくさそうに続けました。
「本当はゆっくり話せる時間が欲しかったんだ。ほら、模擬戦の後から全然話せてなかっただろ?」
「えっと。それじゃあリュクスくんは、私と話がしたくて誘ってくれたってこと?」
「まぁ……そんな感じ」
言って、リュクスくんは「はっず」と目を逸らしました。
確かに、模擬戦の後はキメラのことだったりで大忙しで、リュクスくんと話すことは殆どありませんでした。
私はそれをとても寂しく思っていたけれど。
リュクスくんも同じだったってこと?
「ふふ……あはは」
「なんだよ。笑うなよ」
「ごめん。でも、面白くて」
「だから笑うなって」
リュクスくんがずっと私と話したがっていた。
そんな事実が私の胸を熱くしました。
私ってチョロいなぁと思いながら。それを隠すように笑います。
「リュクスくんって、意外とさみしがり屋さんだよね」
「そ、そんなことはない!」
「ふふ。隠せてないよ~?」
「くっ。だから言いたくなかったのに」
「顔真っ赤だよ?」
「ぐぬぬ」
多分、私の顔も真っ赤です。
思っていたのとは違ったけど。
久々にリュクスくんとお話しできて、楽しかった。
今はそれで満足しておこう。
そう思いました。
「リュクスくん。誘ってくれてありがとうね」
「こちらこそ、来てくれてありがとう。そして次が本番。最終ボスだ」
「え? 次が?」
私は地図を見て、首を傾げます。
最終ボス……それにしては……。
「遅い!」
角を曲がると、先へ進んでいたエリザさんが腕を組んで仁王立ちしていましいた。
迫力が凄いです。
「悪い悪い」
「次が最終ボスなのよ? まぁ楽勝でしょうけど、だからって油断は許さないわ」
「ああ。気合い入れていこう」
次の部屋に居るのが最終ボス。
エリザさんもそう言うなら間違いはないんだろうけど……。
「じゃあ行くわよ」
「了解っす」
「速攻で始末しよう」
私は胸にもやもやしたものを抱えたまま、三人の後に続くのでした。
***
***
***
あとがき
まともなメンバーだと攻略も早く進みますね。
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