第115話 ヒロインは大体チート


 イブリス・ロワール。


 平民。

 2歳か3歳という幼い頃に魔物の襲撃で両親を失った彼女は親戚間をたらい回しにされた後、遠い遠い血縁だったゼグリス・ロワールという魔道具職人の元に預けられ、養子となる。


 仕事一筋で40まで生きてた為、奥さんも子供も居なかったゼグリスだったが、苦戦しながらも愛情を持ってイブリスを育てた。


 物心ついたときからゼグリスの工房に出入りしていたイブリスは、彼が魔道具を作成しているところをずっと眺めていたという。


 そして、イブリスは魔道具制作の才能を開花させる。


 1を見ただけで10を知る……5歳になる頃には、イブリスはゼグリスの助手として申し分ない働きをしていたという。


 できれば近所の同年代の子と遊んで欲しいと思っていたゼグリスだったが、引っ込み思案だったイブリスは、ゼグリスの魔道具作成を手伝っている方が楽しかったのだろう。


 そして7歳のとき、イブリスはまるで何か電波でも受信したかのように、突然頭の中に閃いた魔道具を作り始める。


 歴史上存在した数々の天才発明家が「降りてきた」と表現したように、イブリスもまた、ある日突然それを受信した。


 脳内に広がる複雑な設計図。


 だがすでにゼグリスの腕前を上回っていたイブリスにとっては難しいことではなかった。


 オリジナルの魔法具「フリーザー」……地球でいう小型冷蔵庫のようなものを完成させる。


 イブリスの才能に驚愕したゼグリスは嫉妬などせず、ただただイブリスを褒めた。


 そして、今後は彼がイブリスのサポートに回り、イブリスが研究発明をするための設備を整えていった。


 イブリスが10歳になる頃には、ゼグリスは彼女の発明した魔道具の特許によって巨万の富を得ていた。


 十年祭に呼ばれたのも、彼が発明王として王都で名を馳せていたからで、その娘として招待された。

 そこで、10歳のイブリスはレオンと出会うのだ。


 10歳当時、自分で作ったぬいぐるみを友達にしていたイブリス。

 その友達をなくしてしまい、一人で探しているところにレオンが現れ、鋭い嗅覚と視点ですぐに見つけてしまう。

 そんなレオンのことを強く印象に残したまま、15歳へと成長する。


 父ゼグリスが望む「売れる発明品」とイブリス自身が作りたい「好きなもの」。


 そのギャップに悩んでいたとき、学園長直々にイブリスに入学の誘いが来る。


「自分にも本当の友達ができるかもしれない」と入学を希望したイブリスだったが、義父であるゼグリスは反対した。


 この頃には金の亡者と成り果てたゼグリス。義理の娘であるイブリスには、ずっと部屋に籠もって自分のために売れる商品を作り続けて欲しかったのだ。


 意地でも学費など出さないという父ゼグリス。

 だが学園長は「それなら学費のいらない特待生待遇でいいさね」と、無理やりイブリスを外の世界に引っ張り出した。


 そして王立学園に入学したイブリスだったが、教室に通うことはできなかった。


 研究室に引きこもり、自分の作りたいものを作りつつ、時折、恩義ある学園長に頼まれたものを作る日々。

 そんな現状を見かねた学園長は、適当な用事でレオンを研究棟へ向かわせる。


 そこで、二人は運命的な再会を果たす。


 研究室に入ったレオンが興味を持ったのは、義父が望んだ売れる発明品ではなく。


 イブリスが作りたいから作った、義父がガラクタと吐き捨てた役に立たない発明品だった。


「また面白いのが出来たら見せてくれ!」


 こうして度々研究室で話すようなった二人は、次第に心惹かれていく。


 そして最後には金の亡者となった義父とイブリスの仲を修復するためにレオンが動く。


 ――長くなったがこれがイブリスルートの大まかな流れである。




 初級エリアの最奥から伸びる細道。

 トラップを乗り越えたその先に、少し開けたドーム状の場所がある。


「ぐおおおお」


 待ち構えるは中ボスモンスター、巨人アトラス(本日二度目)


 人間の倍の身長と一つ目を持つ威圧的なモンスターである。


 そんな威圧的なモンスターとイブリスが対峙している。


「だ、大丈夫かなぁ」

「心配しかないわね」


 アズリアとエリザが冷や汗をかきながら見守っている。


 無理もない。


 だが、ここまでの道中、単身でダンジョンに潜ろうとしていたことをエリザからくどくど説教されていたイブリス。

「自分の力を証明しとくっす」と、中ボス戦にて前に出たのだ。


 イブリス曰わく「会話しなくていい分、人間よりモンスターの方が恐くないっす」とのこと。

「まぁいざとなったら助けるわよ。いい、アンタも準備しておきなさいよ」

「そうだな」


 いつでもイブリスを守れるよう、俺とエリザは身構える。


 こちらを警戒していたアトラス。


 一方、棒立ちのイブリス。


「さて、イブリスはどうやって戦うのかな」


 ゲームブレイズファンタジーでのイブリスは、戦闘キャラとしては例外的なキャラであった。

 パーティーメンバーとして戦闘に参加させることはできたが、レベルが上がってもそのステータスは殆ど上昇しない。

 戦闘パラメーターだけでみれば、作中最弱のキャラクターである。


 だが、レベルが上がるごとに開発できる魔道具……武器が増えていく。


 イブリスルートでは何度もダンジョンに潜り、イブリスのレベルを上げつつ強い武器を作るための素材を集める。


 どんどんイブリスの武器を強化していくストーリーとなっている。


 ゲームのスタート地点はあてにならない。


 この世界のイブリスはどんな進化をしているのか。


「じゃあ……戦います」


 少し気怠げに、イブリスが指を鳴らす。

 すると、彼女の背後の何もない空間から無数の銃口が姿を見せる。


「あれは……」


 確か、ビームガンだったか?

 魔石の魔力をエネルギーに変換し、ビーム攻撃が打てる拳銃のような武器。


 それが10……20……30……40……50。


 イブリスの後ろに構えられる。

 そして。


「ファイヤー!」


 イブリスが小さく呟くと、ビームガンから一斉にビームが放たれる。


 バキュン。

 バキュンバキュンバキュンと。


 敵に狙いなど定める必要もないとばかりに、狂い撃つ。


「がっ……あが……がああああ」


 もはや点ではなく面で襲い来るビーム攻撃に為す術なく、巨人アトラスは光の粒子となって消滅した。


「ふぅ……結構余裕で勝てたっすね。どうですかみなさん、自分、結構やるんですよ!」

「イブリス……今の戦い方は?」

「えっと、事前に量産しておいたビームガンをアイテムボックスの中から銃口だけ出して一斉射撃! って感じですね」

「そ、そうか……凄いな」

「えへへ。リュクスさんにそう言って貰えると自信になるなぁ」


 相変わらず目が合わないが、嬉しそうに笑うイブリス。


 なるほど。


 なるほどね。


 ゲームだとビームガン作っても、一丁しか持てなかったからな。


 武器は一つまで。


 そんなゲーム故の制約を、こんな形で取っ払ってきたか。


 事前準備さえ済ませれば……どんな相手にも負けないくらいの強さを発揮できる。

 そういう感じの進化してきたか~。


「でも良かったのかイブリス。ここであんなに撃ちまくって」


 ビームガンは強力だが、ある程度撃ったら魔石によるチャージが必要な武器だ。

 それを50丁分。結構大変な量力だと思うが。


「え? あはは、嫌っすよリュクスさん。あのレベルの敵に全力なんて出さないっす。まだ強い武器は沢山あるから安心してください」

「な、なるほど」


 どうやら、もっと強い武器まで作ってあるらしい。

 褒められたからか、鼻歌を歌いながら先を歩くイブリスと、その後に続く俺たち。


 上機嫌なイブリスに聞こえないように、エリザが小声で話し掛けてきた。


「ねぇ」

「うん?」

「私たち、ついてくる必要なかったんじゃない?」

「俺もちょっとそう思ってた」


「私なんてもっとだよ……」


 背中にアズリアの暗い声がした。


***

***

***

あとがき


時折出てくるさわやかななゲーム版レオンの「誰だコイツ?」感がヤバイ。


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