第114話 最強装備
「ピリカちゃん、告白うまく行ったかな~」
「ねー」
「クロウくんならちゃんと受け止めてくれると思うけど」
リュクスがイブリスと話している頃。
アズリア、エル、ラトラの三人は当たり前のようにアズリアの部屋に集まってパジャマパーティーを楽しんでいた。
以前、ゼルディア家の別邸で合宿をしたときは、3人の友人関係はBチーム内で閉じていた。
だが模擬戦以降、Aチームだった生徒たちとも友好関係が広がっている。
すなわち、以前より多くの人間関係、主に恋愛方面の情報が多く集まっている。
必然、会話は盛り上がってくる。
「私の情報だけどさ。この合宿中に告白しようって子、結構いるらしいよ~」
「ええ!?」
エルの言葉に、アズリアは興味深々のようだ。
一方のラトラはうんざりといった様子だ。
「はぁ……じゃあオリエテーション終わったらクラスにカップル増えまくるのかぁ。憂鬱だな」
「でも幸せならいいことなんじゃない?」
「またアズリアはいい子ちゃんなこと言って~! 少しは危機感を持ちなさいよ」
「危機感?」
ラトラの言葉に首を傾げるアズリア。
「そうそうラトラの言うとおりだよ~! 王女様の手前おとなしくしてるけど、密かにリュクスくんを狙っている子は多いと思うよ!」
「え、えええ!?」
「ウチもそう思う。学校も放課後も常にレオンのやつが張り付いてるから声かけられないだけで、意識している子は絶対いるって」
「うう……だよねぇ。模擬戦の時も格好良かったもんね」
リュクスがレオンやリィラと共にガリルエンデと戦ったのは、クラスメイトたちの記憶に新しい。
その活躍を目の当たりにし、異性として意識する子が出てくるのも無理はないだろう。
「それに、悔しいけどレオンと並んでると絵になるしね……」
「ねぇ。まさに美男美女。まぁ美女じゃないんだけど~」
「わかるよエル。言いたいことはわかる」
黙って頷き合う三人。
「でも……。リュクスくんが他の女の子と付き合うってなったら悲しいけど。リュクスくんが幸せなら私はそれでいいかな」
「駄目っ!」
「ひゃ!? 何!?」
突如叫んだエルに驚くアズリア。
「エルの言うとおり。アズリア。アンタも幸せにならないと駄目なの!」
「そうだよ! アズリアとリュクスくんの間にはBチームで培った絆がある!」
「積極的に使っていこう!」
「でもなぁ……最近話せてないからなぁ」
二人の言葉にしょぼんとするアズリア。
模擬戦以降、キメラ問題でリュクスは常に忙しく、アズリアはゆっくり話すタイミングを逃していた。
「リュクスのやつ! アズリアを放っておくなんて許せん!」
「よし! 今からリュクスくんの部屋に乗り込もう!」
「二人とも落ち着いて! 駄目だよ……うん?」
その時、部屋の窓がカツカツと叩かれた。
3人に緊張が走る。
不審者か?
警戒しつつカーテンを開く。
「コウモリ……?」
「あ、これアレだよ。前にリュクスがレオンの魔法をコピってた」
「フォトンディメンジョンだっけ?」
「そうそう。リュクスはシャチかゴリラを出したかったのに、クモとコウモリしか出せなくて落ちこんでたやつ」
「あ~リュクスくんにしては珍しく落ちこんでたね」
「あ、手紙持ってる」
闇で出来たコウモリを部屋の中に入れてやる。
アズリアが手紙を手に取った瞬間、コウモリは消滅した。
二つ折りされた手紙を見てみる。
「ええと」
手紙にはこう書いてあった。
『アズリアへ。大事な用事がある。23時。合宿所の入口に来て欲しい。 リュクス・ゼルディア』
「「告白キター!!!」」
エルとラトラが沸いた。
「え? え?」
アズリアだけがまだ理解が追いつかず、あわあわしている。
「すぐに準備しようアズリア!」
「服はジャージしか持ち込めないから仕方ないけど」
「メイクはウチがやってあげる!」
「下着も手持ちの中で一番可愛いのに付け替えよう!」
「ふ、二人とも……でもお願いしていいかな!」
リュクスに告白されるかもしれない。
もし自分一人でこの手紙を受け取っていたら、固まって身動きできなくなっていただろう。
友人二人が、今は妙に頼もしい。
「ウチが全力で、アンタを最っ高に可愛くしてあげるからね!」
感極まったのか、ちょっと泣き始めているラトラ。
「今夜は帰ってこなくていいからね!」
告白の先の展開まで見据えるエル。
「も、もう……そこまでは行かないよぉ!」
まんざらでもないアズリア。
かくして。
女子として、今できる限りの最強装備を整えたアズリアはゆっくりと階段を下る。
静寂のせいか、心臓の鼓動がいつもより大きく聞こえる。
まるで耳のすぐ横で鳴っているのではないかと思うほど大きな音。
彼に聞こえてしまわないだろうか?
そんな心配をしながら、約束の場所へと辿り着く。
「おお、早いなアズリア」
「うん。待たせてごめんね」
「いや、それほど待ってないから大丈夫だ」
「えっと……その。手紙見たんだけど……今日は、何の用なのかな?」
月光に照らされた正面玄関は、どこか幻想的で。
足元のライトがその行く末を見守るように優しく二人を照らしていた。
「アズリア……俺と」
「うん……」
「俺とダンジョンに行ってくれ」
「はい。よろこん――え?」
その時、背後の扉……合宿所の扉が開く。
「お待たせっす」
「あら、その子も誘ったのね」
トイレに行っていたイブリスと、準備を整えたエリザがやってきた。
「おう。ダンジョン探索には、アズリアの能力は欠かせないからな。いや、来てくれて助かったよ。ゲリウスくんにも声かけたけどもう寝ちゃったみたいで……あれ? アズリア?」
(うん、なんとなくそんな気はしてた)
そう思いつつ、それでもやりきれない思いを隠すために、アズリアはそっぽを向いた。
「え、アズリア、なんか怒ってる?」
「別に」
「やっぱ怒ってるでしょ!?」
「アンタ……何したの?」
「何もしてないって。だよなアズリア」
「知らな~い」
そこまで腹は立っていないものの、アズリアは少し慌てるリュクスを見て、留飲を下げるのだった。
***
***
***
あとがき
急いでたのはわかるけど手紙はちゃんと書こう!というお話。
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