第113話 いい雰囲気だったので

「あわわ……すみませんすみません」


 俺とエリザが外に出ると、イブリスは怯えた様子でひれ伏した。


「やめなさいよ。なんか私たちがアンタを虐めてるみたいじゃない」

「でもでも。自分のせいでお二人で逢い引きしているところを邪魔してしまって……本当に申し訳ないというか」


「「逢い引き!?」」


 俺とエリザの声が重なった。

 どうやらイブリスは何か勘違いをしているようだ。


「あ、あ、あ、逢い引きって……なんでコイツと私が!?」

「え? 違うんですか? こんな時間に二人きりでしたのでつい……それになんだかとてもいい雰囲気でしたよ」

「……」


 まぁ確かに知らない人が見たらそう思うかも知れないけど。

 でも一応、そういう仲ではないと説明しておいた。


「そうなんですか……御三家のお二人ですし、お似合いのカップルだなって思ったんすけど」

「フッ。カップルね」


 え、なんかエリザが笑ってる。

 コワ~。


「登校免除の特別特待生っていうからどんな子かと思ったけど、なかなかいい子じゃない。イブリス・ロワールさんだったかしら?」

「は、はい。そうっすけど」

「私はエリザ・コーラル」

「はい、知ってます……」

「よろしく」

「よ、よろしく」


 何故か機嫌が良くなったエリザに握手され、困惑気味にこちらを見てくるイブリス。

 すまんなイブリス。


 俺にもエリザの心境がよくわからない。

 ブチ切れるかと思ったけど、そうはならなかったのを良しとしようじゃないか。


 その後、俺はエリザに経緯を説明した。


 イブリスとは、例のキメラ関連で協力を要請し、その過程で知り合ったと。

 ついでに言うと、この前の性別反転もこの子の作った薬のせいだと説明した。


「へぇ、いろいろな薬を作れるのね。凄い子じゃない」

「そ、それほどでも~」

「他にも面白い薬とかあるのかしら?」

「そうですね……女性が喜びそうなのだと……あ、惚れ薬とかありますよ!」

「惚れ薬……?」


 なんか恐い薬作ってんな……。

 経緯は敢えて聞かんけど。


「24時間っていう制限はありますが、対象を完全に自分に惚れさせることができる薬です! そうだ! お近づきの印に、エリザさんにも差し上げます! 1ダース」

「量多くない!?」

「業者かよ」


 ってか惚れ薬って……恐ろしい代物だな。

 24時間制限は一見短いように思えるが、既成事実を作るには十分過ぎる時間だし。


 エリザは……受け取るのだろうか?


 少し考えてから、彼女は口を開いた。


「いらないわ」

「え、えええ!? でも、どんな相手も惚れさせる薬ですよ!? 師匠にも絶対他人に渡しちゃいけないって言われてる超強力な」


 じゃあ渡すな。


「だから要らないわ」

「す、凄いっす! 流石御三家のお嬢様。狙った男は自分の魅力で落とす……っていう訳っすね!」

「そういう訳じゃないわ。うだつの上がらない相手を自分にメロメロにさせる。少し興味はあるけれど……」


 エリザが一度言葉を切る。ちらりとこちらを見た気がしたが、気のせいだろうか。


「薬の効果が切れたとき、きっとすごく悲しくなるわ。それに耐えられる気がしないのよね」

「な、なるほど……深いっすね」


 イブリスはどこか納得していないようだったが、俺はエリザの言いたいことがなんとなくわかる。


「ていうか、薬とかでもうでもいいのよ」

「どうでも!?」

「アンタ、なんでこんな夜遅くにダンジョンに向かっているのよ」


 忘れてた。

 そういえばそういう話だったな。


「忘れてたの?」

「いや、ちゃんと覚えてたよ?」


 エリザにギロりと睨まれる。


「えっとっすねぇ……」


 エリザに詰められると、少しおどおどした様子でイブリスは一枚の札を取り出した。


 それは究極の呪縛札。

 キメラの体の90%を吸収しているあのアイテムだ。


「この呪縛札からキメラちゃんの体を取り出すのに、このダンジョンのボスのドロップ素材が必要なんですよ」

「ここのダンジョンの?」


 そんな都合のいい話があるのか?

 そう思って尋ねると、イブリスはえへんと胸を張った。


「それは問題ないっす。自分、何にどんな素材が必要になるかっていうのがなんとなくわかるので」

「そうなんだ……」

「聞こえるんですよね……未知のアイテムの声が……だから、ちょっとダンジョンに入ってボスを倒してこようかと」

「ちょっとって……流石にボスを舐めすぎでしょ」

「いや……」


 イブリスはゲームだったらこの段階でレベル10程度だろうが……この世界でのキャラはみな独自の成長をしている。

 この様子だ。ダンジョンに入ったこともあるのだろう。


 だが、仮にそうだとしても、無理して一人でダンジョンに挑戦する必要はないように思う。


「なぁイブリス。明日第1班でダンジョンボスは攻略できると思うんだ。お前も明日、俺たちと一緒に……」

「ムリムリムリ。無理っす!」


 俺の提案を、イブリスは頭をブンブン振って拒否した。


「1班のメンバー、なんですかあれ! 戦闘エリートばかりじゃないですか! あんな人たちに囲まれてたら自分、虐められるに決まってます!」

「いや、みんなイイ奴らだぜ?」


 ちょっと暴走しがちだけどね。

 まぁそれは些細な問題だろう。

 楽しければいいじゃないか。


「ともかく、ダンジョンの探索は自分一人で大丈夫なんで。お二人は部屋に戻って下さい」

「……」


 俺とエリザは困った様子で顔を見合わせる。

 一人で大丈夫とは言っても、このまま見過ごす訳にはいかない。

 この世界に絶対はないのだから。


「わかった。もうお前を止めないよ。ただし、俺たちも一緒に行く」

「え、えええええ!?」

「構わないでしょ?」

「それで、さっさとボスを攻略して、早く戻ってこよう」

「みんなで行った方が早く終わるわよ」

「わ、わかりました。それじゃあエリザさんとリュクスさんの力をお借りするっす」

「よし、そうと決まれば」


 俺とエリザはダンジョン探索の準備を整えるため、一度部屋に戻って準備をするのだった。


***

***

***

あとがき


仮病でサボったけどイブリスも一班でした。

イブリスから見た一班、地獄だろうなーと。


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