第111話 3K

「何事よ!?」


 新人教師モレスが風呂を終えて歩いていると、男湯の前に大量の女子が群がっていた。


「君たち何しているの? 男湯の前に大勢で。ちょっとはしたないんじゃないかな?」


 教師モードで語りかけると、盛り上がっていた女子たちはしゅんとした様子で「すみません」と口にする。


 つい二ヶ月前まで学生だったモレス。


 合宿で浮かれる気持ちも、楽しそうに盛り上がっている男子達のことが気になってしまうのも理解できる。


 こうして頭ごなしに説教するのも可哀想と思いつつ、しかし立場上はこうして指導するしかない。


 教師って損な仕事だなと思いつつ、彼女たちから話を聞いてみる。

 そして、ひとつ思い当たる。


「なるほど。どうやら男子たちはアレをやっているんだね」

「「「アレ?」」」


 女子たちが一斉に首を傾げた。


「アレってなんですか?」

「気になりますわ」

「でも男湯かぁ……私じゃ干渉できないな。よし、先輩方を呼んでこよう」

「だからアレってなんなんですの!?」


 そんな女子生徒たちの疑問を背に、モレスは教員用の部屋へと向かった。



 ***


 ***


 ***


「ワイは滑らへん……トークでも、この勝負でも……ああああああ」


 ティラノのアホな戦術からの自爆に、男湯にドカっと笑いが起きる。

 もうかれこれ一時間くらい、こうして男湯でデスマッチを楽しんでいた。

 交代交代でいろんなやつがしょうもない条件でバトルをしては楽しんでいる。


「ゼルディアくん……デュフ。デュフ。次は俺と戦わないか? デュフ」

「どうしたんだキモータくん。真面目な顔をして」

「デュフデュフ。次は俺と……やらないか?」


 そんな時、キモータくんが勝負を仕掛けてきた。

 乗らない手はない。


「いいぜ。じゃあ俺が勝ったら君の家に伝わるという伝説の本とやらを見せてくれ」

「オーケーデュフ。俺が勝ったら……ゼルディアくん。また君に女の子になってもらうよ。そして手繋ぎのリベンジマッチをしたい……デュフ」


 なんだその条件? と思ったが、負けるつもりはないのでオーケーした。


 俺とキモータくん、二人がバトルフィールドに立つ。


「バトル開始ィ」


 そしてバトルが始まった。

 さて、キモータくんはかなり重量のあるやつだ。


 普通に戦っていては敗北は必至。


 どうやって攻めようか。


「デュフ。いい感じに床がヌメっているようだね」


 そう考えていると、突如、キモータくんはうつ伏せに寝っ転がった。

 そして、床のヌメヌメを利用して加速。こちらに突っ込んでくる。


「なっ!? 一体何を!?」

「デュフフ。これこそ俺が編み出した究極の戦法」

「いや反則だろ!」


 そう思ってリング外のゲリウスくんを見る。


「いや……尻餅をつかなければ負けじゃない。むしろ最初の君の石鹸戦術の方が反則に近い気がする」

「よし止め止め、この話ここまでー」

「さぁゼルディアくん。このまま体当たりして君をリングアウトさせてやるよ……デュフ」


 加速を始めるキモータくん。

 踏ん張りの効かないこのフィールドで直撃すれば吹っ飛ばされるだろう。


「汚い! 絵面も汚ければやり方も汚いし衛生的にも汚い!」

「デゥフ。何とでも言え、食らえ――フルダイブ・ディーティー・スマッシャー!」

「食らうかよ――回避!」

「デュッフフ。このフィールドでそんな動きをしたらすぐに転んで……何!?」


 俺はなんてことなく、キモータくんの攻撃を回避した。


「ば、馬鹿な!? このフィールドでそんな大胆な回避が……君、まさか!?」

「そう、そのまさかだ。俺は今までの試合を魔眼で観戦していた」


 滑りやすい男湯でのみんなの立ち回り、工夫。それら全てを学習し、自らの肉体にフィードバックさせていた。

 デスマッチ中でなければ……魔眼の使用は反則ではない。


「ヌメヌメは完全に克服していたのさ」

「ぐぬぬ……おのれええええ」


 スピードを出しすぎたキモータくんはそのままリングアウト。

 勢い余って壁に激突した。


「キモータくうううううん!?」


 犠牲は出たが、俺の勝ちだ。


 俺は他の男子からの称賛の声を浴びながら、バトルフィールドを出る。

 すると、脱衣場の方が騒がしい。


 ドカドカと、大勢が押しかけている気配があった。


「なんだなんだ?」

「不味いよリュクスくん。先生たちだ」

「何!?」


 どうやら騒ぎを聞きつけた先生たちがやってきたようだ。


「ヤバいな……」

「ああ。このままじゃ確実に」

「怒られる」


 なんとか隠蔽をしようと模索したが、遠くに横たわるキモータくんの死体が厄介だ。

 計算したが、完全隠蔽には1秒足りない。


 そうしている間に、男湯の扉が開かれた。


 そこには数名の、腰にタオルだけを巻いた男性教師たちが立っていた。


 こりゃ全員説教かなと皆が絶望した時。


 男性教師が叫んだ。


「我々も混ぜろおおおおおおお!」

「「「うおおおおおおおお」」」


 その後、先生たちも交えて、デスマッチは滅茶苦茶盛り上がった。


 そのさらに一時間後、ブチ切れた学園長が乗り込んでくるまで、男たちの宴は続くのだった。


***

***

***

あとがき


私事で恐縮ですが私の書籍化作品である「お前のような初心者がいるか!」のコミカライズ版4巻が明日、2月17日に発売となります。


興味があるという方は、近況ノートをご覧ください。


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