第109話 癒しの入浴タイム

 一日目の日程を終えた俺たちは、夕食後の風呂を楽しんだ。


「ねぇ、本当に跡になってない?」

「何度も確認しただろ?」

「でも痛いんだよなぁ」

「心配性だなレオンは。大丈夫だって」

「はぁ良かった。ボクの美しい体に傷跡でも残ったら大変だからね」


 あれ以降、レオンはずっと尻の怪我の心配をしていた。


 前は「ボク、不思議と一晩寝ればどんな怪我も完全治癒するんだよね~」と主人公補正マウントをとってきていたのだが、流石に尻の傷は気になるらしい。


 相変わらずナルシだなぁと思いつつ、俺とレオンは風呂から上がる。


 すると、脱衣所が一際明るくなる。

 ティラノが入ってきたのだ。


「なんや男ばっかやなぁ。むさ苦しいわ」


 男湯だから当然なんだが?

 入ってくるなりそう言い放ったティラノを無視する。


「髪乾かしてやろうかレオン?」

「自分で出来るからいいもーん」

「そうか偉いぞ」


 俺はバスタオルで体の水分を取り始める。

 そんな風に無視されたことを気にする様子もなく、ティラノは俺に近づくと、気安く肩を叩いてきた。


「なぁリュクス、レオン。女湯でも覗きに行かへん?」

「はぁ? キモ。死ね」

「本気で言ってるなら人として軽蔑するわ」


「じ、冗談やん。そんなに本気で怒らんでもええやんねん」


 ガチ目の拒絶に涙目になるティラノ。

 いや、本気だったらマジで冗談じゃ済まないからな?


「そんなに覗きたいなら、ボクがお前の首を切って女湯に投げ込んでやろうか?」

「やめてやれよ。自分たちの領域にゴミ投げ入れられるのは女子が可哀想だろ」

「ワイの首はゴミやあらへん……光り輝く宝石や」


 宝石は調子に乗りすぎだろう。

 光り輝いてはいるけど。


「まぁ覗きは冗談や。貴族のお嬢さんたちの風呂を覗くなんて真似、ワイはやらへん」

「まるで相手が貴族じゃなかったらやっていたような言い草だな。で、本当の目的はなんだよ? その手に持っているカメラはなんだ?」


 覗き目的じゃないなんて言っているが、正直説得力がない。

 カメラ片手に脱衣所に入ってくるのは同性だろうと事案だろう。


「ああちょっとな。リュクス、一枚写真撮らせてくれへん?」

「は? 俺の?」


 なんで今?

 という疑問を抱いたのも束の間、レオンの顔がぱっと輝く。


「へぇ。ピカピカの割には気が利くじゃん。ほら、ボクも一緒に撮りなよ。あ、そっちの角度からお願い」


 そう言うとレオンは俺の肩に手を回して、ティラノのカメラ位置まで指定し始めた。

 自分が一番美しく写る顔の角度を把握しているのだろう。

 流石レオンだぜ……じゃなくって。


「お、お二人さん仲いいやね。ほな旅の記念に一枚!」

「いえーい! はいリュクスも笑って! いえーい!」

「ちょっと待てや」


 ノリでシャッターを切ろうとするティラノを止める。


「なんやノリ悪いやないかリュクス」

「そうだよリュクス。ボクとツーショット撮るのがそんなに嫌?」


「嫌じゃないけど……服着させてもらっていいか?」


「なんやそんなことか。男がそんなこと気にしたらあかんで」


「いや気にしてないけどさ。こんな写真流出したら家の名前に傷がつくだろ?」


「ああなるほどやで」


 納得してくれたようだ。

 俺としては合宿のノリで撮っても全然構わないんだが、もし万が一のことがあって父上や兄さんに迷惑がかかるようなことは避けたい。


「じゃあ撮るやでー」

「話聞けや!」


 服着る言うとるやろ。

 俺は肩に回ったレオンの腕を振りほどこうとして……くっ。

 力が強くて外れねぇ!?


「逃げる気でしょ? そうはさせないよリュクス」

「はぁ? 誰が逃げるって?」


 顔がぶつかる程の距離でにらみ合う。


「おいおい。どうしたんだ二人とも」


 騒ぎを聞きつけたのか、慌てた様子のゲリウスくんが駆け寄ってきた。

 気が付けば、周囲の男子たちが不安そうにこちらを見ている。


「悪い。心配させたねゲリウスくん。実は……」


 俺はゲリウスくんに事情を説明した。


 経緯を聞いたゲリウスくんはうんうんと頷いた後、こう言った。


「百この二人が悪いよね」


 とレオンとティラノを睨んだ。


 ティラノは辺境伯の家の出であるゲリウスくんが恐いのか、縮こまっているが、レオンは強気だ。


「えぇ~? 貴族のくせに裸を撮られる度胸もないリュクスの方がどうかしてると思うけど?」

「ああ? 誰が勇気がないって?」


 悪いが今世の俺は裸にはちょっと自信があるんだぜ?

 何せ鍛えているからな。


 むしろ見せびらかしたいくらいだ。

 ただ撮られた写真が出回ったら家の迷惑になるかなと思っただけで。


「上等だレオン。今日という今日は決着をつけようじゃないか」

「いいねぇ。ボクもそろそろ、どっちが強いのかハッキリさせたいと思ってたところだよ」


 俺とレオンは同時にゲリウスくんを見る。


「わ、わかった。では二人にはアレで決着を付けてもらう」


「アレ?」

「決闘かな?」


「いや違う。古今東西、風呂場で貴族が揉めるというのは昔からよくあること。そんなとき、貴族たちはアレで決着を付けていたのだ」


 だからアレってなんだ?


「リュクスくん。レオンくん。今から君たち二人にはデスマッチで決着をつけてもらう」


「「デスマッチ!?」」


「騒ぎが女子に伝わったら面倒だ。手短に準備を終えよう」


 ***


 俺たちは場所は浴場に移すと、デスマッチの準備を終えた。


 浴場の中央には紐状にしたバスタオルで円が描かれている。

 直系は5メートル。

 相撲の土俵より少し広いくらいか。


 その中に、俺とレオンがタオル一枚で向かい合って立っている。


「では、二人とも初めてらしいから軽くルールを説明しておこう」


 ~デスマッチ~


 ○貴族同士が己のプライドを賭けて戦う遊び

 ○制限時間なし

 ○魔法・スキル・武器の使用不可

 ○敗北条件

 ・腰のタオルを奪われ息子を晒す

 ・尻が地面につく

 ・フィールドの外に出る


「という訳だ。わかったかな」


「オッケー。ありがとうゲリウスくん」

「辛いなぁ。リュクスのりゅくすをみんなの前に晒すことになるなんて」

「はぁ? 俺は負けるつもりないけど?」


 ピリピリした空気を感じ取ったゲリウスくんが慌てて口を開く。


「じ、じゃあ最後に、お互いが勝った後に望む条件を宣言しておこうか」


「ボクが勝ったら、このままタオル一枚で二人で記念写真を撮る」

「俺が勝ったら、ちゃんと服を着て二人で記念写真を撮る」


「お前らメッチャ仲良しやん?」


 うるさいぞティラノ。

 この戦いは……負けられないんだよ。


「では戦いを始めよう。デスマッチ開始ィー!」


 ゲリウスくんの宣言と共に、ギャラリーが盛り上がる。

 コイツ等……それにレオンも……初めての合宿で完全にハイになってやがる……。


***

***

***

あとがき


待たせたな!

数十話ぶり、待望の風呂回!


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