第107話 ライジングサン
ダンジョンの初級エリア。
暗く広い洞窟のようなこの場所は、明かりさえあれば周囲を広く見渡せる。
そんな初級エリアの遠くの方で、光のネズミが「ジュウウウ」と敵を倒す音が聞こえる。
攻撃時に激しく発光するからわかりやすい。
ゆっくりだが確実に敵を倒すその姿を見て、俺も負けるわけにはいかないと気合を入れる。
「ええと……いたいた」
俺は物陰からこちらの様子を窺っているモンスター二体を見据える。
魔眼を覚醒状態にして……。
「――ドミネーション!」
はじまりのダンジョンの雑魚モンスター、インプとバケコウモリを支配下に置く。
二体のモンスターはキビキビとした動きで俺の前に来ると、その場で跪いた。
「キーキー!」
「インップ!」
「り、リュクスくん……君、テイマーだったの!? 先生聞いてないんだけど!?」
「ちょっと違いますね。イミテーション起動――リミテッド・フュージョン!」
さらにポパルピトが使った融合魔法を解析し、独自発展させた魔法を発動。
インプとバケコウモリ、二体のモンスターが混じり合い、新たなモンスターが姿を現した。
「グオオオオオ!」
コウモリの羽を生やした悪魔のようなモンスター。
手が異様に長く、爪は刃物のように鋭い。
どうやら俺が使用すると、ポパルピトの時のようにただのツギハギ合体ではなく、ちゃんと元の意匠を受け継いで発展進化させた見た目になるようだ。
だが、逆に弱点もある。
融合したモンスターはイミテーションで作り出した物質と同じように、存在のために闇の魔力を消費する。
そして魔力を使い果たした時、そのまま消滅してしまうのだ。
「とはいえ、その方がいいのかもしれないな」
下手に消えることができず、キメラのようになってしまっても大変だ。
ダンジョンで手ごまを増やす用の魔法として、割り切っていこう。
「ギョイ……」
生み出された悪魔型のモンスターを見やる。
そのうつろな目には、キメラから感じたような意志とか命のようなものは感じない。
そこら辺のダンジョンモンスターと同じく、ただ敵を排除するための兵隊といった感じだ。
俺が複製した融合魔法がポパルピトの融合魔法に劣っているようで癪だが、逆に言えばこうして意志なんて宿らない方が、駒として使いやすい。
「ええと。よし、お前の名前はFデーモンだ」
「ギョイ」
「Fデーモン。お前はあっちの方へ進み、敵を倒せ」
「ギョイッシャ!」
のっしのっしとFデーモンはダンジョンを進んでいく。
抑えめとは言っても、このダンジョンのモンスターに負けることはないだろう。
さっそくFデーモンは徘徊していたインプを発見。
逃げ出すインプを追いかけ、その心臓に爪を突き刺し撃破した。
「へぇ、リュクスやるじゃん」
「レオンこそ」
「ち、ちょっとちょっと君たち」
何か言いたげなモレス先生に、俺たちは振り返る。
「一体何をやっているの!?」
「何って……」
「先生が全てのモンスターを倒せというので」
「そこまでは言ってないよ!?」
あれ、そうだったろうか。
「それに、あんな魔法に頼っていたら意味ないよ。自分の力でモンスターを倒さないと」
「はは。ここのモンスターを倒すのに、わざわざ自分の手を汚すこともないかと」
「ははじゃないよ!? このオリエンテーションの趣旨をガン無視じゃない」
「先生。では自分でモンスターを殲滅すれば問題ないですよね?」
モレス先生に意見したのはリィラだった。
「だから殲滅しろとまでとは……」
「私にお任せを――ヘブンズフェニックス!」
「言って……ないのに……」
リィラが放ったのは聖なる炎。
彼女から解き放たれた聖なる力は不死鳥の姿となって初級エリアの中央まで飛んでいき、そして地面に急降下する。
「――エクスターミネイト!」
不死鳥が地面にぶつかった瞬間、とてつもない爆発が起こりダンジョン全体を照らす。
松明やかがり火が頼りなく照らす薄暗いダンジョンの中を、まるで朝日が昇ったかのような光が包む。
ダンジョンに住まう者たちが生まれて初めて見たであろう強い輝き。
だが次の瞬間には、広範囲に広がった聖なる炎が魔物たちを飲み込み、一匹残らず蒸発させていく。
ここに居る雑魚モンスターなんて、聖なる炎の火の粉に掠っただけでも致命傷だろうに……。
「な……何よこれ何よこれ何よこれ……」
呆気にとられるモレス先生。
「ボクのネズミも死んだんだけど……」
「俺のFデーモンも……」
巻き添え多数。
そんな小さな犠牲には目もくれず、未だ外のように明るくなった男女の中で、リィラはドヤっと胸を張った。
「どうでしょうか先生?」
「どうでしょうかって言われても……」
目を瞑り「ううむ……」と唸る先生。
よし、ここだな。
「先生。お言葉ですが、このまま俺たちが本気でモンスターと戦うと、後からくる他の班が訓練するためのモンスターがいなくなります」
ダンジョンは無限に雑魚モンスターをリポップさせるが、その速度は緩やかだ。
これ以上やると、このオリエンテーション中に満足にモンスターが再配置されない恐れがある。
先生は涙目で俺を睨む。
まるで「これが狙いだったのね?」とでも言いたげだ。
そうなんだけど、睨むのはやめてほしい。
俺たちが本気でもモンスターと戦うと、どうしてもこうなるから。
「何か問題があったら……学園長になんとかしてもらおう」
ぼそぼそと何かを呟く先生。そして。
「……わ、わかりました。一日目。二日目の行程をクリアしたことにします」
「やった!」
喜ぶリィラ。
「はじめからそうしろよ」
悪態つくレオン。
「私まだ何もしてないんだけどぉ。筋肉が疼くよぅ」
「同じく。ちぇ、魔法組はズルいな~」
プロテアとクレアは少し不満そうだった。
「中ボスは二人に譲るよ」
「コホン」
先生は仕切り直しにとばかりに咳払いをした。
「と、特例中の特例ですが……今から三日目の行程に入ります。ついてきてください。危険なダンジョンのギミックについて解説します」
俺たちは、先生の後に続く。
このペースなら本当に今日中にこのダンジョンをクリアできそうだ。
***
***
***
あとがき
大丈夫。全責任は学園長って人がとってくれるって言ってた。
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