第106話 はじまりのダンジョン

 はじまりのダンジョン。


 ゲームブレイズファンタジーで一番最初に攻略することになるダンジョンである。


 オリエンテーション後から自由に挑戦することができるようになり、学園パートでパーティーを組めるようになった仲間と共に挑戦し、クリアを目指す。


 攻略推奨レベルは10~15。


 出現モンスターに偏りはなく、様々な雑魚が満遍なく出現するが、特段苦戦するようなやつはいない。


 ゲームに慣れ親しんだ人なら動画見ながらとかでも簡単に攻略できるレベルだろう。

 なのだが。


「駄目です」


 ダンジョンに降りてくるまでの間に、リィラの説得を聞いていたモレス先生はきっぱりとそう言った。


「何故でしょうか?」

「君たち。ダンジョンを舐め過ぎてるよ? 確かに君たちは転移させられたボスモンスターを倒したかもしれない。でもそれは、ダンジョンの外での話でしょう? きっと君たちの戦ったボスモンスターは、実力の半分も出せていなかったんじゃないかな?」


 先生の言うことにも一理あった。

 ダンジョンボスは単体で強力なのはもちろんだが、一番厄介なのは実はダンジョンのギミックだったりする。

 例えばガリルエンデと戦うボス部屋は闘技場のようになっており、非常に狭い空間で戦う。

 限られた移動範囲で敵の攻撃を躱しながら戦う必要があるし、一方のガリルエンデはプレイヤーが入れない観客席の方まで移動してこちらの攻撃を回避してきたりする。


 ダンジョンのボス部屋はいわばボスたちのホームグラウンドなのだ。


 訓練場という比較的広い空間で戦っていたから被害者が出ずに済んだが、専用のボス部屋で戦っていたら、もっと多くの犠牲者が出ていただろう。


「いい? ダンジョンに挑戦する冒険者っていうのはね、初心者は案外死なないものなのよ。逆に慣れてきた自称中級者みたいな連中が一番死ぬの。それは何故かわかる?」

「油断……ですか?」

「そのとおり」


 リィラが難しい顔になる。

 先生の言うことに納得しているのだろう。

 リィラじゃ説得は無理だと思ったのか、今度はレオンが口を開いた。


「そこのお姫様は知らないけどさ。ボクやリュクスはのボスモンスター討伐経験があるし、舐めてもいないし慢心もしていないんだけど?」

「駄目です。少なくともこの国ではダンジョンで自由に活動するにはライセンスが必要なの。今回はその講習。そして、私は教官。言うことには従ってもらいますよ」

「……あーあ。もうめんどくさいなぁ」


 レオンは俺たちの方に振り返る。


「面倒だからコイツ倒して先に行こうよ」

「……」


 場に緊張感が走る。

 参ったな。


 俺としては先生が駄目といったら大人しく引き下がるつもりだった。

 けれど今思えば、駄目と言われた後にレオンのモチベーションが下がるのは目に見えていた。

 不用意に乗せてしまった俺の責任でもあるな……。


「先生」

「何かなリュクスくん。時間がないんだけど」

「俺たちは今日から五日間かけてライセンス取得のための3つの条件をクリアしていく。今日明日で初級エリアのモンスターを使って戦闘の基礎をマスターするとしおりにあります」

「ええ。君たちにはこれから、このダンジョンの初級エリアのモンスターと戦闘してもらうつもりよ」

「この過程は飛ばしてしまって構わないと思います。そして三日目の行程であるダンジョンの危険なギミックの解説……これは今日、ボス部屋に移動しながら行いましょう」

「なっ……!?」

「そして最後の項目。初級エリアの中間ボスの撃破もついでに済ませてしまえば、お昼前にはライセンス取得の条件を満たせますよね?」

「あ、甘いよ君たち!? ここのモンスターを舐めすぎ」


 俺の言い方が勘に障ったのだろう。

 先生は怒った様子で声を荒げた。


「戦闘訓練を飛ばす? 何を言っているの! ここのモンスターを自力で倒せないまま卒業する先輩たちだって大勢いるんだよ!? そもそもこのオリエンテーション中にライセンスを取得できるのだって、上位数名なんだからね!?」


 それは知っている。


 兄さんも夏休み後にようやく取得したと言っていたし。


 だからといってルールに従って不機嫌なレオンを宥めつつ二日間も雑魚モンスターを倒し続けるのは面倒だ。

 むしろそっちの方がとんでもない事態になる可能性もある。


「わかりました。では、モンスターを倒せれば問題ないんですね?」

「ただ倒せればいい訳じゃないからね。この初級エリアに居るモンスターは、別のダンジョンに居る強力なモンスターにも通じる基礎的な動きをしてくる。全てのモンスターを問題なく倒せるくらいじゃないと条件をクリアしたことには……」

「聞いたかレオン?」

「うん。このエリアのモンスターを全て倒せばいいわけだね」


「ちょっと何言って……」


 レオンはニヤリと笑うと、魔力を練り上げた。


「――フォトン・ディメンジョン!」


 地面に魔法陣が展開し、そこから小さな白いネズミが姿を現した。


「ぴっ!」

「へぇ、可愛いですね」


 レオンが魔法によって作り上げた疑似生命体に感激するリィラ。


「レオンくんが作ったにしては」

「うるさ」

「名前とかはあるんですか?」

「名前? ないけど」

「では私がつけてあげましょう。ええと。白い毛並みに虹色のパーティクルのネズミさん。いつか海外の商人さんに見せて頂いた真珠を思わせます。そうだ、『パール』ちゃんとかどうでしょう?」


 なんかその名前はマズい気がする。


「いけネズミ! この付近の魔物を殲滅しろ」(無視)

「ビガジュ!」

「ああっ……行ってしまいました」


 レオンのネズミは遠くの方へと駆けていった。


「れ、レオンくん!? 一体何を!?」


 モレス先生に、レオンは挑発的に答える。


「お前が言ったんだろ。この付近の魔物をすべて倒せってさ。いいよ、やってあげるよ」

「すべて倒せなんて……私そこまでは」

「トリプルトプス相手じゃ囮にしかできなかったけど、ここの雑魚相手なら問題なく倒せるよ」


 とんでもないことを言ってしまったかもしれない。

 そう思っているのか、モレス先生の顔は青ざめていた。

 助けるような視線でこちらを見てくる。


「レオン。それじゃ駄目だ」

「リュクスくん……!」


 先生の目が輝く。


「中途半端は良くない。殲滅するくらいの気持ちでいかないと」

「リュクスくん……!?」


 先生の目が虚ろになった。


「へぇ……じゃあリュクスはどんな魔法を見せてくれるのかな?」


 挑戦的なレオンの目。

 半端な魔法じゃ、笑われてしまうだろう。

 それじゃあこの日のために考えておいたとっておきをやってみよう。


「リュクスくん……先生が悪かったから、あまり変なことは……」


 後ろで先生が何か言っている気がしていたが、魔力を練り上げるのに夢中で聞こえなかった。


***

***

***

あとがき


IFルート

リュ「先生の言う通りにしないと駄目だぞレオン」→雑魚と戦うの暇→同じく暇なクレアと雑談→揉める→二人で競いながら勝手に奥へ進んでいく→大惨事☆


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