第105話 一軍!?
オリエンテーション当日。
俺たち王立学園一年生は、御三家最後の一角であるトライメア家領地にあるモーメルという町にやってきた。
転移ゲートを潜った先には、王都とは違う荒々しい雰囲気の町が広がっている。
初心者向けのダンジョンである【はじまりのダンジョン】のあるこの町は駆け出し~指導者クラスの中級冒険者、またその活動を支援するための組織だったり宿屋だったりで栄えている。
このオリエンテーションが行われる五日間はダンジョンを学園が貸し切るためか冒険者の数は少ないが、それでも町は活気に溢れていた。
町を抜けてダンジョンの近くに向かうと、その横に場違いに立派で豪華な合宿施設が姿を表す。
これから俺たちが五日間を過ごす合宿所だ。
だが、ゆっくりすることは許されない。
フロントに荷物を預けた俺たちはすぐにダンジョンの入口に向かい、あらかじめ決められていたという班に分けられる。
「ええと、俺は1班だったよな……」
指導担当の先生はモレスというらしい。
聞いたことのない名前なので、ネームドキャラではなさそうだ。
どんな人なんだろう。
そう思いながら、1班のミーティングルームに向かう。
ダンジョンの入口も施設化されており、受付や素材の換金所に食事処。パーティー募集の掲示板。さらには攻略前の作戦会議に使えるミーティングルームまで完備されている。
なんとなく、複合オフィスの1Fのような雰囲気がある。
「ええと、ここだな」
ミーティングルームとは言っても、学園の一年生はかなりの人数で、十数班に別れている。
なので、大きな会議室をパーテーションで区切った簡易的な空間である。
「遅いよーリュクス」
「はは、さっき話したばかりじゃん」
俺の入室に真っ先に気づいたのはレオン。
「ほらほら座って座って」
「それじゃ失礼」
レオンに促されて、隣に座る。
「もうリュクスくん。私も椅子を空けて待っていたんですよ?」ぷくー
同じく俺のために席をとっておいてくれたらしいリィラ。
手を合わせてジェスチャーで謝罪しておく。
この学年で唯一キメラのことを気にかけてくれていたリィラには事情を早く説明しておきたかったが、朝は時間がなかった。
オリエンテーションとはいえダンジョンに入ってからする話でもないし、後ででいいだろう。
「やぁリュクス。おはよう」
「おう。おはようクレア」
「あはは。何その返事。緊張はしていないのかい?」
「まぁ留学中に結構潜ってたからな」
「私ももっと凄いダンジョンに、父上についてよく潜ってたから。なんだか物足りないよね。どうせなら誰も攻略したことのないダンジョンに挑戦したいよ」
「まぁそれは今後だろ。今日は復習だと思って気楽に行こうぜ」
「だね」
残るメンバーは椅子の上で人差し指一本で逆立ちしているプロテア・インザバース。
そして「人が多いの無理っす」と合宿所に帰ってしまったイブリス。
さらに俺を入れて6人。
ブレイズファンタジーのパーティー人数と同じ6人だ(一人欠席)。
「おいアレ見ろよ……」
「な、なんて面子なの!?」
「1班か……」
「間違いなくうちらの代の一軍よね」
通り抜けていく他の生徒たちが口々にそんなことを言っている。
なるほど、考えたことはなかったが、確かにここに居るメンバーは一年生の中でも上位の実力者たちだ。
こと戦闘に関しては、おこがましいかもしれないが学園で教わることはなにもない。
無論、よりステップアップするために基礎をしっかり鍛え直す必要はあるものの、現状、今回のオリエンテーションで学ぶことは何もないだろう。
【はじまりのダンジョン】は全1階層しかなく、ゲームでも最初に攻略できる一番簡単なダンジョンだ。
そうなると、学園の狙いも読めてくる。
俺たちのように一般より力を付けている生徒は、かえって他の生徒の指導の邪魔になると考えたのだろう。
だからこそ、こうして一カ所にまとめられた。
一軍というのもあながち間違ってはいないのかもしれない。
もちろんこの条件に当てはまらないイブリスも混じっているが、そこに関しては学園長の仕業だろう。
要するに鍛えてほしかったのだろう。
まぁ、来てないんだけど……。
「もしかしたら、今日中にクリアできるかもな」
「クリアって……まさかボスを倒すってこと?」
隣のクレアが食いついた。
「このメンバーなら余裕だろ?」
ボス戦をやるにはちょっと攻めに寄りすぎているような気もするが、俺とレオンがサポートに回ればなんとかなりそうだ。
「あはは! 面白そう。先生が来たら聞いてみようよ!」
「ま、ボクは元からそのつもりだったけどね」
レオンは最初から初日でダンジョンボスを倒すつもりだったようだ。
戦い慣れていない子と同じ班にならなくて良かった。悲惨なことになっていた。
「では、私の方から先生に提案してみましょう」
リィラも乗り気のようだ。
「はい静粛にー。今から点呼を取ります。プロテアさん、ちゃんと椅子に座る」
活発そうな黒いショートカットの女性、モレス先生が入ってきた。
「随分若いな……」
「先生のことが気になるんですかリュクスくん?」
「いや、ただそう思っただけ」
見た目が日本人ぽいからか、かなり若く見える。俺たちと同じか、ちょっと上くらいか。
学園では見たことないから、普段は上級生の科目を担当しているのだろうか?
とはいえ、新人さんだろう。どこか初々しいというか、慣れていない雰囲気がある。
説得は容易そうだ。
「で、イブリスさんは体調不良欠席と。それじゃあ早速だけど、私たち1班は最初のスタートです。急いでダンジョンに向かうよ」
「先生!」
先生の言葉の後にリィラが手を上げた。
「ええと……はい。リィラ・スカーレットさん。何かな? 時間がないから手短にね」
「はい。ひとつ、私たちから提案があるのですがいいでしょうか?」
リィラの言葉にモレス先生は少し眉をぴくつかせる。
何かを警戒しているようにも見えるし、予定を狂わされないか怯えているようにも見える。
「わかった聞こう。でも時間がない。移動しながらでいいかな?」
ちょっとせっかち過ぎないかと思ったが、リィラは気にならなかったようだ。
構いません……と言いながら立ち上がる。
そしてダンジョンに移動がてら、今日中にボスを倒したい旨を伝えるのだった。
***
***
***
補足
オリエンテーションは生徒の能力によって班分けされています。(例外は1班)
1~8班 →戦闘能力のある生徒
9~10班 →補助を得意とする生徒
11~13班 →戦闘能力のない生徒
11~13班の子たちは講習をクリアすることで通常より少し制限の多いサブライセンスを取得可能です。
***
***
***
あとがき
「もしかしてあれが一軍!?」←違う
「面白かった」「続きが気になる!」という方は小説のフォロー、☆3評価を頂けるとモチベになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます