第102話 ダイブイン

 疲れた……。


 あの後、キメラに食事を与え風呂に入れて。

 その度に父上と兄さんが揉めて。


 大変だった。


 子供が出来て自分の思い通りの生活ができなくて大変~みたいなイベントは、少なくとも兄さんとイリーナさんが結婚して子供が生まれてからの話で、まだまだ先のことだと思っていたが……。


 想像以上に疲労した。

 俺、明日の朝早くから学校行事なんだけど?


「お疲れ様ですリュクスさま」

「ぱぁぱ!」


 部屋に入ろうとすると、メイドのモルガとキメラが待っていた。


「あれ? 父上と兄さんは?」


 キメラと一緒に寝る! と息巻いていたので安心して任せようと思っていたのだが。


「グレムさまもデニスさまもお疲れのようで、喧嘩したまま同じベッドでお休みになられました……と、何やら興奮した様子のウリアから聞きましたよ」

「何やってんだあの二人……」


 まぁ兄さんは仕事で。父上は短時間での長距離移動で疲れたんだろう。


 いや待てよ。


 ということは……。


「ええと。じゃあ俺の部屋に来たのって」

「はい。パパと寝たいそうですよ~?」


 ニヤニヤしながらモルガがそう言った。

 勘弁してくれ。


「なぁキメラ。今日はこっちのメイドさんと一緒に寝なさい」

「や」

「だらしないけど根はいい人だから。な?」

「や」

「モルガ、嫌だってさ」

「不当に私を下げるのやめてもらえません?」


 でも困ったな。

 このキメラ、怪獣の時は犬のように命令に忠実だったのに、幼女化してからわがままになってしまった。

 反抗期というやつかな?

 魔眼使おうかな?


「リュクスさま? 目が真っ赤ですよ?」

「なんでだろう。眠いからかな」

「怖いパパでちゅね~?」

「ね~」

「……。わかった。入っていいから。その代わり速攻で寝ろよ」

「あい!」


 キメラは俺の部屋に入ると、興奮気味にベッドにダイブした。


「あれ、リュクスさまのベッド滅茶苦茶広くなってますね?」

「ん? ああ、ちょっと前にウリアのヤツがさ」


 何故かベッドの大きさがキングサイズになる事件があったのだ。


「ジー」

「なんだよモルガ」

「いえ別に。女と寝ても大丈夫な広さにしたんですね~。はぁ、リュクスさまも年頃ですね~」

「違うって」

「ふかふか」

「ほら。ポンポン跳ねるな。このベッドは体重を預けた方が気持ちいいんだ」


 デカいベッドの真ん中に陣取ったキメラの横に、俺は寝転んだ。

 その様子を微笑ましそうに見ているモルガ。


「なんだよ」

「いえ。いつかリュクス様のお子様の面倒を見るのを楽しみにしてましたが……それももう、そんなに遠くない未来の話なんだなと思ったら、なんだか感慨深くて」


 何を見てそう思ったのやら……。

 結婚の予定どころか、恋人の予定すら今のところは皆無なのだ。


「いや。俺はしばらく、自分の恋愛はいいよ」

「駄目ですよ? リュクスさまには素晴らしい女性と結婚し、幸せになってもらわないと」

「気持ちは嬉しいけどお前にだけは言われたくない」

「あはは! 怒っちゃいやですよ~」

「すぅ……」

「あら?」

「おっと」


 俺とモルガは同時に押し黙る。

 話している間に、キメラは眠りについたようだ。

 こうして眠っていると本当に人間の子供のようで。


 あの凶悪な面構えをしていたキメラと同じ生き物とは到底思えなかった。


 俺はどうしてもあの顔が浮かんで、心から可愛がることができないけど。


 この見た目になったお陰で父上や兄さん、メイドたちに可愛がられるなら、進化してよかったのかもしれない。


「よいしょっと。いい子だから起きないでね~」

「連れいくのか?」

「はい。元々、寝かしつけるだけのつもりでしたので」

「重くないか?」

「余裕ですよ」

「そうか」

「はい。リュクスさまも相当お疲れですから。パパのお仕事は帰られてからでいいでしょう」

「助かる……」

「ちゃんと可愛がってあげてくださいよ?」


 眠ったキメラをモルガが抱っこした。


「さてそれじゃ。今日は私の部屋で面倒見ますよ」

「大丈夫?」

「ええ。リュクスさまのご苦労に比べれば、メイドの仕事なんて楽なもんです。体力は全然ありますよ」

「いやモルガの心配じゃなくて、お前、ちゃんと子供の面倒とか見られる?」

「そっちですか!?」


 食事とか平気でサボって死なせそう。

 お風呂だよ~って洗濯機に突っ込みそう。


 あ、この世界に洗濯機はないんだった。


 なら安心~とはならんけど。


「これでも孤児院に居た頃は年下の面倒とかよく見ていたんですよ」

「へぇ……意外だな」

「お仕事の手の抜き方とか、サボりスポットとか教えてあげてました」

「駄目な先輩だ……」


 ちょっと見直してたのに。


「モルガ。俺がオリエンテーション行ってる間、コイツを頼む」

「はい。任せて下さい」


 モルガはキメラを抱っこし、俺の部屋を後にした。


 その背が見えなくなるまで見送って。


 俺は眠りについた。


 キメラのことは一端忘れ。


 胸のざわつきも一端忘れ。


 明日から始まる楽しい楽しいオリエンテーションに思いを馳せる。



***

***

***

あとがき


多分先に寝たのはデニス。


※ウリアがリュクスのベッドを拡張した話はサポーター様限定SSにて!(露骨な宣伝)


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