第98話 意図せぬ救出
前書き
なんか下品な話が続いてしまって申し訳ない。これで終わりですのでどうか。
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訓練場で新たな異変が起きている。
俺の立場としては、調査するしかない。
だがそれにイブリスを巻き込んでいいものだろうか。
このままネギーに頼んで連れて帰ってもらった方がいいんじゃないか。
そう思っていたのだが。
「リュクスさんリュクスさん! 見て下さいよ~コレ!」
先ほどの疲れはどこへやら。
はしゃぎながらアイスウルフが落とした素材の回りをぴょんぴょん飛び回っている。
「Aランク相当の氷の魔石だぁ~これ普通に買ったら十万はするやつだ~それが三個も……」チラッ
「そ、そんなに欲しいならあげるけど」
「ほ、本当っすか! 流石リュクスさん! 御三家のお坊ちゃんは太っ腹っす」
「……」
初めての戦闘を経験して多少凹んでいるのかと思ったが。
たくましいな。
さすがヒロインと言ったところか。
これなら連れていっても大丈夫そうだ。
下手に分散するより、一緒に居た方がいい場合もあるからな。
「ふへへ。レア素材嬉しいな~何作ろうかな」
にへらにへらしながら、素材を何もない空間に放り込むイブリス。
「俺もイブリスがどんなものを作るのか楽しみ……って……は? え?」
「どうしたんすかリュクスくん?」
「イブリス、今何した?」
「何って……ええと。アイテムボックスに素材をしまったんですけど」
アイテムボックス……だと?
「詳しく」
「そ、そんなに珍しい能力じゃないっすよ。ええと、道具や素材を別空間に溜めておける生まれつきの能力っす。え、みんな出来ない感じっすか? 貴族なのに?」
「ぐっ……」
怒るな。
イブリスは煽っているんじゃない。
今まで貴族と接してこなかったから「魔法を使えるならこのくらいできると思ってた」くらいの認識なのだろう。
ブレファン時代、主人公は無限にアイテムを持つことが出来た。
特にそこらへんの設定は存在せず、メニューの【アイテムボックス】を開けば、所有しているアイテムの一覧が表示されていた。
つまり【アイテムボックス】は、アズリアの探知魔法と同じ、ゲームシステムと同じ能力ということになる。
使い手がごくまれにいると聞いてはいたが、まさかこんなところにいるとは。
「あんまり便利な能力じゃないっすよ? 自分の所有物しか入れられないですし」
「イブリス……あのさ。念のため、もう一度アイテムボックスを使うところを見せてくれないか」
「え? どうして」
「魔眼で解析してみたいんだ。どう?」
「まぁいいっすけど。これ魔法じゃないんで、コピーできるかわからないっすよ?」
「いいからとりあえず」
「分かったっす。じゃあ」
イブリスの背後から水筒が飛び出てきて、彼女の手に収まる。
そういえば今朝集合したとき、妙に軽装だなと思ったが、こういうことなら納得だ。
「ゴクゴク。ぷは、お水が美味しいっす。さてと。じゃあ次はしまいます」
「頼む」
「よっと」
水筒が再び何もない空間に吸い込まれ、消える。
「駄目だ……まったく解析できない」
やはりアズリアの探知魔法と同じ、ゲームシステムに類する特別な能力。
いわば世界のルールに準ずる能力だ。
そこに何かしらの仕組みや原理があるわけではなく、ただ「そうである」と定められているかのような事象は、魔眼で解析することはできない。
「くすっ……リュクスくんもそんな風に取り乱すんすね」
「俺をなんだと思ってるんだよ」
「もっと冷静で完璧な人なんだと思ってました」
「上手くいかないことばかりだよ。まったく、嫌になるほどね」
完璧なんてほど遠い。
「クスッ。じゃあ自分と同じっすね。自分も……理想にはまったく届かないっす」
「理想か」
理想。なりたい自分。
それが彼女にあることを俺は知っている。
だけど俺には……。
そういった理想というのが今のところ無い。
「理想の自分があるだけ、いいと思うけどな」
「え?」
「だってさ、後はそれに向かって走るだけだろ」
「言うのは簡単っすけど……ね」
そう言って、拗ねたようにプイっとしてしまう。
「はは。頑張ろうぜ。俺も応援するからさ。君が理想の自分になれるように」
「ほ、本当っすか? リュクスくんが側に居てくれたら自分……もうちょっとだけ頑張れる気がするっす」
「またリュクスさまが女を口説いている」ジー
「人聞きが悪いなネギー。俺は女の子を口説いたことなんて一度もないぜ?」
「まぁリュクスさまがそう思うならそうなんだろうな。リュクスさまの中ではな」
「なんだよそれ」
まぁいいや。
とにかく長居し過ぎた。
キメラのところへ早く向かおう。
さらに数分ほど進んだとき。
ソイツは唐突に現れた。
「誰か居る。ネギー」
「わかってる。イブリス。何かあったらネギーと逃げるぞ」
「了解っす……」
警戒しつつ、その男に近づく。
すると、そこに現れたのは……。
「魔王ルシェル……?」
森の中に立っていたのは、間違いなくゲームで見た魔王ルシェルだった。
2メートル近くの芸術品のような、鍛え上げられた肉体。
煌めく黄金の髪と吸い込まれそうな美貌。
そして、赤く輝く魔眼……。
間違いない。
リュクス(ゲーム版)から魔眼を奪い完全復活した魔王と同じ姿がそこにはあった。
ただ……気になることが一つある。
「全裸だ……」
「全裸だな」
「ひゃあ……///」
イブリスが思わず眼鏡の上から目を手で覆った。
「リュクスさま……あれが魔王なのか?」
ええと……ネギーは細かいこと気にしないだろうからいいか。
「見た目は間違いなく魔王……なんだけど。様子がおかしい」
どんな強者であれ、溢れ出る魔力を完全に抑えることはできない。
だがあの魔王からはそういったものは何も感じない。
それに、立ち振る舞いもなんだかおかしい。
全裸なのでそもそもおかしいというのは一端置いておくとして。
これで仁王立ちでもしてくれていればまだ風格もあるのだが、不安そうに手をもじもじさせている姿はどう考えても魔王の挙動ではない。(というか隠せ。大事な部分を)
「だがリュクスさま。股間にぶら下がっているアレは間違いなく魔王級だぞ」
「女の子がそんなこと言っちゃいけません。まぁ確かに、ちょっと大きいけどね」
ちょっとだけね。
俺、別に敗北感とか感じてないから。
「まぁ正体の予想はついた。おそらくヤツは魔王に擬態している何らかの魔物。ならやりようはある」
俺はかつて魔王復活教の幹部テンテリスの擬態を破ったあの魔法を発動する。
「――ヴォイドゼロ!」
魔眼で魔王を見て、魔法によるステータス変化や効果を無効化する魔法を使用する。
「あれ、変身が解除されないな……」
「じゃあ本当に魔王だったんじゃないか?」
「いや、そんなはずは」
「お……おおおおおお!」
俺の使ったヴォイドゼロは不発だったはず。
だが、目の前の魔王(フルチン)は突然感情を露わにし、歓喜に沸いている。
ソシャゲの最高レアを単発で引き当てた人くらい喜んでいる。
「す……素晴らしい。長年どうしようもなかった呪縛札の支配が……なくなっているではないか! ああ感動だ! 生きていて本当に良かった! こんな日が訪れるなんて」
「アイツ、頭がおかしくなったんじゃないか?」
「いや……というよりは」
言動から察するに、ヴォイドゼロによって、アイツを苦しめていた何かが解除された……って感じか?
ここでじっとしていても仕方ない。
ちょっと怖いけど聞いてみるか。
「喜んでいるところ悪いが、戦う意志はもうないのか?」
「これはこれは……このような姿で失礼しました」
「本当に失礼な姿だな」
「一人で心細かったので、一番強い者の姿を借りていたのです。今、変身を解除します」
フルチン魔王がお辞儀すると、その体が光につつまれ、姿を変える。
現れたのは、まるで人型のピクトグラムのような姿をした何者かだった。
顔の部分に目なのだろうか。白い○が二つついている。
あとは全部黒い棒人間のような姿だ。
「名乗るのが遅れて申し訳ない。私はピエール。種族はドッペルゲンガーです。この度は変態ジジイの呪縛から私を救って頂き、誠にありがとうございます」
こちらの困惑を他所に、ピエールと名乗った男? は綺麗にお辞儀をするのだった。
そして、俺を含めた三人は同時にこう思った。
「お前も変態じゃねーか」と。
***
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***
あとがき
この作品のアイテムボックスは「自分の所有物のみ」という制約のおかげで便利ではありますがチートってほどじゃないです。
そんな感じです。
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