第97話 異変

 キメラによってトルルルリが倒される少し前。


 ***


 ***


 ***


 ダンジョンのオリエンテーション前日。


 俺はイブリスと共に王都郊外の訓練場にやってきていた。


 木っ端微塵に破壊された管理棟の復旧がまだなので、馬車+徒歩の正規ルートを使うこととなった。


 ちなみに諸々の場所の距離感を軽く説明すると、まず王都全体を東京都と同じくらいに例える。


 十年祭が行われた王城が新宿。


 王立学園が吉祥寺。


 そして訓練場が高尾山。


 このくらいの距離感だ。


 厳密には違うけど、ちょっとわかりやすくなったんじゃないかと思う。


 そして、何が言いたいのかというと、転移ゲートを使わないと、学園からでも結構距離があるということだ。


 なので……。


「ぜぇ……はぁ……うう……引きこもり陰キャの自分にこの距離は辛いっす」


 普段まったく運動していないというイブリスは、移動だけでグロッキー状態になってしまった。


「リュクスくん……自分、もう限界っす」


「大丈夫だイブリス。限界ってのは越えるためにあるんだから」


「意味がわからないっす……帰りたいっす」


「はは。帰るって……また同じ道を戻るんだよ?」


「あっ……」


 イブリスの顔が青ざめる。


「進んだ方がよくない?」


「り、リュクスくんって結構怖い人っすか?」


「全然そんなことないよ? 大丈夫大丈夫。マジで死ぬラインってのは『あ、これ死んだかも』って思ってからもう少し先だから」


「なんで死を経験してきたようなこと言うんすか!? この人やっぱり怖いっす」


「コラ。リュクスさま、やり過ぎ」


 イブリスをからかっていると、後ろから脳天をチョップされた。

 もう一人の同行者、メイドのネギーである。


「イジメるのよくない」

「悪い悪い。リアクションが可愛いからつい」


 こういうからかい甲斐のある子って、以外と回りに居なかったからな。。

 親戚の子(前世の)たちを思い出して、つい遊びすぎてしまった。


 そう。


 今日は俺とイブリス、そしてネギーの三人で、キメラの様子を確認しにきた。


 体を小さくする魔道具に関してはとりあえず置いておいて、とにかくキメラの状態を見て対策を考えようということになった。


 キメラを見れば、何か使える魔道具や新しい魔道具を思いつくかもということだった。


 そして、ネギーを連れてきた理由は、単純にイブリスの護衛だ。


 万が一キメラと戦闘になった場合、ネギーにはイブリスを抱えて逃げてもらうつもりだ。


 俺一人でも、二人が逃げるだけの時間は稼げるはずだ。


「イブリスはネギーがおんぶしていく。ほら、掴まれ」

「わわ……大丈夫っす。それに、自分汗でびしょびしょで。汚いっす」

「ネギーは気にしない。リュクスさまも『汗だくはいいものだ』と常々言っている」

「え?」

「言ってないぞ」


 正確には「汗をかくのは気持ちいい」だ。


 日々のトレーニングの後に言っている。


 他人の汗だくの姿を「いいものだ」と言うこととはまったく意味が違うから、間違えないで欲しい。




 イブリスをおんぶしたネギーを伴って、管理棟の方へと進む。


 一時間ほど歩くと、模擬戦イベントで見かけた場所がちらほら見えてくる。


 この辺りをアズリアを抱えて走ったはずだ。


 あ、この辺はティラノと遭遇した場所かも。

 手を合わせておかなくちゃ。


 本人がその場に居たら「死んでへんわ!」って突っ込んでくるんだろうなと思いながら、先へ進む。


「ぐるううう」


 獣の唸り声がした。


「わんちゃんですかね?」

「いや違うな……ネギー」

「わかってる」


 ネギーが目を閉じて、周囲の気を探る。


 野生的な力を持つネギーは、周囲に居る魔物の気配を的確に探ることができる。


 俺も教えてもらったが、正確性は未だにネギーには敵わない。


「正面に3体。四足歩行」

「それだけわかればオッケー。ネギー、イブリスを頼んだぞ」

「当然。でもリュクスさまは? ネギーが助けなくて大丈夫?」

「当然」


 そんなやり取りをしていると、森の木々をなぎ倒し、3体のモンスターが現れた。


「デカいな……」


 大型トラックほどの大きさを持つ灰色の狼が3体。


 ええと、見たことあるけどなんだっけ。


「り、リュクスくん……あれはアイスウルフっす」


「知ってるのかイブリス」


「ええと、この眼鏡のおかげで」


「そうか……そうだったな」


 イブリスの眼鏡はただの眼鏡じゃない。

 見た魔物やアイテムの情報を分析できる魔法の眼鏡だ。


「アイスウルフ……氷土のダンジョンに生息する、A級冒険者が手こずる相手って……早く逃げるっすリュクスくん」


「慌てなくていい。あの程度の敵、リュクス様なら余裕」


「え……で、でも」


 心配そうなイブリス。


 無理もない。


 魔物と相対するのも初めての経験だろう。


 きっと震えているに違いない。


 だからここは……速攻で片付けさせてもらう。


「グルルル」


「なんで? なんでアイスウルフは襲ってこないっすか?」

「あれがリュクスさまの力。雑魚相手には、動くことも許さない」

「厳密に言うと、動いてはいるんだけどね。ゆっくりと」


 3体のアイスウルフはすでに魔眼で補足済み。スロウによって、全身の動きを超低速にしている。

 俺たちの喉元を食い破ろうと飛びかかっている最中なのだろうが、こちらに届くにはあと十日はかかるだろう。

 悪いがそんなに待ってやるつもりはない。


 明日から学校行事でね。


「手加減なしだ――ダークライトニング」


 頭上から降り注ぐ黒い雷が3体のアイスウルフを直撃。


 断末魔すら上げることを許さずその身体は消滅し、素材……所謂ドロップアイテムが地面に転がった。


「これが……魔眼の力。凄い……一歩も動かずに」


「便利だろ? ところでイブリス、怪我はなかった?」


「だ、大丈夫です。リュクスくんが守ってくれたから」


「それはよかった……それにしても」


 なんで訓練場にモンスターがいるんだ。

 まさか……ポパルピトが生きて……いや、それはない。

 ヤツは確実に倒したはず。


 じゃあキメラが何かしたのか?


「どちらにしても……調査する必要がありそうだな」


***

***

***

あとがき


アイスウルフはジジイが解き放ったモンスターですね。

美少女以外もちゃんと捕獲していて、周辺地域の制圧とかに使用されています。

ただ可愛がられることはありません。


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