第91話 遭遇
「レオン? おーいレオン。起きないなコイツ」
しょうがないのでレオンを抱えて保健室に向かう。
女体化した俺が意識のないレオンを抱えているというなかなかヤバい絵面なのでなるべく人目につかないルートを選んだ。
……つもりだったのだが、途中でクレアに出くわしてしまった。
「君、もしかしてリュクス? 女装……じゃないよね?」
「クレア……あの。これには事情があって」
クレアの目線が俺の頭からつま先までゆっくりと移動する。
そして、最後に背負ったレオンを見据えた。
いつもにかやかな笑みを浮かべているクレアが……真顔だ。
怖いなこれ。
怒った顔より怖い。
空気がピリつく。
一瞬が長いと感じたのは生まれて初めてだ。
まるで頭が時間を置き去りにしたかのよう。
じっとりとした汗が背中を伝う。
「え? もしかして……そういうこと?」
俺とレオンを交互に見ながらクレアは言った。
口元を押さえている。
「いや、察しが悪くてわからないけど、多分クレアが考えているようなことじゃない! 実はかくかくしかじかで……」
俺は事情を説明した。
「あはは! なるほどね。それは安心したよ」
「全然安心できる状況じゃないけどね!?」
「そっかー。今日一日で元に戻っちゃうのか。残念だね。こんなに大きいのに」
俺としてはそれでもかなり長いんだけどな。
あとクレアさん。さりげなく雄っぱい揉まないでもろて。
レオンを背負ってるから抵抗できないじゃないか。
「そうだ! リュクス、今夜私の家に来ない?」
「クレアの家に?」
「うん! 一緒にお風呂入ろうよ!」
「なっ!?」
一体何を言っているんだこの子は?
「この前レオンにさ。リュクスと一緒にお風呂に入ったのを滅茶苦茶自慢されたんだよね。凄くムカついたんだ」
「待って。レオンはなんでそんなことを自慢してんの!?」
どんな話の流れでそうなった!?
「流石に性別が違うから遠慮してたんだけどさ。リュクスが女の子になったならオッケーだよね? さぁ入ろう!」
「いやいやいや」
そんなん無理に決まってるだろ。
「どうして?」
どうしてって……。
ああなるほど。
レオンに自慢されたから、対抗意識を燃やしているのか。
「それはだな。……ええと。俺はクレアのことを親友だと思ってるんだよ」
「まぁ、当然だよね」
「レオンのことも親友だと思ってる」
「……まぁいいよ。続けて。何が言いたいの?」
だから真顔やめてって。
「レオンと風呂に入ったのは、別にレオンが親友だったからじゃなくて、男同士だったからってだけの理由だよ。兄さんとかとも入ったことあるし」
「じゃあ私と入れない理由って……」
「クレアが女の子だから。それも、大切な女友達だからかな」
「た、大切な?」
「うん。だからおいそれと男と風呂になんて入るべきじゃないと思ってる。レオンと比べてどっちが上とか下とかじゃないんだ。俺の中だとさ、男女で大切さが少し変わるんだよ」
上手く言葉にできたかわからなかったけれど、しばらく悩んだ後、クレアは少し赤くなって笑った。
「それって……レオンとは違う意味で、私のことが大好きってことだよね?」
「まぁ、そうなるかな」
「あはは。そういうことなら今日のところは我慢してあげるよ」
「ほっ……助かるよ」
「君を困らせるのは本意じゃないからね」
そう言って、クレアは笑った。
少し、顔が赤い。
おそらくレオンに張り合うために無理をしていたのだろう。
風呂を断られて、少しだけ安心しているようにも見える。
「じゃあねリュクス! 早く元に戻れるといいね」
「ああ」
次の授業は外らしく、クレアは駆けていった。
廊下は走るなーなんて、言う暇もないほどに早く。
「さて保健室に行くか……ん?」
なんか、おんぶしているレオンの手の力が強くなった気がするが……気のせいだよな?
***
***
***
「『大好き』か……ふふふ」
リュクスと別れたクレアは、嬉しさのあまり階段を駆け上る。
一気に最上階までたどり着き、勢い余って屋上にまで到達。
自分でもわからないが、凄く胸がドキドキしていた。
心臓と耳がくっついたようだ。
この嬉しさと切なさの正体がわからなくて。
「あはは! 爽やかだけどモヤモヤする。この気持ちはなんだろう!」
それを解消するため、次の剣術の授業で暴れまくるクレアだった。
***
***
***
あとがき
本当はサポ限の話にしようと思ったんですが、よく書けたので本編にしました。
真顔のクレアメッチャ怖そうようね。
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